home

ミステリの祭典

login
“文学少女”と神に臨む作家(ロマンシエ)

作家 野村美月
出版日2011年03月
平均点6.00点
書評数3人

No.3 4点 ボナンザ
(2021/03/16 22:34登録)
ななせは帆夏のための犠牲になったのだ・・・。

No.2 7点 じきる
(2020/12/10 12:03登録)
それぞれ重い背景を抱えたキャラクター達の物語を締め括る大団円。
シリーズ通して読んだ満足感で+1点です。

No.1 7点 おっさん
(2018/09/28 11:04登録)
終わり良ければすべて良し――かな?
ライトノベルというレッテルからは、ちょっと想像できないほど重苦しい、ドロドロの展開(がデフォルトの、このシリーズのなかにあっても、今回はことさら)を見せながら、最後は、綺麗にまとめてくれました。
“文学少女”シリーズの第7巻と第8巻(2008年5月、および同年9月のリリース)は、初の上下巻構成にして、シリーズ完結編です。人気を物語るように、このあとも、短編集や外伝が幾つか刊行されていますが、本編のストーリーは、既存の巻の伏線を回収し、ここできちんと終了しています。

語り手をつとめる井上心葉(いのうえ・このは)は、中学生時代、たまたま女性名義で応募した小説が新人賞をとって、覆面作家としてデビューを飾りながら、それが原因で深く傷つき、過去を封印し二度と小説を書くまい、他人と深いかかわりを持つのも避けようと心に決めて、高校に進学しました。
しかし、そこで“文学少女”を自称する先輩、天野遠子(あまの・とおこ)と出会い、この、明るくて聡明で、食べちゃいたいくらい本が好きで、ホントに紙ごと物語を食べてしまう(!?)謎の彼女に捕獲され、強制的に入部させられた文芸部の部室で、来る日も来る日も彼女のおやつ代わりに、三題噺を書かされる羽目に。
そんななか、周囲で起きたさまざまな事件を、遠子が持ち前の奔放な想像力で、文芸作品と重ね合わせて読み解き、関係者の絶望の物語を、希望の物語へ書き変えていくのに立ち会うなかで、彼の、傍観者的なスタンスも変わっていきます。
そして、第5巻『“文学少女”と慟哭の巡礼者(パルミエーレ)』で、心葉はようやく過去のトラウマを克服し、自分に好意を寄せてくれる、クラスメイトの琴吹ななせと付き合いはじめることになりました。
しかし。
遠子先輩と出会ってから、二年。彼女の卒業を間近にして、心葉は思いがけない事実に直面します。一番信頼していたはずの人に、自分は裏切られていたのか!?
本作『~神に臨む作家(ロマンシエ)』は、心葉が最終的に、自身の進路と向き合う話であり、その過程で、天野遠子とは何者だったのかを理解する、巡礼(探偵経路)の物語でもあります。
浮かび上がる、遠子の出生の秘密。幼い頃、その両親を襲った死にまつわる謎(毒は、本当にあったのか? 誰がそれを使ったのか?)。そして――この二年間、何を考えて、遠子は心葉の側にいたのか?
心の闇に囚われた多くの人を、光射す場所に導いてきた天野遠子も、自身、苛酷な現実という檻に囚われた存在であることが分かってきます。そこから彼女を解放するため、彼女から学んだやりかたで、“探偵役”としてクライマックスのステージに立つ心葉。対峙する、さながら凍てついた氷の壁のような相手に、彼の言葉は届くのか?

この、土壇場での探偵役の交代(と書くこと自体、ネタバラシでしょうね、でもこれは、書かずにいられない。お許しを <(_ _)>)という趣向が活きています。謎解き自体はアマいものですが、たとえ蟷螂の斧であっても立ち向かっていく、息詰まるような心理対決の演出がそれをカヴァーしています。

それにしても、野村美月は、どんなミステリを読んできたのかしらん? “文学少女”シリーズのなかで、さまざまな文芸作品を語りつくしてきた遠子先輩が、不思議とミステリに関しては話題にしない(第2作『~飢え渇く幽霊(ゴースト)』で、ギャグ的なセリフの中に、クリスティ、クイーン、赤川次郎の名前が並列されているくらいか。第4作『~穢名の天使(アンジュ)』は、ガストン・ルルーの『オペラ座の怪人』がモチーフになっていて、ルルーに関する言及のなかで『黄色い部屋の謎』は出てくるものの、当の『オペラ座の怪人』はあくまでゴシック小説として扱われている)ので、よく分かりません。
語り(騙り)のテクニックへの関心は、あるいは「新本格」の影響もあるかもしれませんが、信頼できない語り手という、文学方面からのアプローチにも思える(各巻で、心葉の一人称記述と併用されてきた、謎めいたナレーションも、第5作『~慟哭の巡礼者(パルミエーレ)』あたりからは、トリック的な意味合いとは別な性格を帯びてきており、それは本作でも同様です)。

この『~神に臨む作家』を読んで、筆者が思いを馳せたのは、P・D・ジェイムズでした。ちなみに、これまで本サイトに投稿してきた“文学少女”シリーズのレヴューのなかで、筆者が引き合いに出してきたミステリ作家を振り返ってみると――トマス・H・クック、マイクル・コナリー、ジョン・ル・カレ、ジェイムズ・エルロイ……ですね。何か凄いなあw
それらの作家たちを、野村美月が読んでいるかどうかは、分かりません。ただ、学園もののライトノベルにミステリ的な方法論を導入するにあたり、野村美月が採用したのが、古典的な本格のギミック(漫画で、そちらを実践したのが、たとえば『金田一少年の事件簿』といえるか)ではなく、上述のような、海外の“現代”作家に接近するような試みであったことは、記憶にとどめておきましょう。
これでもう少し、各巻のプロットを、きちんと練り上げてくれていればなあww

さて。
遠子先輩の過去を描くということで、これまで“お約束”として目をつぶってきた、ファンタジー要素とリアルの結びつけにどうしても目がいくことになってしまいますが、そこは正直……微妙です。ただ、後半、岩手県の病院である人物の発する「まあ、遠子ちゃん! 『遠野物語』の遠子ちゃん、そうでしょう?」というセリフには、膝を打ちました。寛容の精神で受け入れるが吉、か。

毎回、内外の文芸作品をモチーフにしてきた本シリーズ、大トリの元ネタは、ノーベル賞作家アンドレ・ジッドの『狭き門』です(うへえ。この歳になって、図書館から世界文学全集を借りてきて、読むことになるとは)。愛を突きつめてバッドエンドに至る、理不尽な(でも、だからこそのブンガク)『狭き門』へのアンサーソングが本作、ということで、ハッピーエンドに至るルートが示されて、『~神に臨む作家』は幕を閉じます。
まさに「綺麗にまとめてくれました」。
あえて難癖をつけるなら、でも綺麗(事)にまとめすぎ、かな? 本当は、もっとグチャグチャになるでしょうwww
しかし、ま、前作(仕込み作)『~月花を孕く水妖(ウンデイーネ)』のトホホな出来から、よく持ち直しました。
いちおう7点をつけましたが、これは本来、シリーズ総体で評価すべき作品だと思います。であれば、“文学少女”シリーズとして8点。
うん、楽しい読書体験をさせてもらいました。

3レコード表示中です 書評