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ミステリの祭典

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“文学少女”と月花を孕く水妖(ウンデイーネ)

作家 野村美月
出版日2011年02月
平均点3.00点
書評数3人

No.3 4点 ボナンザ
(2021/03/13 20:05登録)
ここで先輩メインの話にしてヒロイン感出さないと最終章でななせがあんまりにもあんまりですからね・・・。

No.2 4点 じきる
(2020/12/10 11:59登録)
最終章前の箸休めといったところか。

No.1 1点 おっさん
(2018/03/24 09:11登録)
ライトノベル作家・野村美月の“文学少女”シリーズ第六巻。
遠子先輩の卒業へ向けて、時計の針を進めてきた作品世界の時間を、少し巻き戻し(時系列では、第二巻『~飢え渇く幽霊(ゴースト)』の、すぐあとの挿話になります)、舞台を学園から、学園理事長の所有する、いわく因縁のある山あいの別荘――八十年前に妖怪の仕業とされる惨殺事件が発生、その祟りがいまなお続く――に移して、理事長の孫娘の画策により、そこに滞在する羽目になった、語り手の心葉(このは)たちが体験した、忘れがたいひと夏の出来事を描いた番外編、なのですが……

う~ん、これはちょっと。雑すぎる。
“文学少女”シリーズ本編は、このあと上下巻の『~神に臨む作家(ロマンシエ)』で完結するようですが、それを意識した布石――心葉の現在進行形のナレーションと並列される、恒例の、ゴシック体の文章による謎めいた語りも、今回は本題の事件のミスリードとしてはうまく機能しておらず、結局のところ、思わせぶりな、寸断された「次回予告」で終わってしまっている――に気をとられすぎたのでしょう、プロットが、二の次三の次になってしまいました。本末転倒です。
ミステリ的要素を盛り込んだシリーズのなかにあっても、本作は表面上、もっとも(国産の、テンプレ的な)本格ミステリに接近しており、それがかえって、ディテールの詰めの甘さという、作者の弱点をクローズアップする結果にもなっています。
現在の事件(あたかも屋敷の取り壊しを阻むかのように、伝説の妖怪が姿を現す!?)を契機にして、“文学少女”の豊かなイマジネーションが、諸悪の根源たる過去の惨劇に、新たな解釈を施していく。
その、現在の事件をめぐるアレコレのいい加減さも相当なものですが、何よりマズイのが、八十年前の惨劇の真相。謎の提示に誤魔化しがありますし(ある人物の死体が発見され、埋葬された経緯が不明。結局見つからなかった――だって妖怪に食べられてしまったから――でお茶を濁すならともかく、かりにも埋葬されている以上は、事前の検視をスルーするわけにはいきません)、問題の犯行が、指摘される人物に実行可能だったとはとても思えない。屋敷を血の海と化す大量殺人ですよぉ。なんでこんな無謀なシチュエーションを導入したかなあ……
って、理由はハッキリしてますけどね。“文学少女”シリーズを、ほかのラブコメものライトノベルと差別化してきた、ミステリ風味と並ぶもうひとつの特徴が、内外の文芸作品の本歌取り。で、本作のモチーフに選ばれたのが、泉鏡花の戯曲「夜叉ヶ池」なわけです。当該作のクライマックスでは、荒れ狂う竜神・白雪が洪水を起こし、村と人を水底に沈めます。その竜神の怒りを、作者は本作の過去パートにどうしても重ね合わせたかった――となると、その趣向のためには、そりゃあ犠牲者は一人二人じゃ全然足りない、となりますよ。
なりますけどねえ……
あ、筆者は途中で視聴を断念してしまったのですが、アクションもののマンガを原作とする、『文豪ストレイドッグズ』なるアニメがありまして、そこには「マフィアに拾われて、六ヶ月で35人殺した」という、14歳の少女・泉鏡花(!)が登場します。でもって彼女はですね、異能の持主でありまして、「夜叉白雪」という、甲冑武者姿の人外のものを召還できるわけです。こいつが滅茶苦茶強い。本作『~月花を孕く水妖』の過去パートの犯人も、あるいは異能の持主だったのかしらん。以下、ややネタバラシになりますが――
いちおうこの犯人にも、“相棒”が存在したことにはなっています。なっていますが、それは「滅茶苦茶強い」とは真逆で、無理に輪をかけるだけの存在でしかないのです。
これが島田荘司なら、見てきたような嘘を豪腕で畳掛け、読者を力づくでねじ伏せるのでしょうが……さすがに野村美月にそれだけのパワーは無かった。まあ、フツーの作家には、ありません。だからこそ、お話をつくりこみ、意外性に説得力を持たせる必要があるのですが、その点で本作は失格というしかありません。新人作家がこの原稿を持ち込んだら、突き返されるのは必至。しかし人気シリーズということで、編集者のチェックも甘く、四ヶ月に一冊というシリーズの刊行ペースを守ることが第一で、妥協してしまったんだろうなあ。

前作『~慟哭の巡礼者(パルミエーレ)』の「あとがき」で、作者は次回に「(……)番外編が入る予定なので、本編でなかなか書けない人たちのフォローもしてあげられたらいいなと思っています」と記していました。
本作でスポットが当てられている、学園理事長の孫娘・姫倉麻貴は、シリーズのレギュラー陣のひとりで、とりわけ第二作『~飢え渇く幽霊』では面白い役割を演じていました。そんな、魅力的なバイプレイヤーの多面性を描き、一族の血の絆に束縛された麻貴――もまた、水の檻に囚われた「夜叉ヶ池」の白雪のイメージに重なる――が、その呪縛から解放されていくことを示すエピソードは、作者としても、形にして残しておいてあげたかったのでしょう。書き手のパッションは確かに伝わってきます。
ただ、いっぽうで本作は、“探偵役”の天野遠子を、後輩の心葉との関係性に決着をつけるであろう(はずの)、来るべき最終話へ向けて、ラブコメの“ヒロイン”――シリーズ本編では、ひとまず心葉の友人の琴吹ななせが、その位置をゲットしたかに思われるのですが――として見つめなおすエピソードでもあるわけで、そのふたつのエピソードを、ひとつの番外編でいっしょにやろうとしたところに、無理があったように思います。

相変わらず、次作への引きは巧い。
正直、今回はこの「エピローグ」だけで良かったかな (^_^;)

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