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ミステリの祭典

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ゲームの王国

作家 小川哲
出版日2017年08月
平均点7.00点
書評数3人

No.3 7点 小原庄助
(2022/12/11 08:10登録)
物語の幕が開くのは、一九五六年のカンボジア。サラト・サルの娘が、捨て子としてプノンペン郊外に住む夫婦に引き取られる。ソリヤと名付けられた彼女は、他人の嘘を見破る能力を持っていた。一方、ロベーブレソンという農村で生まれ育った潔癖症の天才少年ムイタックは、兄と一緒に「どれだけ楽しんだか」自体を競うような遊びを考える。
ポル・ポト率いるクメール・ルージュが革命を成し遂げた一九七五年四月十七日に、ソリヤとムイタックは出会う。二人がカードゲームで対決するシーンがまず素晴らしい。彼らはその時、決められたルールのもとで互角の戦いを繰り広げる楽しさを初めて知るのだ。
やがて始まるポル・ポト独裁政権下の粛清と虐殺の嵐のなかで、ソリヤは政治以下を志し、ルールを破ることが出来ない「ゲームの王国」を創ろうとする。ある事件が原因でソリヤを殺すと決めたムイタックは、人間の脳波を研究して思い出や妄想を魔法に変えるゲームを完成させるが。
二〇二三年に二人が再会するまでの経緯をスリリングに描く。百万人が殺されたとも言われる史実をもとにしているだけに恐ろしい場面は多いが、輪ゴムを崇拝する少年や不正を勃起で探知する男が出てくるくだりはユーモアもにじむ。

No.2 7点 虫暮部
(2020/02/29 11:25登録)
 アジアを舞台にしたこういう感じの話はあまり読んだことがないので新鮮だった。どの程度虚実が入り混じっているのか知識が無いので判断出来ず。
 媚びていないのに読み易い文章で、神経衰弱のようにばら撒かれたそれぞれのパーツがまず面白い。更に、大きな物語としてどっちに向かっているのか、どこまで読んでもさっぱり摑めないところが素晴らしい。登場人物の関係性がごちゃごちゃしていてそれなりの障壁だけど、頑張る甲斐はあった。

No.1 7点 糸色女少
(2017/12/20 22:45登録)
ポル・ポトの隠し子とされる少女ソリヤと、天才少年ムイタックを主人公に、カンボジアの変転をつづる。
彼らが暮らす社会は矛盾や不条理に満ちている。それはポル・ポト以前も以降も変わらない。警察は疑惑を抱いただけで連行し、話も聞かずに犯人だと決め付ける。全く話が通じない。陰謀やでっち上げというレベルではなく、論理とか事実の検証という思考自体が、この社会に欠けている。それが何より恐ろしい。
公正なルールが存在するゲームのような世界を夢見た少年少女は、激動の歴史に翻弄されながら、それぞれの方法で「正解」を探し続ける。政治家となったソリヤは理想実現のために権力を求め、科学者となったムイタックは、ゲームの生み出す仮想現実により、全ての人を満足させようとする。だが、求めれば求めるほど、理想は彼ら自身の中でゆがんでいく。
上巻では抑圧的な社会の実態が生々しく描かれ圧巻だが、下巻では、それを克服しようとする営為の中に内在する新たな抑圧がえぐり出され、慄然とさせられる。

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