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ミステリの祭典

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シグニット号の死
フレンチシリーズ

作家 F・W・クロフツ
出版日1985年02月
平均点5.67点
書評数3人

No.3 5点 レッドキング
(2023/04/15 19:33登録)
クロフツ第二十一作。十八番の船上殺人プロットに、ナンと嬉しや久々の「密室」付き・・カー「爬虫類館」レベルだけどね・・ 期待しなければ、それなりに・・再放送「科捜研の~」「捜査一課長」並みには・・面白いクロフツ。WhoWhyドンデン返しもナカナカよく・・もちっと犯人のキャラ掘下げほしいが・・クロフツだからね・・

No.2 7点 E-BANKER
(2022/04/15 22:38登録)
「フレンチ警部と漂う死体」に続くフレンチ警部シリーズで17作目の長編。
ある大富豪を巡る失踪事件、その後に続く密室殺人事件がテーマとなる。
原題“The End of Andrew Harrison”。1936年の発表。

~船室は密室状態だった。ベッド脇のテーブルには塩酸入りのデカンタと大理石が入ったボウルが載っていた。そしてベッドには船の持ち主で証券業界の大立者が死んで横たわっていた。死因は大理石の酸化で発生した炭酸ガスによる中毒。自殺だろうか? いやとフレンチはかぶりをふった。二週間前に起こったこの富豪の失踪騒ぎも株価を操作して大儲けするために打った芝居とまで言われている。そんな欲の塊のような男が自殺するだろうか?だが他殺を疑うフレンチの前に容疑者のアリバイは次々と立証されていった~

多くの方は「いつものクロフツでちょっと退屈・・・」と思うのかもしれないけど、私個人としては「いつものクロフツでなかなか面白かった」という感想である。
今回のフレンチもかなり苦労する。終章近くになりようやく真犯人の姿が見えてきたと思いきや、次々とアリバイが成立してしまうという窮地に陥る。このページ数で解決するのか?と読者ながら心配したことろへ、突然(唐突?)に訪れる光明!これが契機になり、スルスルと真犯人が判明してしまう。
じゃぁ、これまで散々読まされてきたフレンチの捜査行は一体何だったの?っていう感想も分かることは分かる。
でも、それこそが「リアリズムの良さ」なんだと思う。
とにかくフレンチは一生懸命である。無駄の可能性が高い脇筋にも丁寧に当たる。これこそが名探偵ものミステリーとは一線を画すクロフツの醍醐味に違いないし、これがなければクロフツではない。

ただ、既視感があるプロットなのは確か。
今回は富豪の家族内のいざこざというのが株価をめぐる真の動機を隠すうまい煙幕となっているのか・・・と思いきや、そこはさすがに作者も工夫してきてる。ただ、テイストとしては「マギル卿」や「英仏海峡」に近いし、そこら辺りはまぁ・・・いいっていうとこで。
でも、読了後は十分な満足感を得た。
あと、他の方も書かれているとおり、巻末の紀田順一郎氏の解説はなかなか読み応えがあり、的確なクロフツ評になっていると思われる。

No.1 5点 人並由真
(2019/08/31 14:21登録)
(ネタバレなし)
 その年の五月初旬、上流階級の子息の青年マーカム・クルーは、極楽とんぼの父親の急死と家財を管理する弁護士の使い込みのために無一文になり、父の戦友だったヘブルワイト元大佐の紹介で、大富豪の証券業者アンドルー・ハリスンの秘書となる。ハリスンは成り上がり者で貴族階級に憧れ、上流階級との社交の指南役としてクルーを雇った。だがクルーは、ハリスン家や彼の会社の周囲に渦巻く人間関係の軋轢を目にする。そんな矢先、ハリスンが失踪。ハリスンの会社は株が大暴落する大騒ぎになるが、少ししてハリスンは大事なく帰還。政府関係の秘密の業務で不在だったと弁明した。そんななか、ハリスンの持ち船でテムズ川に浮かぶ屋形船シグニット号で数日簡に及ぶ懇親パーティが開かれるが、その夜、船内の密室でハリスンの変死死体が発見される。

 1938年の英国作品。創元文庫版のトビラを一読すると、密室ものプラス複数の容疑者のアリバイ崩しの検証と、パズラーとして面白そうである。
 しかし実際のところ、密室の方ははあ、そんなものですか? 的に腰砕けに終るし(同じ英国の大作家の某作品を連想する人も多いだろう)、アリバイ崩しの方も、地味でどちらかといえば悪い意味でのリアルな、足を使った地取り&聞き込み捜査が、延々と語られるだけ。
 これはパズラーというより、フレンチほかの警察側の奮闘を語った警察小説だよ(今回の彼の相棒は『船から消えた男』などと同じく、若手のカーター刑事)。しかも前述のように丁寧で細かすぎる叙述が今回はアダになって、あまり面白くない。
 犯罪の実態が(中略)と判明する趣向と、あまりにも意外な犯人があえて言うなら本作の魅力だが、後者に関しては読者の隙を突いたとか犯罪を実行不可能と目されていた容疑者が実はやっぱり……系の意外性ではなく、単に真犯人がフレンチの視界に入らないというか、意識にのぼらないように描かれ、それゆえ読者も遮光されていただけのような……。いや、真相が発覚してみれば、真犯人の殺意に至る心理そのものは非常にリアルで説得力のあるものなんだけどね。

 面白い文芸や趣向をいくつか用意して盛り込みながらも、それらがたわわな実を結ぶことはなかったという感じの、不発気味の一遍。
 フレンチが株に手を出して、500ポンド損したとかいう人間臭い描写は良かった。
 あと創元文庫版の巻末の紀田順一郎のクロフツ論は、とても読み応えがあり。個人的には、このヒトの書いたミステリ関係の文章の中で最高クラスのひとつに思える。

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