home

ミステリの祭典

login
素敵な日本人

作家 東野圭吾
出版日2017年03月
平均点6.67点
書評数3人

No.3 7点 Tetchy
(2021/06/09 23:34登録)
2020年、東野氏は作家キャリア35年目を迎える。本書は2017年に刊行された短編集だが、雑誌掲載された短編を集めた物。最も古い収録作は1作目の「正月の決意」で2011年の作品で最も新しいのは「壊れた時計」で2016年の作品。
この事実を知って驚かされるのはそれぞれの作品のレベルが水準もしくはそれ以上の出来栄えであることだ。このことについてはまた後ほど語ることにしよう。

季節の行事を絡めた4編と異色のミステリ短編5編を収録。
本書の背表紙の紹介文では季節の行事をテーマにした短編が収められていると書かれている。この季節の行事を扱った作品は「正月の決意」、「十年目のバレンタインデー」、「今夜は一人で雛祭り」、「クリスマスミステリ」の4編。
これらのうち前の3作はそれぞれ1月、2月、3月の行事をテーマにしていることから当初は各月の行事を扱ったミステリを書こうとしたのではないだろうか。しかしさほどアイデアも固まらず、その後一気に12月の行事クリスマスをテーマにしたことからも察せられるように途中から行事に固執しない自由なテーマを扱った内容にスイッチしたのかもしれない。
その自由なテーマとは合コン、疑似家族、闇サイト、猫のブリーダー、俳優志願の男と様々でまたジャンルもミステリに特化せず、日常の謎系、倒叙物、SFからハートウォーミングと様々だ。
そしてそれぞれの作品には小技が効いており、話の内容に無理を感じさせない―いや中には感じるものもあるが―。

本書のベストを挙げるとなると、「レンタルベビー」と最後の収録された「水晶の数珠」になるか。
前者は未来の育児のための予行練習として精巧な赤ん坊ロボットをレンタルするビジネスがあり、それを利用するカップルの子育て奮闘ぶりが描かれるが、これ自体はさほど目新しさを感じない設定である。独身女性が一人の赤ん坊に翻弄されるというのはよくある話なのだが、東野氏が優れているのはそんなありきたりな設定に二重三重にサプライズを仕掛けていることだ。あまり育児に協力的でない彼氏の正体というサプライズに更に主人公の女性自身にサプライズがある。上にも書いたがこれは星新一氏の切れ味鋭いショートショートに似た読みごたえを感じた。
後者は東野氏お得意のハートウォーミングSFだ。名家の長男が代々引き継ぐ水晶の数珠の秘密は一度だけ時を戻せるという物。しかしこれも今ではよくある秘密であるが、そこに“いつ父親がその力を使ったのか”という謎を見事親子の愛に繋げる東野氏の憎らしいまでのテクニックに唸らされるのだ。まさに本書のタイトル“素敵な日本人”のお話なのだ。

やはり東野氏は短編も上手いと改めて感じた。ウェブ上では東野作品は短編よりも長編が好きという感想が多く見られるが決してそんなことはない。短い中にも予定調和に終わらないツイストが盛り込まれており、最後にアッと云わされた。
通常ならば作家のキャリアも30年を過ぎればアイデアが枯渇し、いわゆる物語や結末に切れ味が無くなっていく。いや一流のベテラン作家ともなると凡百のアイデアをそれまで培った小説技法で上手く料理し、水準作ぐらいには仕上げるだろう。
しかし東野氏はどうだ。本書に収められた作品の数々はいまだに読者の想定を超えたサプライズに満ちている。
作家キャリア26年目から31年目の5年間という発表年月の幅があるが、そのどれもが水準作もしくはそれ以上の出来栄えである事に驚かされる。

つまり今、日本のベストセラー作品を35年目の作家が叩き出していることが凄いのである。

我々は本当に幸せな時代に生れたと感謝すべきだろう。なぜなら私たちには東野圭吾氏がいるからだ。

No.2 7点 makomako
(2020/05/03 08:32登録)
 短編編集ですが、それぞれのお話が全く別のもので何のつながりもありません。
 本格物から、SFまであります。
 こういった内容ですと多くは出来不出来が気になることが多いのですが、さすが作者は語り口がうまくどの作品もスラスラと読めます。
 逆に言えば、凄い、といったものもあまりないのですが、平均点高く粒ぞろいとも言えます。

No.1 6点 まさむね
(2017/11/18 11:45登録)
 9編から成るノンシリーズの短編集。そつがないよなぁ、というのが率直な感想ですね。1編30ページ程度の分量の中で、スッと物語に入らされて、ストンと落とされる感じ。
 落され方が印象的な「レンタルベビー」と、グッときた「水晶の数珠」が良かったですかね。逆に、倒叙形式の2編はそうでもなかったかな。
 全短編に独創的な仕掛けが施されている訳ではないので、どのような期待感をもって読まれたかによって評価は分かれるような気がしますが、個人的には、こういう安心して読める短編集って嫌いじゃないです。

3レコード表示中です 書評