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ミステリの祭典

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探偵が早すぎる

作家 井上真偽
出版日2017年05月
平均点5.33点
書評数3人

No.3 4点 いいちこ
(2020/05/06 17:14登録)
本作の立ち位置は理解しているが、これは私が著者に期待している方向性ではない。
着想のオリジナリティこそ買うものの、それだけの作品。
推理プロセスに論理性が皆無というつもりはないが、過去の作品で見せた著者のポテンシャルを考えれば、本格ミステリとして評価すべき点は何もない。
全体として2時間テレビドラマの平均水準を超える点がないと批判的に評価したい

No.2 6点 makomako
(2017/12/17 11:19登録)
 推理小説の名探偵は事件発生を防げないという、本格推理小説のお約束事を破ったお話です。
 犯罪を犯そうとする人が次々と登場しいろいろなトリックが出てくる。名探偵はそれを事前に見破ってたくらんだ犯人へしっぺ返しする。なかなか面白い発想です。
 一応長編小説ですが、連作小説を組み合わせたような形態です。犯罪をたくらむ人物たちは、およそ人間的感情を持たない異常な人ばかり。狙われる人物は逆に感情が先走る普通のお嬢様。親戚が全員これほど多分先天的に異常な家族にひとだけまともな人間が生まれるだろうかなどとなどは思わないで読んでいけば、作者の切れ味の良い頭から作り出されたお話はまあ楽しめます。
 でもやっぱり推理小説のお約束が外れるというのは若干変な感じがしました。 銭形平次が投げた銭が外れて犯人が逃げましたといった感じです。

No.1 6点 人並由真
(2017/11/09 18:47登録)
(ネタバレなし)
 女子高校生・十川一華は、日本有数の超富豪の庶子だった父の急死により、いまは重篤の状態のくだんの祖父から、その祖父の死後、総額五兆円の遺産をいずれ受け取る権利を得る。だがその巨額の財産を狙い、一族の魑魅魍魎のごとき面々がそれぞれに考案した暗殺計画を競うように、一華を事故に見せかけて殺そうとする。一華が唯一信頼を寄せるのは、不愛想ながら有能で、ひそかな人間味を秘めている家政婦・橋田だった。そんな橋田は一華の身を守るため、一人の人物を呼び寄せた。かくして殺人事件の発生以前に犯人のトリックを暴き、さらには時に同じ手段で主犯や実行犯に処罰を与える「トリック返し」の名探偵の活躍が始まる。

 作者らしい、キャラクターの立った外連味ゆたかなミステリ。
 上下二分冊の長編は、連作短編集的な構造にもなっている。
 富豪一族の面々が順々に暗殺計画を思いつき、実行犯に選ばれた庶民や関係者が殺人計画の実働に臨むが、探偵がそれを事前に見破るというのがパターン。
 つまり倒叙ミステリ連作の変奏的な作品で、しかも連作といっても共通してるのが探偵ばかりでなく、被害者(予定の人物)まで一貫してるというのがケッサクである。
 この大枠のなかで読者は毎回、全体図の見えない各エピソードを探りながら「そもそもどのような殺人手段なのか」さらに「どのようにして探偵はその暗殺計画を見破ったのか」などの謎解きと向かいあうことになる。
 相当数の殺人計画およびその暴露に至るネタを揃える必要があるため、中には薄口なものや悪い意味でマンガチックなもののもあるが、ハイテンポな展開の中で十数もの殺人プランが次々と進行し、その大半がヒロインの視野の外で見破られていくというダイナミズムはたしかに面白い。富豪一族のなかで最強のラスボスになるのはこの人物か? それとも? と途中の経過を楽しむ少年漫画的なオモシロさもある。
 かたやラストのどんでん返しは想定内だが、作者はそこにある種の観念を盛り込もうとしている感じで、そういう姿勢はキライではない。全体の軽さも良い方向に作用した印象がある。あんまり年齢層の高い読者向けではないという感じもするが(まあ実際、タイガ文庫はラノベレーベルの一派だろうし)、今年のそれなりの秀作としてミステリファンから支持されてほしい作品。

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