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ミステリの祭典

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失われた過去と未来の犯罪

作家 小林泰三
出版日2017年06月
平均点5.33点
書評数3人

No.3 5点 糸色女少
(2018/03/21 11:29登録)
記憶や思い出と「現実」のズレをめぐる物語。
ある日、書いた覚えのない自分の書き込みに驚いた女子高生は、記憶が短い時間しか保てなくなっていることに気付く。彼女だけではない、全ての人間が記憶障害に陥っていた。
やがて人類は、長期記憶の喪失を、身体に埋め込む外部メモリーで補うようになる。しかし「わたし」のなかには、何人分もの記憶や思い出が詰まっていた・・・。
情報記憶と感情の関係から、自意識や意思の生成までを視野に入れた物語。

No.2 7点 虫暮部
(2017/10/17 08:52登録)
 全体的にそこまで“犯罪”という要素を前面に出した話ではないので、このタイトルはどうなのか。期待したほどミステリ寄りではない。
 双子の姉妹のエピソードは「双生児」(『完全・犯罪』収録)と同じ基盤を別方向に発展させたもの、だよねぇ。面白くはあるがこういう使い回しは感心しないなぁ。 
 と、引っ掛かる点はあるが、論理の積み重ねがいつの間にか歪でスラップスティックな情景を作り出す手法は粘着質な作者ならでは。“記憶”というテーマは小林泰三SFの特質に合っているのだろう。但し本作はグロ抜き。

No.1 4点 HORNET
(2017/09/16 10:47登録)
 ある日突然、全人類の記憶が10分ともたなくなり、世界がパニックとなる。自分が誰であるか、などの基本的な情報は残っているが、10分おきに「あれ?今何してたんだっけ?」「ここはどこだ?」ということの繰り返しになる。そういう状況(短期記憶喪失)になったということの理解も毎回しなくてはいけないので、しばらく世界は麻痺するが、やがて少しずつ状況把握をし、対策が積み重ねられ、数年後には身体に挿し込む「外部記憶装置」が開発され、人々はそれに頼って生活するようになる。
 しかし、この身体に挿し込む「外部記憶装置」は、ある肉体に挿し込めば「その人」なれてしまう。例えば肉体が死を迎えても、「外部記憶装置」が破壊されず残されれば、他の人の体で「再生」することもできる。結局、人格とは、「人」とは、記憶なのか?魂というものは存在するのか?そもそも生とは、死とは、現実とは何なのか?・・・そんな感じの一種の哲学的(?)な内容に話が及んでいく。
 「大忘却」が起きてからのさまざまな場所でのエピソードが脈絡なく描かれる展開が続くので、正直ややこしい。いくつかのエピソードは、結局そのまま置き去りにされていると感じる(「あの話は何の意味があったの?」って感じで)何が描きたかったのかよくわからなかった。

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