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ミステリの祭典

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三つの道

作家 ロス・マクドナルド
出版日1962年09月
平均点3.50点
書評数2人

No.2 2点 クリスティ再読
(2019/01/27 22:19登録)
アメリカ人の精神分析好きには閉口するのだが、ケネス・ミラーとしてのラストはフロイディズムずっぽりのサイコスリラーみたいなもの。乗艦の沈没で帰宅した主人公が、妻の他殺体を発見して記憶喪失に陥る...主人公の世話を買って出た元婚約者が、主人公の社会復帰をサポートしてくれるのだが、主人公は妻の殺人の真相解明に固執してそれを調査しようとするのだが、元婚約者は不可解な動きをする...
で、言うたら何なんだけど、この主人公、不快な奴だな。身勝手きわまりなくて、元婚約者に同情することしきり。サイコスリラー風味なせいか、文章が悪い意味で文学的。表現をこねくり過ぎていて、やたらと古風に見える...それに輪をかけるのが、井上勇の翻訳である。本当に持って回ったような堅苦しい翻訳になっていて、評者でも中々ページが進まないや。え、なんでこの人なの?と思うような訳者の選択である(せいぜい井上でも、井上一夫くらいにして欲しいよ。妙な訳が多くて評者、困った)。

彼は眠れぬ夜、部屋が闇と静寂が包んだとき、いちばんよくものを考えることができた。真夜中もとっくにすぎて、目をあけたまま横たわり、現在のはしの突端から、後方に伸びる記憶の荒野を測量していた。その一生を説明する動因は、距離の半分以上が地下を流れる川のように、たどるに困難だった。

...プルーストかいな(苦笑)。なので本作、他の作品と違って本当に出来事が少ない。複雑怪奇に事件が縺れに縺れるロスマクと違って、ろくな事件も起きない。でしかもね「読者をバカにしてんの?」と問い詰めたくなるような真相である。娯楽目的で本作を読むのはホント引き合わない。入手性も悪い作品だけども、読むのはどうしてもロスマクをコンプしたい読者だけで十分である。

No.1 5点
(2017/02/12 22:43登録)
最初ケネス・ミラー名義で発表された第4作は、まさにハードボイルドだった前作『青いジャングル』とは全く異なり、記憶喪失を扱ったプロットだけ見れば、書き方によっては奥さんのマーガレット・ミラー風にもなりそうな、サスペンスものでした。まあアクション・シーンもありますし、さらに主人公が愛より大切なものは「正義だ」と言ったりもするのですが、「本とか映画のなかをのぞいては、正義なんかどこにもないわ」と反論されています。
三人称形式で何人かの主要登場人物の視点を切り替えていく手法は、ミステリ的な狙いとしてはわかるのですが、全体的なまとまりという点では疑問です。かなり早い段階で、真相の見当はついてしまう読者が多いでしょうが、最終章のまとめ方は、意外でした。
なお井上勇の翻訳は、ヴァン・ダインやクイーンはかなり好きなのですが、ロス・マクについては相性が悪いように思えました。

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