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ミステリの祭典

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臨床真実士(ヴェリテイエ)ユイカの論理 文渡家の一族
本多唯花シリーズ

作家 古野まほろ
出版日2016年04月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 7点 メルカトル
(2020/03/27 22:09登録)
言葉の真偽、虚実を瞬時に判別できてしまう。それが臨床真実士と呼ばれる本多唯花の持つ障害。大学で心理学を学ぶ彼女のもとに旧家の跡取り息子、文渡英佐から依頼が持ち込まれる。「一族のなかで嘘をついているのが誰か鑑定してください」外界から隔絶された天空の村で、英佐の弟・慶佐が殺された。財閥の継承権も絡んだ複紙な一族の因縁をユイカの知と論理が解き明かす!
『BOOK』データベースより。

派手な殺人事件やトリックなどはありませんが、ユイカが自身の持つ障害を駆使して容疑者(ほぼ全員)の真偽を判別しつつ、論理展開でもって真相に迫る過程は大変読み応えがありました。ただ、私は頭が悪いので、最初の真偽に関する方程式的な解明は正直十全に理解できたとは言えません。
それでも、孤立した村で起こる骨肉の争いと、それに対するユイカという異分子の絡みが何とも言えない独特の雰囲気を醸し出していると思います。

道中であれ?と感じる違和感が幾つかあり、それらは全て伏線となって解決編に有機的に繋がっているし、プロローグからしてかの名作を彷彿とさせるような幕開けであり、まさに本格の王道を往く作品として捉えてよいと思います。読者への挑戦状もありますしね。だからと言って、ロジック一辺倒ではなく、あっと驚くような仕掛けも施されており、なかなかの力作ではないかと感じます。
Amazonではやっぱりなと思うような低評価です。しかし、私はあくまで作品を評価するべきであって、作者を評価するべきではないと思いますね。

No.1 7点 人並由真
(2017/01/16 17:08登録)
(ネタバレなし)
 対面した相手の言葉の真偽を<客観性(それが客観的な事実足りうるかどうか)>と<相手の主観性(当人が本気でそう信じているかどうか)>の両面から即時に判定できる、井の頭大学法学生・本多唯花(ユイカ)。その特殊な判定力は常人にない強力な武器であると同時に、彼女自身の心身を困憊させる病理でもあった。その能力ゆえ警察の上層部からも「臨床真実士(ヴェリテイエ)」として高い評価を得る唯花は「僕」こと学友の鈴木晴彦とともに、晴彦の友人・文渡英佐(ふみわたりえいすけ)の実家である愛媛県の「天空の村」に向かう。そこは日本有数の大富豪・文渡家の広大な私有地だが、15年前の飛行機事故で一族の大半を失った惨事を機に、当主の未亡人・文渡紗江子の意志で外界から完全に途絶され、ヘリコプター以外での出入りは不可能な場だった。醜聞を恐れて警察の介入を望まないという文渡家から、唯花に請われた依頼。それは英佐の弟・慶佐(けいすけ)を殺した内部の者の虚言を、彼女の能力で暴いてほしいというものだった…。

 昨年2016年の古野まほろ新刊の一冊で、新シリーズの開幕。特殊能力を持つ探偵ヒロインのキャラクターは、天祢涼の音宮美夜(『キョウカンカク』ほか)みたいだし、特殊設定のなか(現実とSFの境界線上…的な)で基本的に虚言が成立しないという世界像は久住四季の『鷲見ヶ原うぐいすの論証』を想起させる。そういう意味ではやや新鮮味は薄いが、事件の舞台がビジュアル感も鮮烈なクローズドサークル、さらに『犬神家の一族』を思わせる財閥一族内の殺人事件という趣向との喰い合わせはとても良く、ケレン味豊かな全編をワクワクしながら楽しんだ。まあ頭の良いまほろ先生の繰り出すロジック(ユイカが向き合う事象の真偽の検証)のいくつかには、ついていくのがやっとなものもあったけど(汗)。

 とまれ暴かれる真実はミステリ的にとてもあっぱれな大技、そして旧来の謎解きミステリの戒律においては反則的な仕掛け技が使われてる。まあ後者の反則技は間違いなく自覚的にやってるんだと思うけど。さらに前者は、う~ん…この数年の間にある国産作品で同じコンセプトのものが先に出ちゃったね。たぶんまほろ先生、そっちは読んでないんだろうな(それでもこっちの方が、ある部分では上手く作中にそのネタを消化したとは思うけど)。

 ちなみに作中に登場する数式の暗合にはかなり豪快な誤植が発生しており、Amazonのレビューなどで星ひとつの評点食らってますが、わはははは…個人的にはそんなチェック漏れの失態も、天才作家ながらどっか天然のまほろ先生らしくって愉快だった。だって『その孤島の名は、虚』みたいな唖然茫然とするものを書く一方、しょーもない「必殺シリーズ」パロディ『監殺 警務部警務課SG班』なんか出しちゃうヒトですし。うん、まほろ作品はこれでいいわ。シリーズ次作にも期待。

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