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ミステリの祭典

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パイルドライバー
改題『県警猟奇犯罪アドバイザー・久井重吾 パイルドライバー』

作家 長崎尚志
出版日2016年09月
平均点6.67点
書評数3人

No.3 6点 メルカトル
(2021/12/22 22:57登録)
神奈川県の閑静な住宅街で起きた一家惨殺事件。奇しくも、15年前に同様の未解決事件があった。イマドキの刑事・中戸川俊介が現場に向かうと、長身痩躯の老年の男が現れた。彼―久井重吾は現役時代に“パイルドライバー”の異名を持つ伝説の元刑事で、15年前の事件を捜査していた。アドバイザーとなった久井と共に俊介は捜査を開始するが、直後、新たな殺人が…。同一犯の犯行なのか?予測不能の新警察ミステリー!
『BOOK』データベースより。

かなり複雑な構造になっているし、警察関係者が多すぎて消化不良気味でした。久井と中戸川の二人の主人公はともかく、それ以外は布勢が辛うじて目立つくらいで他は没個性で誰が誰だか分からない感じでしたね。序盤は15年前の未解決事件とその摸倣犯罪に見られる事件でとても興味を惹かれ、物語に入り込むことが出来ましたが、中盤ややダレて私の望んでいない方向へ向かっているようで、危惧を感じました。しかし、ラストで真相が語られる件に関しては予想外の展開に驚きを隠せませんでしたね。

全般的に惹きつけられる面と退屈な面を持ち合わせており、何とも微妙な読後感となりました。結局最初から最後まで久井の人間性や個性で引っ張っている印象で、彼が居なければこの警察小説の魅力が半減したのは間違いないと思います。
後から考えると、事件そのものよりもその背後関係に重きを置いている感じもありました。それともう少し読者を混乱させないように斟酌するような配慮が欲しかったとも思います。もう一つ言えば、タイトルで損をしている気はします。どうしてもプロレスの関連する話かと思われてしまいそうで。

No.2 6点 人並由真
(2017/03/11 03:00登録)
(ネタバレなし)
 引退して嘱託待遇となった元刑事と、辞職を考える青年刑事。そんな二人のバディぶりを描いたキャラクターもの&組織ものの警察小説。
 ちなみにタイトルの意味はプロレス技には関係なく、老境の元刑事の名が久井(くい)で、その挙動のいくつかがパイルドライバー(工事現場の杭打ち重機)を連想させるからである。

 神奈川県内で起きた三人家族同時殺人の事件を端緒に、15年前の類似事件との接点を洗い直し。そこで過去の事件を担当した久井重吾元刑事とコンビを組む青年刑事・中戸川俊介の奮闘が語られる。とはいえ主人公はまぎれもなくこの2人だが、実際の作品の中身は多数の登場人物で溢れかえり、総勢70名以上のネームドキャラが出没。そしてその過半数が警察関係者。組織が孕む暗部も、現場刑事たちの絆と負けん気もたっぷりと語られる。

 それで中盤からの展開は「あ、そっちの方向に行くの?!」といささか慌てた(悪い意味で警察小説の垣根を超えそうだったので)。しかし最終的に事件の真相は、一度踏み出しかけた大枠のなかで、意外なほど堅実かつ説得力のある形で、結び目がほどかれていく。
 もちろんここではくわしく書けないが、個人的にはかなり秀逸なミステリとしての着想だと感嘆した(その一方で、なかなか強烈な終盤の話の拡げ方も堪能した)。

 ちなみに今回の事件は落着するが、久井の家庭事情にからむキャラクタードラマの部分では今後の続編も匂わせる雰囲気。ここはぜひシリーズ化も期待したい。

 最後に前半のある場面で久井が中戸川に語る、印象深い言葉。
「もちろん、あいつらはいやなやつらだよ/しかし刑事ってのはさ、わずかに残った人間の裏の……むしろ、いい部分を見つけてやる職業なんだぜ」

No.1 8点 HORNET
(2017/01/23 21:03登録)
 住宅街で起きた一家惨殺事件は、15年前に未解決となった事件に酷似した状況だった。退職して家業を継ぐことを考え始めていた刑事・中戸川俊介は現場に向かうが、そこに表れた男に脳天チョップを食らわされる。それは15年前の未解決事件を担当していた、“パイルドライバー”の異名をもつ元名物刑事・久井だった。アドバイザーとして捜査に関わることになった久井とコンビを組むことになった俊介。ぞんざいな態度に始めは反感を感じる俊介だが、類まれなる刑事としての嗅覚と捜査手腕に、次第に見方を変えていく―。
 軽快な文体とキャラ立てのよさ、なかなか巧みに仕組まれた伏線で、飽くことなく読み続けられる。捜査路線は15年前の事件との2本立てになるので、やや諸要素が複雑でややこしい点もあるが、逆に言えばよく考えてあるというか、 凝った仕掛けともいえる。脚本家(?)出身らしく、作家としてはあまり聞いてない名だが、普通に十分面白かった。

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