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ミステリの祭典

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蜂工場

作家 イアン・バンクス
出版日1988年03月
平均点7.33点
書評数3人

No.3 7点 メルカトル
(2022/08/21 22:43登録)
そこはスコットランドの小さな島。海岸沿いの家では16歳のフランクが、学校にも
行かずひっそり父と暮らしていた。彼はある日、精神病院にいるはずの兄エリック
が脱走したことを知る。かつてエリックは犬を燃やすなど異常な行動をとっていた
のだった。直後にかかってくる電話。「おれだ」「殺してやる! 」──
Amazon内容紹介より。

重く暗くやるせない話。登場人物が少なく、その分会話文が極端に削られており、正直非常に読み難かったです。終始フランクの奇行とその心情に文章の多くが費やされていて、何かオチのない話を延々聞かされている様な感じで、私は心の中で何度も何度もそれがどうしたとツッコミを入れずにはいられませんでした。時々これは、と思うような記述もありますが、長くは続かずどうにも興味を惹かれない結果に終わりました。


【ネタバレ】


ところが、最終章の手前辺りから覚醒したように面白くなり始め、最終章では天地が引っ繰り返るほどの衝撃を受けました。そうか、この為にこれまでの退屈な時間と無機質な文体があったのかと、納得しました。考えてみれば、フランク自体怪しい証人であり、幾つもの伏線が張られていたではないかと、頷かされました。
私には文体が合いませんでしたが、もっと読解力があれば、或いは本書を楽しむ余裕がもう少しあれば8点でも良かったと思うくらいです。

No.2 8点 小原庄助
(2019/07/10 09:33登録)
語り手<おれ>は16歳のフランク。スコットランドの小さな島で、父親と2人で暮らしている。フランクには四つ上の異母兄エリックがいて、家を離れて医学を学んでいたのだけれど、ある出来事がきっかけで精神に失調をきたし、今は<精神病院>に収容されている。ところが、病院を脱走。物語は、その知らせがもたらされたところから始まるのだ。
まずは、フランクの造形に瞠目。島のあちこちに、海カモメやハツカネズミの死体を打ちつけた<生贄の柱>を立てている。島の見回りをするときには、自分で製造した爆弾などの武器を入れた<戦時袋>や強力なぱちんこを持参する。屋根裏部屋に作った巧緻な装置<蜂工場>から、未来の予言を得ている。
異様なのは、そんな自分だけの呪術的な世界に生きている様子だけじゃない。フランクは、幼い頃に3人殺害しているのだ。その殺し方が、思わず感嘆の声をもらすほど独創的な上、動機がまた!(絶句)
時々電話をかけてきては、自分が少しずつ島に近づいていることを告げる兄のエリック。エリックが何を起こそうとしているのか、<蜂工場>におうかがいを立てるフランク。そのさなかに明らかになる、驚愕の真実。
小さな島で暗黒神話のような世界をつくり上げ、インモラルな思考のもと、生き生きと楽しい日々を送るフランク。その強烈なキャラクターに、いつしか魅了されている自分がいる。グロテスクな美と危険な香りが横溢する異形の傑作なのだ。

No.1 7点 tider-tiger
(2016/10/08 10:21登録)
スコットランドの小さな島で父親と二人で暮らす十六歳のフランク。幼い頃、犬にペニスを噛み千切られた彼は学校にも行かず、小動物を殺して回る日々だった。旺盛な想像力を異常な方向に伸ばしながら生活、成長している。
そんなある日、精神病院にいるはずの兄から電話があった。
「いまから家に帰る」

~あにきの脱走を知った日、おれは<生贄の柱>を次々と見まわっていた。
なにかが起こりかけているのはすでにわかっていた。
<工場>が、そう告げていたから。~
本作はこんな風に始まる。工場(蜂工場)とは大きな時計を迷路に改造したもので、そこに蜂を入れると12の文字盤のいずれかに向かうことになる。火責め、水責め、さまざまな趣向が凝らされ、蜂の運命には死しかないが、その死にざまによってフランクは未来を占っている。
本作の表紙には「結末は誰にも話さないでください」と書かれているが、そのような売り方をするタイプの小説ではない。オチは確かに驚いたが(このサイトの方なら見破る人がけっこういそうです)、個人的には「だからなに?」感が強かった。むしろ兄の過去の話の方が衝撃強く、怖ろしかった。ただ、誰にも話してはいけないこのオチによって主人公の狂気にいちおうの理由付けがなされている点は良しとしたい。
一般にはホラーとされているらしいが、サイコサスペンスが粗製乱造される前に世に出た文学的サイコサスペンスと考えたい。
フランクは精神病院から脱走した兄を怖れているが、本当に怖ろしいのはフランクであり、兄はむしろまともな人間だからこそ狂ってしまったように思える。
フランクは友人と相対しているときはわりあいまともなのだが、彼の内面には狂気が渦巻いている。その狡猾さに身震いする。
兄が脱走した後も、フランクの異常な日常と過去が淡々と描かれていくばかりで、兄に絡んでの物語はなかなか進展しない。
完成度ではなく感覚的な好き嫌いによって採点され、その評価が大きく分かれそうなタイプの作品。けっこうグロい。本来は好きなタイプの小説ではないが、歪んだユーモア、歪んだ美的感覚に回る回る目が回る、そんな読書体験だった。
かなり独創的な作品だと思うが、このサイトから近いものを探すとすれば「向日葵の咲かない夏」あたりか。気持ちの悪さとオチでポカーンとさせられるあたりは似ている。ただ読み味はずいぶん違っていて、向日葵は丁寧に伏線を張ってあり、読者がオチをある程度は推理できるようにしている。蜂工場は伏線は撒いているものの、読者に推理を期待しているような書き方ではないように思えた。ミステリとして考えれば向日葵の方が面白いと思う。
本作は考えながら読むよりも、感覚的に圧倒されることを愉しむ本だと思う。
理屈抜きに好きか嫌いか。
オチの衝撃は付録であって、本作の読みどころはオチに驚くことではない。

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