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ミステリの祭典

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寝ぼけ署長

作家 山本周五郎
出版日1970年01月
平均点8.00点
書評数3人

No.3 7点 まさむね
(2023/06/29 20:52登録)
 勉強不足の私にとって、山本周五郎といえば「樅ノ木は残った」一択なのですが、こういった探偵小説も書いていたのですねぇ。このサイトで知りました。ありがとうございます。
 10短編の中に決して大技があるわけではありません。しかしながら、寝ぼけ署長・五道三省の王道たる「正義の味方」譚は非常に清々しい。弱者への作者の温かい眼差しが随所に表れている、好短編集と言えると思います。

No.2 8点 zuso
(2023/06/06 22:42登録)
時代小説作家の印象が強い山本周五郎の、現代を舞台にした珍しい警察小説。
とある警察署に赴任してきた五道三省は、言動の呑気さから「寝ぼけ署長」なる渾名を奉られる。だが実は、大変な切れ者なのだ。「不正や悪は、それを為すことがすでにその人間にとって、劫罰だ」と断じる五道は、罪を犯した者でもできる限り救おうとする。
謎解きの答えだけでなく、彼の深い考えも深く知りたくなる短編集だ。

No.1 9点 クリスティ再読
(2016/09/19 20:18登録)
本作は時代小説の巨匠山本周五郎が書いたミステリ。文庫のロングセラーで結構な人気作だ。ただしね、多分「ミステリマニアは除く」なんだよね...ここらへん評者はイジが悪いせいか、とっても面白いと思う。
本作表面的にはちゃんとしたミステリの連作である。普通のミステリ短編集よりも殺人事件比率が低いかな、とは思うけど、事件あり、意外な真相あり、と決して形式的にはミステリから逸脱するものはないのである...主人公の警察署長五道三省はちゃんと名探偵もしている。がしかし、本作がどうしてもミステリから逸脱する部分というのは、小説のプロットの部分ではなくて、内容的な部分なのである。
「罪を憎んで人を憎まず」というセリフがあるが、実はミステリはこれでは始まらない。「人を憎む」部分が犯人の追及なのであって、その結果断罪を控えることはあるかもしれないが、真相の解明なくして何も始まらないのはいうまでもない。本作の最初の短編「中央銀行三十万円紛失事件」では犯人は実質3人のうち誰かに絞られるだが、五道署長は真相の解明ではない別な解決手段を提示してそれを納得させる。これで読者を納得させよう...というのが本作、できているのだ。ちょっとこれは驚くべきことだ。「ミステリの心理的前提」を見事に無視して小説を成立させるのだから、反ミステリかもよ。
野村胡堂の銭形平次がそうであるように、時代小説は、実際の江戸時代に取材した小説というよりも、世知辛い現代に対する作者の理想を投影したユートピアとして描きだしたファンタジーという色彩を帯びるときがある。そういう理想主義というものは、時代小説には合うのだが、ミステリだと一般的な正義感はともかくとして、正面切っては取り上げづらい...五道署長は貧乏人の味方に立って、立ち退きを迫る高利貸から官舎を開放して保護すると同時に、高利貸に一泡吹かすし、屋台営業からの搾取を強めるヤクザから、屋台の人々を保護して新しいショバに移転させ組合による団結を裏から指導する...そういう「正義の人」として五道署長が描かれてるのだけど、これが少しも浮ついてないのである。多分これほど「正義」というものをマジメにとらえたミステリはないのではないのだろうか。そういう作者の真摯さがファンタジーかもしれないが作品を通じて本当に伝わるのが、本作の人気の最大の理由だろう。
あ、個人的には「十目十指」がベストと思う。ちょっとしたねたみや偏見・悪意が増幅される地域社会を、正義の人五道署長が正す話だけど、非常に今風のテーマだと思う。あと「夜毎十二時」ってクリスティの短編にほぼそっくりの内容のがあるな。まあありがちなトリックだけどねぇ。
というわけで、本作、ミステリマニアにとっては試金石だ。あなたはどう読む?

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