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ミステリの祭典

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鷗外の婢

作家 松本清張
出版日1973年05月
平均点6.33点
書評数3人

No.3 6点 人並由真
(2020/10/29 03:38登録)
(ネタバレなし)
 カッパ・ノベルス版(初版は1970年。現行のAmazonの登録データはどっかおかしい)で読了。収録は『書道教室』と表題作の中編二本で、のちの新潮文庫版も同じ内容のようである。
 評者は家にあった(たぶん亡き父が買った)一冊を読んだが、これが昭和45年5月15日刊行の第12版。初版が同年4月30日で、(とりあえず奥付再版の可能性など考えなければ)ほぼ毎日重版していたわけである。いかにネットとかテレビゲームとかまだ影も形もない、娯楽の種類の少ない時代だったとはいえ、これはスゴイ。当時の清張の人気の凄さのほどが窺える。
 しかしカッパ・ノベルスということで恒例の挿し絵を期待したら、実際には皆無で残念。出せば売れる清張ということで、一刻も早く発売したかったか、あるいは無駄に編集費(イラスト代)をかけなくてもベストセラー確実なのだから本文だけでいいやと、編集部が割り切った判断をしたか。

 実は『書道教室』は何年か前にすでにとっくに読了。『鷗外の婢』の方が主題となる近代史や古代史の話題がシンドそうなので、その『鴎外』だけ手つかずのまま、読むのをとめておいた。

『書道教室』は死体処理のとあるアイデアがケッサクというか、あるいはあまりに人間のいやらしさを感じさせるというか、いずれにしろそれだけで印象深い一編。刊行当時のどっかの書評をあとから見て、誰かがそのポイントについて、かなり褒めていた記憶がある。

『鷗外の婢』に関しては先述のように、評者はもともと日本の古代史~近代史にそんなに詳しくない人間なので、書かれていることに「はあはあ、そうですか」という感じで、ひとえに頑張って付き合う。
 むろん作中の登場人物が語る見識に対して異論を挟む余裕なんかあるわけもない(高木彬光の『成吉思汗の秘密』もまだ未読なので、義経=成吉思汗説を言い出した者のルーツがどこら辺にあるのかの説明とかは、ちょっと面白かった)。

 それでも後半になってようやくミステリらしくなるが、その頃には「なんかなあ、無理して、現代ものの推理小説仕立てにせんでも……」という気分であった。しかも殺人の動機というかその事情が安っぽい(中略)で、話のお手軽感もかなりのモンだったし。

 そんな風に舐めていたら、終盤の展開で軽く泡をくった(!)。そうかこっちも(中略)。クロージングの独特な(ある意味で妙な)物語の納め方も鮮烈だし、なんのかんのいっても最後に上がる時には、しっかりと腰の座ったミステリになっている。さすが清張、お見それしました(汗)。とにもかくにも食いついて読んで、良かったとは思う。

No.2 6点
(2017/01/26 17:58登録)
収められた2編どちらも160ページぐらいで、長編と呼ぶにはちょっと短い作品です。
『書道教授』は犯罪小説で、中心となるのは浮気をした挙句、相手の女を殺してしまうという、ごくありふれた話です。かなり早い段階から、彼が後に警察に語った内容を書いていて、その点ではひねりなどないことを作者は明示しています。ところがそこに書道教授を登場させることによって、謎解き的な要素も盛り込み、またずうずうしい死体処理のアイディアを入れているところがおもしろくできているのです。
一方表題作は、それとは全く異なるタイプの作品です。「婢(ひ)」の訓読みは「はしため」、作中で「いまでいうお手伝いさん」であると説明されています。鴎外か小倉に軍医部長として赴任していた時の女中のことを主人公が調べていくうちに、古代史がらみになり、事実と虚構の境がはっきりしないところがおもしろい作品でした。

No.1 7点 斎藤警部
(2016/09/11 09:51登録)
鷗外の婢/書道教授 .. の二篇  (新潮文庫)

薄昏い魅力。燻した薫り。時折の激しい動き。

しかし清張作というだけで『書道教授』なるごく普通の四文字表題にとてつもなく深い悪行の謎と暴露への妄想が掻き立てられてしまいます。 唯一無二の魂気(オーラ)畏るべし。

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