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ミステリの祭典

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黒蜥蜴
原作・江戸川乱歩

作家 三島由紀夫
出版日1969年01月
平均点8.50点
書評数2人

No.2 7点 蟷螂の斧
(2020/03/20 13:48登録)
黒蜥蜴は最初の誘拐に失敗した後、二回目のトリック(長椅子)に成功し「トリックは、大胆で子供らしくて馬鹿げていたほうがいい」と自画自賛。これは乱歩氏への皮肉を込めた賞讃か?、思わずニヤッとしてしまいました。乱歩氏は「三島由紀夫さんは、私の骨組みに、新しく織り出した立派な衣装を着せてくれた」と言っています。骨組みは借りていますが、実は内容は全く別物、つまり恋愛小説であるということです。三島氏は「美的恐怖恋愛劇」と表しています。よって翻案ではなく本歌取りということになりますか・・・。戯曲なので会話が中心となり、敵同士の二人の恋愛感情をどう表現するのかが気になっていたのですが・・・。「僕の惚れ方は相手の手も握らずに、相手を破局まで追い詰めることしかない。」(部下との会話)「あなたがこれ以上生きていたら、私が私でなくなるのが怖いの。そのためにあなたを殺すの。・・・好きだから殺すの」(独白)。なるほど、独白という手があったのか・・・。

No.1 10点 クリスティ再読
(2016/04/24 22:51登録)
言うまでもなく乱歩原作の、ミステリの演劇として日本で最高の知名度と人気を誇り、かつ空前の傑作である。本作がないのはさすがにまずいと思うので書こう。
評者本作ばっかりは好きで仕方がなく、友人が抜粋でやった企画にまぜてもらって、舞台でやったことあるよ....「私の考える世界では、宝石も小鳥も一緒に空を飛び、ライオンがホテルの絨毯の上を悠々と歩き、きれいな人たちだけは決して年を取らず...」乱歩のユートピアのビジョンが三島の文藻に合体した結果、本作の華麗な修辞が花開いたわけだが、本作だとハニカミ屋の三島がオリジナル作品では躊躇してのかもと思われるシュルレアリスム的技法も、随所で効果的でいろいろ華を添えている。他人原作だから、で力が抜けてイイ面ばっかりが出ているように思う。
で本作の凄いところは、三島が「ミステリという形式」と「ミステリらしい形式論理」を外から見て批評的に面白がっているのが感じられるあたりだ。もし探偵と犯人とが「あくまで探偵と犯人として」真剣に恋をしたらどうか?という興味から「法律が私の恋文となり/牢屋が私の贈り物になる」というセリフを引き出す...「第三の女は、自分のやさしい魂に忠実なあまり、世間の秩序と道徳を根こそぎひっくりかえす」といった逆説とアフォリズムこそが、チェスタトンのそれと同様に「それ自体がミステリの精華かつ批評」になっている。
だから「ミステリらしい形式論理」から、黒蜥蜴は明智を真実愛するゆえに人間椅子に閉じ込めて海に放り込むし、(完全オリジナルになる)雨宮早苗のカップルの愛は二人の死後にしか成立しない。それが形式論理であるからこそ、真剣にならなければならないのが、ミステリの心意気ってもんでしょうよw
最後に、本作は美輪明宏の主演によって、日本の三大ゲイ術家による空前のコラボになったことも本当に奇跡としか言いようがない。

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