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ミステリの祭典

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箱庭図書館

作家 乙一
出版日2011年03月
平均点6.00点
書評数3人

No.3 5点 パメル
(2022/05/09 09:12登録)
作者がウェブで実施した「オツイチ小説再生工場」という企画から産み出されたユニークな連作短編集。
読者から送ってもらった小説のボツ原稿を作者がリメイクしたこの企画、当然ながら元ネタは全てバラバラ。にもかかわらず、6編の小説の舞台をすべて「文善寺町」という架空の地方都市に設定し、登場人物を重ね合わせてゆくことで、一つの世界を造り上げている。
物語を紡ぐ町をキャッチコピーとする文善寺町で起こる小さな奇跡の数々。小説家になった青年と、日常生活に支障をきたすほどの本好きである図書館司書の姉。どこか暢気なコンビニ強盗の顛末。高校の文芸部のたった二人の部員によるイタイ応酬の行方。鍵と鍵穴をめぐる物語。子供たちが集まる夜の王国。そして降り積もった雪の上のファンタジー。作者らしいミステリ、ホラー風味も絶妙にまぶされており、トリッキーな語り口に舌を巻きながらも、まさに「物語を紡ぐ」ということの、かけがえのない存在意義に気付かされてゆく。
なぜ人は小説を書き、それを読むのか。なぜ小説というものが必要なのか。そんな、あえて問い直すことなどないように思える問いへの、新鮮で温かく力強い答えがここにはある。

No.2 6点 メルカトル
(2019/11/25 22:33登録)
僕が小説を書くようになったのには、心に秘めた理由があった(「小説家のつくり方」)。ふたりぼっちの文芸部で、先輩と過ごしたイタい毎日(「青春絶縁体」)。雪面の靴跡にみちびかれた、不思議なめぐり会い(「ホワイト・ステップ」)。“物語を紡ぐ町”で、ときに切なく、ときに温かく、奇跡のように重なり合う6つのストーリー。ミステリ、ホラー、恋愛、青春…乙一の魅力すべてが詰まった傑作短編集!
『BOOK』データベースより。

集英社のweb企画『オツイチ小説再生工場』で、読者のボツ原稿を乙一がリメイクした作品集。なので、原作者は乙一ではありません。
私は思いました。第一話の読後、原作者の意図が読めない、これはまずいと。結局素人が書いたボツ原稿など所詮この程度のものなんだという、言い知れぬ不安感が私を襲いました。ところが第二話『コンビニ日和!』でおっとなりました。これはなかなかウィットに富みながらもエッジが効いていて、良い感じじゃないかって。でも、あとがきを読むとオチは乙一が付けたらしく、ああやっぱりプロじゃないと読者を満足させる物語は書けないのではないかと思ったりします。じゃあお前が書いてみろと言われても、そりゃ書けませんけどね。私には才能がこれっぽっちもないので。

確かに様々な種類の作品があり、その度に作風を変えて均せばそれなりに面白いのですが、やはりそこはそれ読者の投稿作品であって、無理矢理短編として完成させている感があり、どうにも歯がゆさが抜けきれませんでした。
その中でも個人的に『コンビニ日和!』と『ホワイト・ステップ』が心に響きました。勝手な思いですが、おそらく多くの読者に賛同していただけるのではないかという気がします。『ホワイト・ステップ』は最後に持ってきただけあって、情感に溢れ余韻の残る逸品ではないかと思います。この作品が最も乙一の世界観に近い印象を受けましたね。

No.1 7点 まさむね
(2016/05/05 12:01登録)
 読者から投稿されたボツ原稿を乙一氏がリメイクして発表するという、集英社の企画「オツイチ小説再生工場」から誕生した短編集。
 それは乙一氏の作品と言えるのか?といった意見もありますでしょうが、ネタ元が複数なだけに、内容もバラエティに富んでいますし、これまでの乙一氏にはなかったタッチの短編も読めたりしましたので、一読者としては「アリ」かなと思います。
 などと書きながら、ベストは収録作中で最も作者らしさを感じた「ホワイト・ステップ」。各短編に緩やかな繋がりを持たせているのですが、この作品を最終話に持ってきて「オツイチじんわり系」をかまされると…うーん、弱いんですよねぇ、参りました。他の収録作品の中では「コンビニ日和!」も好きかな。
 まぁ、ガチガチなミステリもいいけど、ちょっと違う気分で読んでみようかな…という方はどうぞ。

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