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ミステリの祭典

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仮面の祝祭2/3

作家 笠原卓
出版日1989年04月
平均点7.00点
書評数3人

No.3 6点 人並由真
(2021/09/19 06:18登録)
(ネタバレなし)
 その年の12月28日。鎌倉の路上の車内で、29歳のフォークソング歌手・緒方信大(のぶお)の殺害された死体が見つかる。実際の犯行現場は自宅のアパートと思われるが、殺人が行われたと思しいクリスマスの当日、そのアパート周辺でサンタクロースの衣装を着た女性が目撃された。ちょうどその頃、近所の商店街では3人の女子大生がサンタの衣装と濃厚なメイクで宣伝活動をしている。神奈川県県警と警視庁捜査一課の捜査陣は、3人の女子大生のひとりが実行犯で、ほかの二人が共謀してアリバイを仕立てている、あるいは捜査を攪乱しているのでは? と仮説を立てた。だが捜査陣の前には、さらなる事件の展開が生じる?

 創元文庫版で読了。
 
 1970年代に「週刊少年チャンピオン」に連載された闇の処刑人ものコミック『カリュウド』(原作・日向葵、作画・望月あきら)の連作エピソードのひとつで、主人公の少年・良がその事件でのゲスト殺人犯と対峙。しかし相手は双子で、最後までそのどちらが本当の殺人者か不明であり、良が翻弄されるようにしながら終わる回があった。
(今から思うと、元ネタはマッカレーの『双生児の復讐』かもしれない?~ネタバレにはなってないハズ~)

 本作の趣向というか序盤の展開を聞いたときに思い出したのは正にソレで、3人のサンタコスのJDの中に真犯人がいるらしいのだが、それが誰か特定できない、というのはなかなか興味をそそる謎の提示である。
 さらに加えて、その攪乱行為自体が結局は犯人側にとってもいろいろとリスキーなハズで、なんでそんな犯行手段をとったのかというホワイダニットの謎も付随する。

 これはなかなか面白そうと思ってネットで購入した古書を読みだしたが……長い、長いよ。
 本文は460ページ弱とそれなりに厚め。まあそれだけならまだしも、創元文庫の巻頭には25人前後の登場人物の名前が並んでいるが、実際にメモを取ると劇中キャラクターはその4倍のおよそ100人。名前が出るキャラだけで90人前後いる。
 とにかく良くも悪くも、描写が丁寧で細かい。捜査の手順ゆえに、こうなって、ああなって……を、作者がなるべくリアルに語ろうとするため、それぞれの捜査の局面での捜査陣の右往左往がいちいちつぶさに描写される。当然のごとく、モブキャラの総数も膨大な数になる。
 だからかなり重要なはずのキャラクターの名前も、巻頭の登場人物一覧リストから、ボロボロ落ちてるしな(汗)。 

 でもって、これはネタバレになりそうなのでなるべく言いたくないが、その460ページのうちの300ページ過ぎてから、作者はかなり序盤にちょっとだけ登場させておいた人物を思い出すことを、読者に要求。そんなのが結構あって、送り手はどこまで読み手の記憶力に依存しているんだよ、という感じだ。
 評者は例によって、登場人物メモを取りながら読んだからなんとかなったけど、たぶんそれをしないと相当にキツイぞ。
(というわけで、この作品にこれから挑戦してみようという人は、絶対にメモを取りながら読み進めることを、お勧めします。)

 読了後にTwitterなどで感想を拾うと「冗長」という声もチラホラ目についたけど、個人的にはソコまでしんどくはなかった。場面場面の並べ方や筋立てそのものは、まあまあ円滑な流れで楽しめる。問題なのはとにもかくにも前述の細かい丁寧な叙述の累積であって。
 逆に言えば、それでも一応は退屈はしなかったのだから、それなりに読ませる作品だともいえるのかもしれない。
 
 でもってこの作品、たしかに大枠のジャンルとしてはフーダニットのパズラーだけど、手がかりや情報が警察の捜査の流れで順々に出てくる面もあるので、フツーに読者が謎解きにチャレンジするのはややシンドイです。とはいえ最大の手がかりそのものは、一応は中盤には閃く人は閃くようにしてあるのかな? まあそのためにはさっき言った、登場人物全体のかなり俯瞰的な把握が必須ではあるが。

 小技を組み合わせたトリックは、なんかいかにも昭和的だったな。
 この作品で印象に残ったのは真犯人の動機とその背景、これは小説的な意味で、かなり心に響いた。
 力作だとは思うけれど、すでに新本格の隆盛が始まりかけていた時代には、まったく合わなかった形質の一冊。いま読むとその辺は一回りしてオールドファッション的に楽しめるか、それともやはりキツイか、微妙なところ。

 重ねて力作ではあることは認められて、そしてそれなりに好感を持てる作品、ではある。
 で、一方で、ヒトに勧められるかというと……うーん……。   

【2021年9月26日追記】
 あとから思い出したが、この手の<どっちかがやったはずだが、どちらが真犯人か判然としない>設定のものでは西村京太郎の『殺しの双曲線』などもあった。
(もちろん、こう書くからには、同作のネタバレにも本作のネタバレにもなってはいない。)
 まだ何か忘れてる類作が、あったかもしれないが。
【同年10月9日追記】
 有栖川作品『マジックミラー』も該当みたいですな。
(これもネタバレにはなってないハズ。)
 これもそのうち読んでみます。

No.2 6点 蟷螂の斧
(2012/04/08 17:38登録)
鮎川哲也と十三の謎の一冊。三人のうち二人はアリバイがあるが、そのうちの誰だかは特定できないという面白い設定です。警察によるアリバイ崩しが地道に展開されるのですが、警視庁と神奈川県警が絡むので、やや冗長に感じられました。トリックには驚きはありませんが、アリバイ崩しのための仮説、そして挫折、この繰り返しで面白く読むことはできました。

No.1 9点 Tetchy
(2007/11/20 18:09登録)
事件は地味なんだけど、読ませる。
3人のサンタクロースのうち、1人が殺人を犯しているが、それが誰だか判らない。
この唯一の謎で長丁場を引っ張る筆力は大したものだ。
ただトリックが前時代的だったのが惜しい。

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