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ミステリの祭典

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北斎殺人事件
浮世絵三部作 塔馬双太郎シリーズ

作家 高橋克彦
出版日1986年12月
平均点6.00点
書評数3人

No.3 6点 パメル
(2025/06/11 19:13登録)
日本で最も有名といっていい浮世絵師の葛飾北斎の隠された秘密と、現代の殺人事件を絡めた二重構造の物語。
本作の核心は、「北斎が隠密だったのでは」という大胆な仮説。貧乏だと思われていた北斎が、実は金持ちだったかもしれないという仮説に始まり、引っ越しが多いことや、頻繁に画号を変えて名前を弟子に譲っていたのもアリバイ工作の可能性が高いという仮説が、次から次へと登場する。
物語は、ボストン美術館で起きた日本人画家殺人事件と、日本国内での北斎研究を巡る陰謀が交錯する。未発表の北斎作品を巡る偽画騒動や、美術商の策略など美術界の暗部が描かれる。
北斎の生涯に新たな光を当てる幕末の歴史ミステリと、美術史を掘り下げた知的興奮に満ちた作品。本作は「写楽殺人事件」のネタバレをしているので、読む予定のある人は、「写楽殺人事件」を先に読むことをお勧めします。

No.2 7点 蟷螂の斧
(2016/03/10 23:13登録)
(再読)「BOOK」データベースより~『ボストン美術館で殺された老日本人画家とは何者か?一方日本では、謎の生涯を送った浮世絵師葛飾北斎の正体に迫ろうと研究家たちが資料を追う。北斎は隠密だった?日本とアメリカを結ぶキイはどの辺にあるのか、またキイを握る人物とは?浮世絵推理の第一人者の「写楽殺人事件」に続く傑作。日本推理作家協会賞作。』~

本書のメインである北斎隠密説が納得できるものかどうかは別として、その推理の根拠・過程は十分楽しめます。サブである殺人事件は当然北斎がらみではあるのですが、ここで本格ものを期待するのは酷な話ですね(笑)。探偵役は登場しますが、残念ながら真相は告白によるものとなっています。しかし、真相の背景は良く考えられていると思いました。

以下余談です。本書でも触られていますが、北斎は印象派の画家であるモネ、ゴッホ、ゴーギャンに多大な影響を与えていますね。小布施(長野)には北斎館があります。映画「北斎漫画」(1981)では、○○○バンクCMのお母さん役でおなじみの樋口可南子さんが、「蛸と海女」を描くシーンで大蛸と絡み非常に妖艶な姿を見せてくれていました。

No.1 5点 nukkam
(2016/02/07 04:02登録)
(ネタバレなしです) 1986年発表の浮世絵三部作の第2作です。歴史の謎解きと現代の謎解きの二段構えであるところは前作の「写楽殺人事件」(1983年)と同じです。現代の謎解きは捜査場面の描写も少ないまま終盤に唐突に解決されている感があります(読者が推理に参加する余地もほとんどありません)。最初は津田良平のサポート役と思えた風俗史研究家の塔馬双太郎(既に本書以前のいくつかの短編で活躍しているのですが)は後半になると単独行動が目立つようになり、どちらが主人公なのか困惑した読者もいたのではないでしょうか。前作から改善されたと思えるのは歴史の謎解きで、説明がわかりやすく整理されていて歴史知識のない私でもそれほど退屈しませんでした。事件の悲劇性がひしひしと伝わってきますが、それでいて結末はどこかさわやかな後味を残します。

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