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テツローさん
平均点: 7.46点 書評数: 108件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.8 8点 館という名の楽園で- 歌野晶午 2002/10/11 00:21
 冒頭の挨拶文が良い味。「探偵小説愛好家はいかなる夢を追いかければ」「『ドグラ・マグラ』初版本を書棚に鎮座さしましょうか」「カーの未発表原稿を発掘しましょうか」ここらへん、良いツカミだと思う。
 提示された謎はオーソドックスだが、使い方・見せ方が上手いと思う。実は最初僕は、森博嗣の某作やいしいひさいちのパロディ漫画のように、大広間が回転するのかと考えたけど(見事なはずれ)。
 最初主人公かと思った小田切氏が、全然活躍しないのは「あれ?」という感じでしたが、全体的には、内容も文量も良かったです。

No.7 9点 動く家の殺人- 歌野晶午 2002/06/12 00:57
 シリーズ3作目にして、ようやく探偵役に好感が持てるようになった。1作目2作目と比べて、別にキャラクターが変化した訳では無いのだが、作者が作品内世界へ降りてくることもなく、天上にのみ位置し、「こいつはこういうことを言うキャラ、こいつはこういう行動をとるキャラ」という風に、ただ淡々と駒を動かすようにキャラを動かしている、そう感じるようになったから。
 これ、本当に感覚的な物言いなので、根拠があるわけでもなく、そんなことないという意見もあるかもね。

 劇中劇がかなり良い出来だったと思う。本当の舞台劇にならないものだろうかと思うくらい面白かった。
 現実の事件の方は、最初のダミー解決はほとんど図形パズルの域で、真の解決もしょぼいかな?とは思うが、これはこれで良いとも思う。その図形パズルも素直に面白かったから。
 信濃譲二の退場時のセリフは、もう少し気の利いたものにして欲しかった。

No.6 7点 白い家の殺人- 歌野晶午 2002/06/12 00:34
 シリーズ1作目に続き、探偵役に物言いがある。時々、天上の神の位置で世界を構築しているはずの作者が、作品世界内へ降臨して、探偵役に憑依し、主義主張をがなりたてている、みたいな(?)…。

 舞台設定はすごく好きです。雪の別荘に怪しい一族、こう来ただけで、気分的にワクワクしてしまう。また、第一の殺人の現場状況・その異常性も、その解決と併せてクリーンヒットだったと思う。
 ちなみに、第二の事件はまあまあ。第三の事件は、無理っぽいと感じる方が勝った。
 ワトソン役、頓珍漢なことをしゃべる為のキャラとは言え、少々うざい、かも…

No.5 5点 長い家の殺人- 歌野晶午 2002/06/12 00:12
 この信濃譲二という探偵役が、最初どうしても好きになれなかった。事件を解決した後に一席打つところで、何と言うか「それが、全てを見通す神のごとき名探偵の言うことか!? 何と青臭い!!」という風に感じてしまって。 もちろん、こういう考えの探偵キャラがいたって良いのだが、このキャラ、この作品に関しては、天上に位置すべき作者の意志が入り込みすぎてる気がして、恐らく作者と同じ価値観では無い僕にとっては、素直にうなずけず、反発してしまった。

 トリックについては、確かに無茶苦茶分かり易い。(ちなみにクレイトン・ロースンの「天外消失」を連想したが、どうだろ?)もっとも、それほど否定もしない。それは、島田荘司先生の薦(名文ですよね)にもあるように、「僕にも、彼がこの小説でやろうとしているトリックが解った。しかしそれは(中略)まさしく好みの範疇だった」ということ。こういうトリックを真正面から描こうとする感性、言ってしまえば稚気のようなものだが、それは、ミステリに失って欲しくないものだと、そう考えるから。

No.4 6点 正月十一日、鏡殺し- 歌野晶午 2002/06/04 00:57
 「盗聴」「逃亡者 大河内清秀」の2作は、まだ本格っぽく読めた。最初に謎があって、その解答を主人公達が推理する、そのオーソドックスな形で、まとまりも良い。後、「盗聴」のタイトルは「カチカチドリ飛んだ」にした方が読者の気を惹くだろうに、と最初考えたのだが、よく考えたら「どんどん橋落ちた」のパクリでしたね。
 その他の作品は、どちらかと言えばサイコ物寄りに思えて、僕にとっては重い作品群だった。
 「プラットホームのカオス」少年法や体罰反対の風潮を利用するだけ利用して、犯罪を権利として振舞う少年。本当に嫌な風潮だ。
 「猫部屋の亡者」あー、嫌な女。
 「美神崩壊」あー、怖い女。
 表題作、あー、遊美ちゃん、いい子だったのに。
 読後感は一言、ブラックです。

No.3 9点 さらわれたい女- 歌野晶午 2002/03/30 01:18
 主人公の行動や身の振り方に、全体的に共感できる。死体処理の描写・顛末もサスペンスフルで面白かったし、ラストで主人公が選択した方法も、本格ミステリ派である僕自身の主観にかなったものであったのが良かった。
 これがもし正統ハードボイルド物語なら、ラスト主人公は死んでいたんじゃないかな?彼を殺さず、こういう結末に持ってきたところに、「ハードボイルドに非ず」という作者の姿勢を感じた(考えすぎかもしれんが)。

No.2 9点 生存者、一名- 歌野晶午 2002/03/29 01:27
 犯人指摘の部分は、立派な本格だと思う。「2人しか生き残ってない段階で主人公じゃない方が犯人に決まっている」という評も読んだが、それは無視しても良い。「海中」という言葉一つから唯一可能な犯人を導き出すところの論理が、本格だと思うのである。作中では軽く扱われていて、何かもったいないと感じた。
 最後に生き残った人物、実は最初読み違えていて、善玉の方だとばかり思っていたが、善玉の方か悪玉の方か分からないようになってるんですねえ。素直に善玉にしときゃ後味も良いものを、少々もやもやが残ってしまった。

No.1 9点 Rommy- 歌野晶午 2002/03/29 00:34
 最初の副題「そして歌声が残った」が、文庫化に際して「越境者の夢」に変わって、「なんでだろ?最初の方のが詩的なのに」と思っていたが、実際に読んでみたら後の方が良いと思える。この内容で「そして歌声〜」では、作者ドリーム入り過ぎというもの。
 印象に残っているのはミステリの部分よりも、ROMMYの売込みやロックグループCUBICBALLの顛末の方。坂を転げ落ちるように零落れていく粕屋と、その粕屋を見限ってROMMYに参加する水巻の対比が、えらく面白い。
 ミステリ部分は、実際に起きる殺人事件の方はそれほどの謎は無く、被害者に深い恨みを持つ人間がそのまま犯人だった(それはそれで意表を突いているか?)。むしろ作品全体に仕掛けられた謎の方がメインで、ただ大層分かり易いという評を良く聞くが、僕は気持ち良くだまされた。この意味では、麻耶雄嵩の「鴉」に通じるものがあると、個人的には思っている。

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