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フリップ村上さん
平均点: 7.73点 書評数: 26件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.3 7点 バイバイ、エンジェル- 笠井潔 2002/08/03 21:55
採点者諸氏も折に触れコメントしているように、本格ミステリ文壇最高の論理的支柱みたいな顔してる笠井潔だが、実作が口でいうほどレベルの高いミステリかどうか、と言うとはなはだ疑問である。
デビュー作である本書は、自らの政治闘争における挫折を文字通り《総括》するために書かれた評論『テロルの現象学』を、よりわかりやすい形でアレンジしなおした別テイクようなもの。つまりはミステリというジャンル自体が《観念の地獄との絶え間なき闘い》というテーマを描き出すために選別された後づけに過ぎないわけで、誤解を恐れずに言えばミステリ《風味》でしかないのも無理はない。
それでもこの物語が《小説》として圧倒的に面白いのは、そうでもしなければ語ることの出来なかった笠井潔のその時の《ホンキ》が、細大漏らさずつめこまれているから。
マチルドと対峙したカケルの口にする血の出るような言葉は、今も私の胸をこがしてやまない。

No.2 10点 哲学者の密室- 笠井潔 2002/08/03 21:41
ミステリという文学のジャンルが、百年近い年月をかけて到達したひとつの金字塔。最小に見積もっても本邦推理文壇屈指の大名作。広く海外に訳出し、その価値が世界的に認められることを願ってやまない。
ともすればマニアの衒学趣味に終わりかねない密室殺人に対するメタ視点からの分析を、《特権的な死の封じ込め》というキーワードを導入することで、戦争による未曾有の大量死を生み出した《二十世紀》を無慈悲なまでにあぶり出しにするジャンピング・ボードへと変換させる鮮やかな手口。これこそが奇想。これこそが論理のアクロバット。フェアかアンフェアか、トリックに前例があるか、そんな瑣末なゲーム的こだわりなど軽く一息で吹き飛ばす、怒涛の物語力。
暗黒へとひた走る《死の哲学》を目の当たりにした語り手が、ラストシーンで手にする力強い確信を知るとき、読者はミステリと人類、その双方の未来に確かな希望を得ることができるであろう。

と熱くなったのは良いものの、明らかに無駄に長い第一部。シリーズ先行作を読了していないと不明な部分が多い等、ちょっと見逃しえない瑕疵があることも事実だな。
冷静にエンターテイメントって意味でいったら4点くらいかも……(急に弱気)

No.1 7点 オイディプス症候群- 笠井潔 2002/07/15 23:20
畢生の大作ともいうべき『哲学者の密室』に比べると、正直ツライかな。孤立した島での連続殺人に対する《本質直観》も、シリーズ前作における《密室の本質直観》ほどの説得力はなし。笠井潔と名を聞けば、正面切って批判するのも勇気がいるが、ミステリーとしての出来は……。
でも、それでも良いの。なぜってこれは矢吹駆というスーパー・ヒーローを主役にした冒険小説なのだし、自意識過剰のフランス娘の一人称による大河すれ違いロマンスなのだから。本筋そのものより、ほとんど《ダーク・ピット》シリーズ並みに大風呂敷のイリイチの陰謀と、揺れ動くナディアの恋心が読みどころと断言しちゃいましょう!

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フリップ村上さん
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採点傾向
平均点: 7.73点   採点数: 26件
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