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ROM大臣さん
平均点: 6.07点 書評数: 135件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.2 7点 11の物語- パトリシア・ハイスミス 2022/03/24 15:51
巻頭作の「かたつむりの観察者」は、密室劇の趣で、食用かたつむりの飼育観察に熱中するあまり、江戸川乱歩の「鏡地獄」ならぬ「かたつむり地獄」を現出させてしまう男の物語。
作者は、相当な動物好きらしく、他にも「すっぽん」や「からっぽの巣箱」など、動物が絡む話が散見される。特に「からっぽの巣箱」は集中第一と目される傑作で、得体のしれぬ小動物に悩まされる夫婦の不安と葛藤を見事に抉り出して不気味な余韻を残す。
その鮮鋭な筆致は、カフカの不条理掌編に比肩しうるといっても過言ではあるまい。現代人の孤独な内面を蝕む不安と狂気を鮮やかに描き出したハイレベルの短編集である。

No.1 7点 太陽がいっぱい- パトリシア・ハイスミス 2021/08/23 16:29
主人公リプリーは殺した富豪の息子になりすますのだが、それはただ、金のためだけではなく、自己が演じる一人二役に陶酔し、関係者がすっかり騙されることに倒錯した歓びを感じているのではないかと思わせる部分がある。
こうした犯罪に隠されたセクシュアルな部分を描くのが、ハイスミスの真骨頂といっていい。ここでは、警察も探偵もヒーローとは程遠い、傍観者、観察者の役割しか果たせないのだ。たとえ事件が解決しても誰も救われない、読むものにとって永遠に続くかのような不安な世界がそこにある。

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