皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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ぷちレコードさん |
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平均点: 6.24点 | 書評数: 293件 |
No.4 | 5点 | グロテスク- 桐野夏生 | 2025/09/06 21:24 |
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一流企業のエリートOLでありながら、夜は街角で体を売る和恵。和恵と同級生であった区役所勤めの主人公。その妹で美貌を持つ娼婦ユリコ。階級社会を縮小したような一流女子高校での鬱屈した日々とその後の人生が、それぞれの独白や手記という形で綴られていく。
空気の読めない言動で学校でも職場でも居場所を失っていく和恵と、美しさで男たちを翻弄してきたユリコ。全く違う個性の二人が、最後は同じ場所で下層の娼婦として殺される。何より恐ろしいのは事件よりも、美しすぎる妹への嫉妬心と、同級生への悪意を肥大させ怪物化していく主人公の心の闇である。 |
No.3 | 7点 | OUT- 桐野夏生 | 2025/08/05 21:29 |
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主婦たちの家族関係からくる鬱屈した気持ちと暗い情念が作品全体を覆っている。
一つの心の闇が引き起こした犯罪が次の犯罪を引き起こす。その闇が生まれた抑圧の背景をリアルに描かれいている。四人の女性が様々な事情から死体解体の作業に参加していくが、きっかけはほんのわずかなお金が必要だったため。 お金が人格を与える影響というのは、作者の作品全体に通底している。 |
No.2 | 6点 | IN- 桐野夏生 | 2023/08/10 23:25 |
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女性小説家のヒロインと編集者のダブル不倫を鋭い筆致で正面から描き出す。情熱、独占欲、嫉妬、憤り、打算、憎悪、執着。どんな恋愛にも付きものの感情の諸相を作者は生々しく定着する。
だが、ヒロインが目下書きつつある小説の中ですでに亡くなった作家の私小説「無垢人」の真実を追求するという二つの筋立てが絡み始めると、何処へ着地するか分からない魔術的なメタ小説の領分に入り込む。しかしここでも主題は恋愛であり、なぜ人間はこんなにも恋愛に取りつかれ、恋愛を小説に書こうとするのかという問いが浮上する。人間にとって最大の謎である恋愛をめぐるミステリ。 |
No.1 | 6点 | 残虐記- 桐野夏生 | 2022/07/14 22:51 |
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題材は、十歳の少女の誘拐・監禁事件。作家になった彼女の元に、出所した男から手紙が舞い込みb、これを機に彼女は事件を「残虐記」と題して小説化する。手紙、作中作となる手記、小説の草稿などが入れ子状に組み込まれ、「真相」を追えば追うほど、虚実の境が後退していく。少女がある事実を世間に隠し通したのはなぜか。本当に復讐したかった相手とは誰か。覗き見ることの罪。想像することの残虐さ。誰が被害者で加害者なのか。
語り手が実は犯人というミステリは時にあるが、本作には読み手にお前こそ加害者だと切っ先を突き付けるような恐ろしさがある。実在の事件をモデルにしてその真相を暴くかに見せながら、本書で暴かれるのは虚構の本性である。 |