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陽炎さん
平均点: 7.50点 書評数: 2件

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No.2 7点 クリスマスのフロスト- R・D・ウィングフィールド 2019/04/14 12:53
ロンドンから70マイル離れた所にある地方都市デントン。
このありふれた田舎町の警察署に勤めるジャック・フロスト警部が、この「クリスマスのフロスト」の主人公。

その特徴といえば、40代後半の頭の禿げた冴えない男で、格好はいつもだらしがない。その上、怠慢で口が悪く、その無責任さを隠そうともしない。
簡単に言えば、彼はデントン警察署の厄介者なのだ。

私はこの本を読みながら、ジョイス・ポーターのドーヴァー警部やレジナルド・ヒルのダルジール警視が脳裏をよぎりましたが、このフロスト警部は彼ら先達の特徴をいくらかソフィスティケイトした、より現実味のある、我々と等身大の主人公として描かれているなと思います。

実際のところ、彼は非常に有能な警官で、興味を持てば仕事熱心になることもあるし、彼のことを認めている人も、あるいは彼のことを慕っている人も少なくないのだ。
その勇敢な行動に対して勲章さえもらっているし、妻を亡くすという悲しみを乗り越えてきてもいる。
フロストとはそんな愛すべき人間なんですね。

この物語は我々読者の意表をつくところから始まります。
クリスマスを目前にしたある日、なんとフロスト警部が民家に不法侵入したあげく、家の主人に銃で撃たれ瀕死の重傷を負ってしまうのだ。
そして、その滑稽とも言える事件に至るまでの顛末が順を追って描かれていきます。

その事件の4日前、最短距離で刑事に昇進したクライヴ・バーナードは、デントン警察署に着任するため、はるばるロンドンからやって来た。
警察長の甥であるため、デントン警察署にとってはいささか扱いに困る人物だった。

ちょうどそんな折、子供が行方不明になったという通報が娼婦の母親から入る。優秀なアレン警部が捜査を指揮することになり、クライヴの世話は、やむを得ずフロスト警部に任されることに。

町では他にも銀行の押し込み未遂事件が起こっていたが、クライヴを引きずり回しながら二つの事件の間を休むことなく行き来するフロストは、やがて新たな事件まで掘り当ててしまうのだった--------。

ユーモラスな会話や巧みな語り口を武器に、我々読者を小説の世界に引き込んでいくさまは、R・D・ウイングフィールドの処女作とはいえ、作家としての類稀なる技量を感じさせてくれます。
それは、人間味にあふれ、次第に悲壮感さえ帯びてくる主人公のフロストはもちろんのこと、その脇役たちにも十分な魅力があるからなんですね。

次期警察署長を目指し、上昇志向のあるマレット署長。フロストに翻弄されっぱなしの部下のクライヴ。
彼らとフロストとのやりとりは、皮肉なユーモアにあふれていて、実に楽しませてくれます。

欲を言えば、もう少し毒気があってもいいかなと思いますが、シリーズの1作目としては十分すぎるほどの出来栄えで、英国警察小説の醍醐味を味わうことができましたね。

No.1 8点 将軍の娘- ネルソン・デミル 2019/04/11 22:02
ミステリ作家というよりは、アメリカでも有数のベストセラー作家として名高いネルソン・デミルの長編ミステリ「将軍の娘」。

ジョン・トラヴォルタ主演の映画化作品を観て、興味を魅かれたので原作の小説を読んでみました。

この小説は、軍隊内で起こった奇妙な女性陸軍大尉レイプ殺人事件を扱ったもので、主人公はアメリカ陸軍の将校で犯罪捜査部、通称CIDに属する准尉ポール・ブレナー。
捜査上に必要が生じた部隊に出向し、証拠収集や秘密捜査、時にはおとり捜査も行なうのだ。

事件が発生したのはジョージア州、フォート・ハドリー陸軍基地。
この基地に設けられた施設で心理作戦を教える美人の教官アン・キャンベル大尉が、射撃演習場で全裸の死体で発見されたのだ。
彼女はその基地の司令官であるキャンベル将軍の娘だった--------。

アン・キャンベル大尉は軍人として、華麗な経歴を持ち、また凛々しく引き締まったスタイルは魅力的で、新兵募集ポスターのモデルにもなって、陸軍内に知れ渡っていた。

ポール・ブレナー捜査官は、その基地に居合わせたレイプ専門の女性CID員シンシア・サンヒル准尉と組み、この奇怪な事件の解決に乗り出した。
このポールとシンシアは、実はかつて恋愛関係にあったのだが、込み入った男女間のもつれで別れ、この地で再会し、コンビを組むことになったのだ。

将軍の娘の、しかも猟奇的な殺人事件ということで、捜査は極めて秘密裡に進められる。
だが、被害者アンの行動が次第に明らかになるにつれ、彼女の性的異常さが露呈されていくんですね。

想像を絶する意外な真実が表面化し、それは軍全体に及ぶ人間をも巻き込んで、事件は複雑に絡み合い、さらには遠い過去にまで遡る。

強烈なエロティシズムを取り込みながら、小説としての格調を崩さず、犯人探しの醍醐味を十分に満喫させるネルソン・デミルの手腕は、さすがベストセラー作家だけあって、この作家の力量を存分に伝えていると思います。

元々、ネルソン・デミルという作家の作品は、いわゆる本格推理というのは少ないとは思いますが、緻密な人物描写、骨格のがっしりした構成力、適度に散りばめられたロマンの香りなどが渾然一体となって、この「将軍の娘」では、ディテクティブストーリーとしても成功していると思います。

もう読み始めたら、ページをめくるのももどかしいほど、一気に最後まで読まされてしまったのは、ネルソン・デミルのストーリー・テラーとしての証明だろうと思うし、人気の高さも頷けますね。

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