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麝香福郎さん
平均点: 6.73点 書評数: 74件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.2 6点 急行霧島: それぞれの昭和- 山本巧次 2025/01/08 21:11
昭和三十六年、鹿児島駅から東京駅までのおよそ二十六時間の旅路に様々な人間模様を浮かび上がらせるサスペンス。主人公は本屋の店員・美里。彼女は生き別れた父と会うために東京に向かう列車に乗る。車内で仲良くなった同年代の女性・靖子はお嬢様風のいで立ちながら、ただ一人で乗車している。その靖子は美里に、自分が何の目的で東京へ行くのか当ててみるというのだ。同じ霧島には二人の警察官が乗り込んでいた。傷害事件を起こして逃走中の容疑者がこの列車に乗っていると踏んだからである。
さらに凄腕のスリ師、乗車する宝石商から宝石を盗もうとする二人組の男などが登場し、なぜか犯罪のメッカとなってしまった急行霧島は人々の思惑を乗せて一路東京を目指す。無関係なはずの美里もやがて事態に絡むことになる。
なかなか姿を見せない犯罪者を炙りだすためにあの手この手を使う警察、随所に仕掛けられた意外な展開。鉄道ミステリの愉しみに、作者の得意とする人情噺を盛り込んでいる。

No.1 6点 開化鐡道探偵 第一〇二列車の謎- 山本巧次 2024/05/01 21:54
高崎から生糸を運ぶ日本鉄道の貨車が、開業間もない大宮駅で何者かの手によって脱線、積み荷からなんと千両箱が発見された。井上鉄道局長は、元八丁堀同心の草壁を呼び出し、事件の調査を依頼する。
群馬の生糸が輸出できるようになり、産業として確立できたのは鉄道網あってのこと。だが同時に時代の変化は様々な場所に軋みを生み、流れに乗る者と抗う者、取り残される者を産んだ。その混沌を近代化の象徴たる鉄道と旧幕の遺産たる徳川埋蔵金、あるいは鉄道と八丁堀同心というアンバランスなモチーフを組み合わせて表現している。
聞きなれない「日本鉄道」とは何なのか、この路線にはどんな新たな試みがあるのか、どうして何もない大宮に新たな駅が作られたのか。こういった要素の一つ一つが歴史を表しているのみならず、謎解きに大きく関わってくる。特にラストシーンで、次はあの碓氷峠を鉄道で越えるんだという決意が述べられるくだりに感動した。挑戦者たちの情熱がこの国の鉄道を作ってきたのだと胸が熱くなる。

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麝香福郎さん
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採点傾向
平均点: 6.73点   採点数: 74件
採点の多い作家(TOP10)
池井戸潤(6)
奥泉光(3)
福田和代(2)
山本巧次(2)
坂上泉(2)