皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
糸色女少さん |
|
---|---|
平均点: 6.39点 | 書評数: 188件 |
No.8 | 6点 | 天皇の代理人- 赤城毅 | 2017/11/03 18:31 |
---|---|---|---|
2人の外交官を主役に、昭和外交史における秘密が語られていく。
日本、英国、ドイツ、フランスを舞台に、歴史の転換点となる外交事件にまつわる謎や出来事を扱う本作。 吉田茂をはじめ、歴史上の人物が多数登場するなか、2人の外交官が名探偵や凄腕スパイのごとき活躍を見せる。 戦前から終戦にかけての昭和史に興味があるならば、虚実入り混じったミステリの妙味を存分に楽しめると思います。 |
No.7 | 6点 | 記憶屋- 織守きょうや | 2017/10/29 19:35 |
---|---|---|---|
繊細で優しく、スリリングでしかも切々としていてなかなかいい。
記憶が主題というだけで食傷する向きもあるかと思うが、出尽くした感がある題材も、青春恋愛小説的な視点から切り込むと実に新鮮であることがわかる。 記憶がもつ甘美さと残酷さを両方とりあげ、記憶喪失の是非を問いかけて、生きることの難しさをどう向き合うのかを考えている。 真摯で暖かな感動作。 |
No.6 | 7点 | セメント怪談稼業- 松村進吉 | 2017/10/20 21:04 |
---|---|---|---|
怪談実話の若き旗手の私小説。
怖い話を収集しているのに幽霊が好きではなくて、怪異の災厄から全力で逃げ出すヘタレ作家の日常と怪談を合わせて不思議な文学空間を作っている。 作者には何とも言えない詩心があり、カミソリのような切れ味の恐怖の中に詩情が漂っている。 野蛮で能天気で不思議な叙情が醸し出され、ユーモアペーソスも絶妙に配合されて、混沌としながら温かくも怖い世界を作り上げている。 |
No.5 | 6点 | 怪談- 柳広司 | 2017/10/14 17:09 |
---|---|---|---|
かの有名な小泉八雲「怪談」に収録の「ろくろ首」「耳なし芳一」など、おなじみの話を現代のホラーミステリとして語りなおしたもの。怪しい出来事の連続に始まり、やがてすべては論理的に解き明かされる。
作者ならではの端正なミステリのつくりに加え、こちらも現代日本の病理のような事件があちこちで扱われ、さらにラストで恐怖が待ち構えている。 なんとも贅沢な異色短編集。 |
No.4 | 7点 | ソヴィエト・ファンタスチカの歴史- ルスタム・カーツ | 2017/10/09 12:22 |
---|---|---|---|
1921年から1993年にかけてのロシアSF・幻想文学史を、具体的な人名(写真や略歴付き)と作品(粗筋や挿絵付き)を挙げながら子細につづったこの本、実は偽書。
でも、よほどロシア文学通でもない限り信じるはず。それほど、ディテールが真に迫っている。 本当の作者ロマン・アルビトマンに脱帽する他ない奇書。 |
No.3 | 4点 | きみといたい、朽ち果てるまで~絶望の街イタギリにて- 坊木椎哉 | 2017/09/24 16:52 |
---|---|---|---|
舞台は無法地帯化している街イタギリ。
ごみ収拾と死体運搬の仕事をしている少年は、ある少女に恋心を抱くものの、連続する殺人事件が起き絶望を深めていく。 死んでも体が動くシナズというゾンビのような化け物が存在していて、それが究極の人間性を浮かび上がらせる仕掛けとなり、哀切な結果を強く印象づける。 父と息子の葛藤が物足りないし、プロットにもひねりと驚きが今一つ。 ただ終盤の凄惨でむごたらしい愛の形を捉える濃密な筆致は買う。 |
No.2 | 7点 | いま集合的無意識を、- 神林長平 | 2017/09/17 21:13 |
---|---|---|---|
1996年以降に発表された全6編を収録。「ぼくのマシン」は、主人公が初めて自分用のコンピュータを手に入れた少年時代の思い出を語る、「戦闘妖精・雪風」番外編。東日本大震災後に書かれた表題作は、作者自身を思わせるSF作家が語り手。
ある時、パソコンの画面に「いま、なにしてる?」という質問が浮かぶ。やがて、自分は伊藤計劃だと名乗りを上げた文字列を相手に”ぼく”は伊藤計劃最後の長編「ハーモニー」について語り始める・・・。 突拍子もない設定だが、いわばこれは、私小説仕立ての伊藤計劃論。語り手は彼の死を正面から受け止め、その志を受け継いで、<大丈夫だ、われわれが、ぼくが書いてやる>と力強く宣言する。 作者にしか書けない、破天荒かつ強烈な短編集。 |
No.1 | 5点 | リライト- 法条遥 | 2017/09/01 15:15 |
---|---|---|---|
筒井康隆の名作「時をかける少女」を下敷きに、SF史上最悪のパラドックスを仕掛けている。始まりは1992年の夏。未来人に恋した中学2年の美雪は、彼の命を救うために2002年へ飛び、10年後の自分の携帯を借りたはずなのに、2002年のその日が来ても、過去の自分が現れない。慌てて過去を調べてみると、自分が記憶する事実との齟齬が明らかに。後半で明かされる真相には思わず茫然。驚天動地の一発ネタで勝負している。よくこんなことを考えるなとあきれるしかない。 |