皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
猫サーカスさん |
|
---|---|
平均点: 6.19点 | 書評数: 405件 |
No.3 | 5点 | イタリアン・シューズ- ヘニング・マンケル | 2021/09/30 18:45 |
---|---|---|---|
マンケルといえば刑事ヴァランダー・シリーズが有名だが、本書はミステリ色の薄い独立した作品となっている。物語はヴェリーンの一人称で進行するが、何より目につくのがこの男の性格だ。あまり好感の持てる人間じゃないのである。他人の荷物をあさる、手紙を勝手に読む、会話を盗み聞きするのは常習。自意識が強く、己のプライドを守るためなら平然と嘘をつく。自分に正直といえば聞こえはいいが、なにぶん感情が複雑で傷つきやすく、急に感情を噴出させたかと思えば、すぐに自己嫌悪したり、理解できない行動に出たりする。とにかく孤立しやすい気質なのだ。そんな彼のエゴの塊ともいえる孤島の住処に、37年前に捨てた恋人が現れたことで無味乾燥とした生活は一変、引きこもって空費した時間ならびに背けてきた現実を受け止めざるを得ない状況に陥っていく。だから穏やかな話では全くない。むしろ様々な悔悟や警句に満ちた悲喜こもごもの激動の旅なのである。老人が主役ではあるけれど、男女問わず幅広い年齢層に味わい深い感慨と省察をもたらしてくれるだろう。 |
No.2 | 6点 | 五番目の女- ヘニング・マンケル | 2018/02/22 20:50 |
---|---|---|---|
長年不仲だった父親とヴァランダーのローマ旅行から始まる。帰国した彼を待ち受けていたのは、竹で串刺しにされた老人の死体だった。さらにもう一人の惨殺された死体が発見され、彼は連続殺人を予見する。被害者たちの過去を徹底的に洗い、共通点を探ろうとするヴァランダー。このシリーズの魅力の一つは、警察の捜査や刑事の姿が極めて丹念に等身大で描かれていることでしょう。とりわけ本作では、育児と仕事を両立しようとする女性刑事が印象に残る。地道な捜査がじりじりと真相に近づいていく過程は、相変わらずスリリングで、作者のストーリーテラーぶりを再認識させられた。今回のヴァランダーは恋人との間がなかなか進展せず、娘にも批判的な事を言われ、父親も亡くなり焦燥と苦悩を募らせる。しかし、そうした弱さを併せ持つ人間臭さゆえに、彼は犯人の心の奥に分け入ることが出来るのでしょう。魅力的なシリーズ。 |
No.1 | 7点 | ファイアーウォール- ヘニング・マンケル | 2017/10/09 15:36 |
---|---|---|---|
スウェーデンの刑事ヴァランダー・シリーズの邦訳8作目。少女2人がタクシー運転手をハンマーとナイフで襲い、金を奪う事件が起きる。最近の若者は理解できないと嘆くヴァランダーだったが、一人の少女が警察署から逃げ、変電所で黒焦げ死体となって発見されたことから、別の事件との意外なつながりが見えてくる。プライベートでの孤独と職場での疎外感を抱え、ときに怒りを爆発させ、ぼやきながらも、悩みをねじ伏せて事件解決へと突き進んでいくヴァランダーの姿が、いつもながら人間くさくていい。 |