皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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猫サーカスさん |
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平均点: 6.19点 | 書評数: 407件 |
No.3 | 6点 | パラダイス・ロスト- 柳広司 | 2023/05/05 18:37 |
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大日本帝国陸軍の内部に秘密裏に作られたスパイのエリート養成学校「D機関」の活躍を描く「ジョーカー・ゲーム」シリーズの第三作。魔王と呼ばれ、過去の経歴が一切謎の包まれた男、結城中佐がたった一人で作り上げたD機関、とにかく能力が半端ない。いずれも一流大学の秀才であり、運動力や戦闘力にも優れ、語学もおそろしく堪能、さらには完璧な変装と、演技で別人になり切り、人身掌握術の達人であるという、ほとんど出来ないことはないのではとさえ思えるほどすごい連中なのだ。この超人的というべきD機関の若きスパイたちが、毎回様々な事件に遭遇したり、自らひき起したりする、それがこのシリーズの醍醐味である。それと同時に忘れてならないのは、この短編連作がミステリとして実によく出来ているということである。「死ぬな。殺すな。とらわれるな。」これがD機関の戒律である。すべて頭脳戦であり、意外性に満ちたスパイミステリである。 |
No.2 | 6点 | 虎と月- 柳広司 | 2021/09/21 19:13 |
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中島敦氏の名作「山月記」を題材にした異色ミステリ。父は虎になった。幼い頃から、そう聞かされて育った十四歳の「ぼく」は、父がなぜ虎になったのか、その真相を突き止めるための旅に出ることにした。やがて「ぼく」は、目的地の村で遭遇した出来事を経て、父が詠んだという一編の漢詩の謎に迫る。恐らく高校時代の教科書で「山月記」を読んだという人は多いでしょう。中国の説話を元にしたこの作品をさらに作者は、李徴の息子を主人公にして書き直した。唐の時代の歴史的な背景をそのまま生かしつつ、子供の語りを導入することにより、ミステリとしての謎、ひねり、そしてユーモアまでも効果的に盛り込んでいる。若者向けに書かれた平明な現代文で読む「新・山月記」として、大人の読者もぜひ手に取ってほしい。 |
No.1 | 5点 | キング&クイーン- 柳広司 | 2021/07/12 18:32 |
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警察を辞めた女性が主人公となる異色サスペンス。冬木安奈は、六本木の雑居ビルにあるバー「ダズン」で働いていた。元SPの彼女は、その経歴から店へ来る女性客のために用心棒の役目を果たすことがあった。だがある日、常連客に連れられて店に来た栄蓮花から、アンディ・ウォーカーという男の警護を依頼された。彼は元チェス世界王者だった。果たして安奈は最善手を打ってアンディを守れるのか。本作は、チェスの世界を現実に置き換え、いかに盤上のキング、アンディを守るか、その戦いに挑むヒロインの活躍が描かれている。安奈とアンディそれぞれの過去が現在に絡み、緊迫した状況へと展開していく。おそらくチェスを多少でも知っていれば、アンディ・ウォーカーは伝説のチェスチャンピオン、ボビー・フィッシャーをモデルにしていることは明白だろう。しかし当然ながら、様々なフィクションがほどこされており、単に実在した天才の経歴をなぞるだけではなく、チェスを模した要人警護の話にとどまってもいない。読み手さえも騙してチェックメイトとなる。 |