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小原庄助さん
平均点: 6.64点 書評数: 260件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.6 8点 独逸怪奇小説集成- アンソロジー(国内編集者) 2021/03/18 10:00
今でこそ翻訳物のホラーというと、キングやクーンツら人気作家を擁する米国が本場のように思われているが、戦前の日本では、米国のポオと独逸(ドイツ)のホフマンが怪奇幻想物の双璧と目されていた。
また、本書に収められているシュトローブルの「刺客」は、森鴎外の名著「諸国物語」に訳載され大正期から親しまれてきた名作だし、やはり本書所収の「蜘蛛」をはじめとするエーヴェルスの諸作は、モダニズムと探偵趣味の雑誌「新青年」に訳載され好評を博した。独逸表現主義映画に傾倒していた谷崎潤一郎は、エーヴェル原作の「プラーグの大学生」を最愛の一本に挙げ、江戸川乱歩は「蜘蛛」を改作して「目羅博士の不思議な犯罪」を執筆している。
独逸怪奇文学紹介の先覚者、前川道介が渉猟の折節、慈しむように翻訳した有名無名作家の珠玉作二十八編を収める本書は、日本探偵小説の一源流であり、夢幻の美と魂の戦慄に満ちた、ゲルマンの怪奇世界再発見に最適の一巻である。

No.5 6点 現代語訳 怪談「諸国百物語」- アンソロジー(国内編集者) 2020/10/08 08:51
江戸時代、「百物語」と呼ばれる怪談会が流行した。夜に灯心を100本ともし、恐怖譚が語られるごとに、1本ずつ消していく。全てが消された時に怪奇現象が起こるとされ、「御伽百物語」や「太平百物語」など相次いで刊行された。
参加者が集まる部屋と隣の部屋は無灯、一番奥まった部屋に灯心を備え、1話終えたら手探りで灯心が置かれた部屋へ...。中世の御伽衆に由来するとも武家の肝試しに始まったとも伝えるが、訳者によると本書はその嚆矢とされる「諸国百物語」の「おそらく初めて全話を通しての現代語訳」だという。
北は奥州仙台から南は九州筑前・豊後まで全国各地の怪奇話を収める。幽霊や蛇、執心にまつわる話が多いが、恐ろしい内容ばかりではなく、おかしみのある逸話や霊を供養して幸福な結末を迎えるものもあり、物語はバリエーションに富む。
抑圧され黙殺されてきた存在や悲痛な心情を異形のものとして捉え直し、そして語る。緩やかに社会へと還流させようとする試みも透けて見える。

No.4 7点 20世紀ラテンアメリカ短篇選- アンソロジー(国内編集者) 2019/08/29 09:28
「中南米文学、何から読めばいいかわからない」方に推薦したいのが、スペイン語圏文学の目利き・野谷文昭による本書だ。
マヤの仰臥人像をめぐるカルロス・フエンテスの恐怖譚「チャック・モール」のような有名な作品から、未知の作家の隠れた名作まで16篇を収録。初心者のみならずディープな読み手も満足できる逸品なのだ。
静養のため、湖畔の別荘に滞在している病み上がりの(僕)。地元住民から「鮭(サルモン)先生」と呼ばれる医師のめいと宿命的な出会いを果たし、愛するようになるも・・・。マッドサイエンティストSF風味の、ひねりの効いた恋愛譚になっている、アドルフォ・ビオイ=カサーレスの「水の底で」。旅先で夜の散歩に出かけた(僕)を襲った強盗が要求したのは金品ではなく、目だったというオクタビオ・パスの幻想ホラー「青い花束」。
といった、ハズレなき名篇ばかり収められているのだけれど、アンチ・ハッピーエンド派の方にお薦めしたいのは、アンドレス・オメロ・アタナシウの「時間」だ。掌編5作で構成されていて、最後に必ず息を呑むような仕掛けが用意されているのだけれど、それがもたらすのはかなりシニカルな読後感。笑い、驚き、恐怖、さまざまな読み心地と出合えるアンソロジーなのである。

No.3 8点 岡本綺堂 怪談選集- アンソロジー(国内編集者) 2018/04/27 09:26
「怪談」という言葉からイメージするおどろおどろしさは一切ない。文章は平易で簡潔。恨みつらみを言い募る幽霊も登場せず、残酷なことも起こらない。「怪談会で参加者が語った話」という体で、不可解な出来事とそれに慄く人々が描かれるだけだ。怪現象らしきことも一つ一つを精査すれば「見間違い」「気のせい」「夢」と考えるのが妥当だ。物語はすべて「偶然の連鎖」で済ませるのが理想的だろう。
そう分かっていても登場人物は恐れてしまう。前後のつじつまを合わせて「何らかの意思」「因果関係」を読み解き「怖いことが起こっている」と解釈してしまうのだ。そして読者もつられて恐怖してしまう。
収録作では「妖婆」が最も印象的だ。ある雪の日、道端に座り込む老婆を目撃した若侍に不幸が訪れる。それだけの話だ。老婆を見たという証言だけがあって実在するかは定かでない。不幸と関係するのかもわからない。ただ読み終わってしばらくの間、まぶたの裏に雪を被った老婆の姿が浮かんで消えない。

No.2 8点 NOVA+バベル- アンソロジー(国内編集者) 2018/04/02 09:34
表題作の作者、長谷敏司をはじめ、宮部みゆき、月村了衛、藤井太洋、宮内悠介、野崎まど、西島伝法、円城塔という豪華メンバーが顔をそろえる。
表題作「バベル」は、宇宙に届く軌道エレベーターが建設された近未来、中東を舞台に、科学技術のいびつな発展と社会的不平等の深刻化という重い主題を、読者の感性に訴えかける物語に結実させている。
収録作はバラエティーに富み、宮部みゆきの「戦闘員」は防犯カメラをモチーフとして、人間とシステムの戦いという、現実と地続きの恐怖を描いているかと思えば、西島伝法「奏で手のヌフレツン」では独特の造語によって異様な世界を描き出し、奇妙なリアリティーを醸し出す。また野崎まど「第五の地平」は恒星間宇宙の征服に挑むチンギスハンの物語という型破りな作品で、無理矢理の設定を合理化する胡散臭い「科学的説明」をでっち上げる力量には目を見張る。名状しがたい面白さでは、円城塔の「Φ」も負けていない。宇宙の終末という科学的にして哲学的な題材を、独自の言語実験的記述で描き、しかもユーモラス。
他の収録作品も力作で、本書を読んだ夜、興奮して眠れなかった。

No.1 7点 絶望図書館- アンソロジー(国内編集者) 2018/03/09 09:30
絶望をキーワードに、国内外の短編12作が集められている。
絶望で終わる作品、絶望から立ち直る作品、胸をえぐる作品、切ない作品、とぼけた作品などさまざま。
筒井康隆の「最悪の接触」は、地球人と異星人の超絶なディスコミュニケーションの話なのだが、人間同士の話としても読めるところが怖い。川端康成の「心中」は2ぺージのごく短い作品ながら、異様に理不尽な死を読者に突き付けて終わる。シャーリイ・ジャクスンの「すてきな他人」は、出張から帰ってきた夫が別人という奇妙な設定なのだが、それに気づいた妻の反応がさらに奇妙という二重、三重にゆがんだ物語。
絶望している人も、絶望を知らない人も、みんな楽しめる、絶望アンソロジー。さらに、表紙カバーが素晴らしい!よくこんな写真を見つけたなと思う。

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小原庄助さん
ひとこと
朝寝 朝酒 朝湯が大好きで~で有名?な架空の人物「小原庄助」です。よろしくお願いいたします。
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平均点: 6.64点   採点数: 260件
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