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小原庄助さん
平均点: 6.64点 書評数: 260件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.2 7点 営繕かるかや怪異譚- 小野不由美 2021/12/28 07:33
この連作短編集の主役は「家」である。全六編、いずれの物語でも、それぞれの住まいの中で、或いはそのすぐそばで、ふと妙な出来事が起こり始める。そこを住まいとする者たちは、最初は気にしないようにするのだが、出来事は次第にエスカレートしてゆき、ある時を境に、紛れもない怪異としての姿を露にする。祟りではなく障り。何かが、誰かが障っているのだ。そこに営繕屋が登場する。尾端というまだ若い男で、名刺には「営繕かるかや」とある。つまり彼は家を修繕・改築するのが仕事だ。だが尾端には不思議な評判がある。彼は住まいに手を入れることで、障りを直すことが出来る。かといって彼は霊媒師ではない。障っている誰かの想いを推し量り、そこに宿る無念や悲哀を慮って、営繕によって解放してあげるのだ。
冒頭の「奥底より」では、亡くなった叔母から相続した町屋に独り住まいの女性が、奥庭に面した狭い廊下の向こう、開かずの間と化した奥座敷の襖が、閉めた筈なのに開いていることに気付く。何度閉めてもいつの間にか開いている。そして或る日、そこから女が出てくる。怪異がぬうと顔を出す瞬間の切れ味は、この作家ならではである。だが、かるかやの処置は、あくまでも家に、住まいに対するものであり、従ってこの種のお話にありがちな理屈抜きの神秘性とは一線を画している。尾端は文字通り、住まいを直すだけなのだ。それぞれの主役である家の構造や設計は、緻密かつ明晰に書かれている。かるかやが施す営繕も極めて具体的だ。この趣向が本書に凡百の怪談、心霊、ホラー小説とは全く異なる新しさを与えている。いわばこれは一種の建築小説である。しかしそこでは同時に、人の心も建築として、住まいとして扱われている。

No.1 8点 華胥の幽夢- 小野不由美 2018/03/04 09:45
本シリーズの世界観では、霊獣麒麟が王を選ぶ。王が道を誤ると麒麟が病んで死に、そのことによって王が玉座を追われて国が滅ぶのだが、「華胥」はまさにその麒麟が死の危機に瀕しているという話なのだ。
だが、王は暴利をむさぼっているわけでもなければ、統治に倦んで放埒に明け暮れているわけでもない。むしろ彼は、かつて愚策を続ける前王を糾弾して民の支持を受けてきた存在で、実際に王に選定されてからも国土の立て直しに全力で取り組んできた。なのに、なぜ。
そして物語は、やがてある一文にたどり着く。「責難は成事にあらず」
人を非難することは何かを成す事ではない。彼は前王とは違う道を進めば間違いないと信じてきた。だが、疑いを持たないということは、その意味について深く考えないということでもある。
自分はまさにこれではなかったか。相手にも相手なりの意図や理想や欲求や正義があることを想像してみることもなく、ただ自分の思考に相手を当てはめてきただけではなかったか。
この一文によって、人生観すら変わった。そうして本が持つ力を身をもって体感したことで、さまざまな人間の内面に向き合ってみたいと思わせてくれた。

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小原庄助さん
ひとこと
朝寝 朝酒 朝湯が大好きで~で有名?な架空の人物「小原庄助」です。よろしくお願いいたします。
好きな作家
採点傾向
平均点: 6.64点   採点数: 260件
採点の多い作家(TOP10)
評論・エッセイ(11)
伝記・評伝(6)
アンソロジー(国内編集者)(6)
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