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人並由真さん
平均点: 6.34点 書評数: 2190件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.3 6点 ハワイの気まぐれ娘- カーター・ブラウン 2019/08/02 17:23
(ネタバレなし)
「おれ」こと、横顔(プロフィール)の男前ぶりに自信がある、ニューヨークの私立探偵ダニー・ボイドは、実業家エマーソン・レイドの依頼を受けてハワイに来ていた。仕事の内容は、エマーソンの若妻ヴァージニアがこの地で高級ヨットの船長エリック・ラーセンと不貞を働いているのでその現場を押さえ、ハワイから二人を放逐しろというものだった。不倫の証拠固めだけなら理解できるが、なぜハワイから両人の追放まで完遂させる必要があるのかとボイドはいぶかる。そんなボイドはまずエマーソンの指示を受けて、ハワイの現状のガイド役を務めるという若い娘ブランチ・アーリントンの自宅に向かったが、そこで彼が見たのは喉を裂かれたブランチの死体だった。やがて事態は、十数年前に起きたある過去の事件へと連鎖していき……。

 1960年作品。おなじみのミステリ研究サイトaga-search.cの書誌データに拠れば私立探偵ダニー・ボイドの第四作目。
 評者の場合、これもまた大昔に読んで忘れているかもしれない、それでもまあいいや、と思って頁をめくったが、最後まで読んでも、たぶんコレは初読の作品のようだった。とりあえず一安心(笑)。
 序盤からの意図不明な殺人、依頼人の奇妙な依頼、主人公の探偵を見舞う危機、そして物語のハシラとなる、ハワイ当地のモロ現代史にからむ(中略)……とエンターテインメントとしてのお膳立ては充分。ストーリーの後半は私立探偵主役の推理小説というよりは冒険スリラーに近くなるが、最後まで二転三転の筋運びでアキさせない。
 細部で「そこのところはどうだったんだ?」とツッコみたくなるような描写が出てくると、作者の方でうまい呼吸で切り返す手際も良く(第11章の辺りとか)、実にストレスもなく楽しめる娯楽編。 
 殺人事件のフーダニットとしては手がかりや伏線がほとんど用意されてないのは弱いが、真犯人の発覚に際してはこの作品なりに工夫も設けられており、なかなか悪くない感触ではある。
 「誰が最後に笑うか」パターンで隙あらばだまし合おうとする悪党どもも、そして最後にボイドを(中略)する意外な伏兵も、良い感じでキャスティングが揃えられている。三時間はしっかり楽しませてくれる一冊。

 ちなみにタイトルロールの「ハワイの気まぐれ娘」ってのは、ハワイの酒場「ハウオリ・バー」のフラ・ダンサーでハワイ諸島の一角ニーハウ島出身の美少女ウラニのことなんだけど、それほど気まぐれ娘じゃないし(どっちかというとマジメな子)、そもそもメインヒロインでもない。メインのヒロインは、ブロンドでおっぱい美人のヴァージニアの方なんだけどね。まあカーター・ブラウン作品の邦題はお女性がらみのタイトリングが通例なので、せっかくのハワイ設定にちなんだウラニの方を題名に持ってきたって事だろうけど(そもそも原題からして「The Wayward Wahine」だから「強情なポリネシアン=ハワイ娘」の意味で、そんなにおかしくはないのだが。)。

No.2 5点 キー・クラブ- カーター・ブラウン 2018/11/26 13:41
(ネタバレなし)
「おれ」ことハリウッドの私立探偵リック・ホルマンは、実業家カーター・スタントンの依頼を受ける。スタントンは「プレイボーイ」の亜流雑誌「サルタン・マガジン」の発行と、その関連企画の男性専用クラブ「ハーレム・クラブ」の経営で一山当てた男だ。だがそのスタントンの自宅の中に「お前はひと月内に死ぬ」という死の予告状が、何者かの手によって二回も置かれていた。調査を始めたホルマンは、スタントンの周囲の人間たちを洗うが、やがてクラブの女性コンパニオン「天女」の一人だった娘シャーリー・セバスチアンが、馘首されたのちに自殺していたという事実が浮かび上がってくる。
 
 原書(英語版?)は1962年の作品。アル・ウィーラー、ダニー・ボイドに続く三人目のカーター・ブラウンのレギュラー男性ヒーロー、リック・ホルマンものの第二弾。当初ポケミスでは本作が、原書でのシリーズ第一作として紹介されたが、実際にはホルマンものの別長編『ゼルダ』の方が先らしい(最近のwebなどのデータベースが正しければ)。
 ちなみに『ゼルダ』は膨大な数のポケミスの中でも<ある理由>ゆえに稀少なトンデモナイ一冊である。その理由はここでは書く訳にはいかないので、興味あったら自分で読んで呆れてください。しばらく前に読んだ時は、最後まで目を通してもう一度冒頭からページをめくって、ポカーンとなった。
 評者は大昔にアル・ウィーラーもの、ダニー・ボイドものはほとんど読んじゃって(といっても大方の作品の内容は忘れているが)、ほとんど手つかずの翻訳がある長めのシリーズはこのホルマンものくらい(メイヴィス・セドリッツものは半分くらい消化?)だが、なんか本シリーズは先の二系列(ウィーラー&ボイド)と雰囲気が違う。いやウン十年前の記憶と比較してもアテにならないが、もうちょっとお遊びやお笑い要素が薄めの、フツーの軽ハードボイルドというか。たぶんウィーラーのアナベル・ジャクスンとか、ボイドのフラン嬢とかのレギュラーヒロインがいないせいもあるだろう。(といいつつ本作も、ホルマンが事件の最中に急にパンティを落とした女性に遭遇し、エロコメディ風になるくだりもあるが。)

 本書はミステリ的にはそんなに奥行きのある謎解きじゃないけれど(それでも真相の反転劇などは用意されている)、成り上がり者のスタントンに対して微妙な歩幅を保つホルマンの描写とか、同じくホルマンと暗黒街の大物との駆け引き(災禍に遭いそうな女性を守るため)とか、きちんとハードボイルド私立探偵ミステリとしての描写も守られていて、その辺はいい。お笑いコメディハードボイルドというよりは、まっとうな、B級の私立探偵小説っぽい。

 ただし矢野徹の訳文は丁寧すぎて、ホルマンのワイズクラックをイマイチこなれの良いギャグにできてなかったね。二回読み返して、ああ、そういう意味ね、というジョークがいくつかあった。カーター・ブラウンの訳者なら田中小実昌か山下諭一が基本、というのは、大方の世代人ファンの一致するところだと思うけれど、こないだ読んだ『雷神』とか、他の人の翻訳でそんなに悪くないのもあるし。その辺は柔軟に読んでいきたい。読み返していきたい。

No.1 5点 雷神- カーター・ブラウン 2017/07/25 20:07
(ネタバレなし)
コンピュータ開発の大手企業社長デイン・ガローが行方をくらました。彼は秘書で愛人 の美女リタ・ブレアとの関係を何者かに脅迫され、6万ドルに及ぶ会社の資産を横領していた疑惑がある。ガローは美人の妻セルマの宝石も現金にかえたらしく、ウィーラーは手掛かりを追って宝石商ギルバート・ウルフを訪ねるが、そこで殺人強盗事件に遭遇。同時に街で暗躍する金庫破りのハーブ・マンデルたち悪人トリオの存在を知った。二つの事件はどう結びつくのか。

ポケミスで最後に刊行された作者の邦訳作品。
大昔にカーター・ブラウンの作品はかなり読んだが本当に久しぶりに本書を手に取った。
B級クラスのミステリとして意外な展開(ただし最後のどんでん返しを早々と察する人もいると思う)、軽妙でお色気に満ちたストーリー運びといつもの作者の一冊だが、今回は後半、法廷ものの興味が強くなり、いつもはやかましいオヤジのレイヴァーズ保安官が意外にカッコいいのが印象的。
なおその保安官の秘書でウィーラーといつもはツンデレ的な掛け合いをするアナベル・ジャクスンは、本作の数冊前の『死のおどり』でほぼ恋人関係までいったんだけど、また二人の間柄は初期化されてるね。
まあその方が楽しいんだけど。

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人並由真さん
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以前は別のミステリ書評サイト「ミステリタウン」さんに参加させていただいておりました。(旧ペンネームは古畑弘三です。)改めまして本サイトでは、どうぞよろしくお願いいたします。基本的にはリアルタイムで読んだ...
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