皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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505さん |
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平均点: 6.36点 | 書評数: 36件 |
No.3 | 7点 | 秋期限定栗きんとん事件- 米澤穂信 | 2015/10/06 08:34 |
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2つの視点を巧みに使い分け、決して交差することなく、事件が進んでいくところが◎。
ミッシングリンクものとして高いレベルにあり、巧妙なミスディレクションも効いているために真相のインパクトは中々。 〝探偵〟が推理を披露する『対決シーン』のクライマックスは圧巻の一言。ここまで容赦なく人物を痛めつけるとは、肌が粟立つ。最終章にあたる『第六章』に至るまでの〝反転の構図〟が〝俯瞰の構図〟になるシーンは美しく、最後の一行の破壊力は名作たる証明を成している。彼らの小市民への道程は険しいばかりだが、彼らの美学はどうも蠱惑的である |
No.2 | 6点 | 夏期限定トロピカルパフェ事件- 米澤穂信 | 2015/09/30 21:17 |
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前作から時間がかなり経過しており、高校2年の夏休みになっている。長編小説という体裁を採っているが、最初の2篇だけは比較的独立しているのが特徴的。 また、ミステリとしての仕掛けも前作以上であり、一本のネタで持っていくパワーがあるのは確か。
「シャルロットだけはぼくのもの」は倒叙ミステリ。犯行が如何に暴かれるのか、という知恵比べを楽しめる。犯人の行動の隙を突いたのは実に巧妙な視点。整理された情報量の豊富さが、ある種のミスディレクションになっているところが憎い。 「シェイク・ハーフ」は暗号モノ。暗号そのものに秘められた想いというよりかは、何故そういう体裁になったのかに近い気がする不思議な1篇。不思議といっても、頓珍漢な雰囲気が漂う訳でもなく、きちんとした筋道がある。どういった経緯で、その暗号を読み取ったのか。ライトに描かれても、芯はぶれず。この手軽さが売りでもあるので、それに適した作品と言える。 本編でもある『夏期限定トロピカルパフェ事件』は実に技巧的。小佐内さんというキャラから、ある程度は事件の真相は見えてくるのが瑕であるが、圧巻の論理と帰結はインパクト大。ここまで人を動かすとは、米澤穂信の手腕が恐ろしい。愛くるしいキャラ達からの〝反撃〟は、まさに読者への挑戦に思える。 『古典部シリーズ』とは違って、徐々に派手になっていく様が末恐ろしい。果たして彼ら自身が火傷する日は来るのだろうか |
No.1 | 5点 | 春期限定いちごタルト事件- 米澤穂信 | 2015/09/30 20:33 |
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〝小市民〟という目的を持つ探偵役が遠回りをしつつも、消極的に絡む構図が微笑ましい。
「羊の着ぐるみ」は、不自然な行動を上手くカモフラージュしている点がよく出来ている。そこから発想を展開していく流れもスムーズ。2人の関係性を端的に表現することに適した短編としての役割もきちんと担っている。 「For your eyes only」、これはやはり強烈なオチ。この容赦のない後味こそが米澤節だと感じることも。 「おいしいココアの作り方」のスクラップアンドビルトは、ただの着想と破棄の繰り返しだけではなく、問題の捉え直しが強調されている所がポイント。「どのようにココアを作ったのか」という日常の謎の中でも比較的取っ付き易い状況を演出している所が良い。真相もミスディレクションが効いており、人物の行動に沿ったものだという説得力があるのが素晴らしい。 「はらふくるるわざ」はミステリとしては甘々だが、2人の関係性を問うものとしては興味深い。2人の深層心理と行方に一石を投じる作品になっているという意味では、今後を占う重要な分岐点になっている。 「狐狼の心」で、『春期限定いちごタルト事件』の結末に相応しいストーリーが展開。〝小市民〟への欲求と二面性が露わになる作品。連作短編の味もあり、着眼点の聡明さもあり、推理が連なる様が気持ちいい。「自転車を乗り捨てた」理由から導き出される真相が痒いところに落ちる感覚もありと満足な一篇。小市民シリーズの出だし、そして先行きを予感させるものとして、これ以上に相応しいスタートはないのではないだろうか。 |