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あさぎさん
平均点: 8.67点 書評数: 6件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.6 9点 D機関情報- 西村京太郎 2015/06/22 03:18
西村京太郎、最初期の傑作。

第二次大戦を舞台にしたスパイ小説。これに先立つ『四つの終止符』や『天使の傷痕』でテーマにされたのは「社会的弱者の無力」だったが、本作は「戦時下という時局における正しさの無力」がテーマとなる。
軍人はただ祖国の勝利のために働けばいいのか、それとも戦局を見極め敗れても祖国が生き残る道を模索すべきなのか。敗戦という歴史的事実を知る読者の目には後者の正しさは自明であり、軍人である主人公・関谷も後者が正しいことを感づきながらも、軍人としての使命との間で煩悶する。そして、その果てに下された決断の前に、時局という途方もない壁が立ちふさがる。

読み終えたときに読者の胸に残る思いは、そのまま本作の最後の一行となって現れる。ディテールの濃密さではのちの冒険小説群には及ばないが、初期西村京太郎の美点が詰まった傑作だ。

No.5 7点 たそがれ色の微笑- 連城三紀彦 2015/06/22 02:59
〝幸福〟をテーマにした5編。
表題作を除けば、青春小説の「落葉遊び」、家族小説の「水色の鳥」、童話の「風の矢」と、連城作品の中でも異色な作品が揃った短編集というべきかもしれない。

その中で、彗星のように現れて消えた漫才コンビの同性愛を描く「白蘭」が飛び抜けて傑作。語りの選択、プロットの意外性、タイトルが残すラストの余韻……連城三紀彦の全恋愛短編のベストを争う一篇であり、これだけのためにでもこの本は読む価値がある。
その他の四篇も、ミステリ色は薄めだが、それぞれにしっかり意外性も用意された佳作揃い。『恋文』をミステリとして楽しめる人ならマストバイ。

No.4 10点 宵待草夜情- 連城三紀彦 2015/06/21 02:50
『戻り川心中』に匹敵、あるいは凌駕する連城ミステリの精華。
全5編、いずれも連城三紀彦全短編のベストを争う傑作ばかり。

あまりにも美しすぎる芸道小説でありSM小説であり、二段構えの死体解体の動機に驚愕する「能師の妻」。
不義の愛を描く恋愛小説としての美しさが、残酷すぎる真相を鮮やかに引き立てる「野辺の露」。
儚く切ない男女のすれ違いの中に巧みに伏線を隠匿し、ミステリと恋愛の情緒を結びつける「宵待草夜情」。
怒濤の勢いで詰め込まれたアイデアと反転の嵐に翻弄されるほかない「未完の盛装」。
そして、ホワイダニットの常軌を逸した奇想と〝異形の愛〟が完璧に融合した、「戻り川心中」と対を為す、全連城短編の最高傑作の地位を伺う大傑作「花虐の賦」。

『戻り川心中』と並んで、国産ミステリー史上に燦然と輝いているべき傑作集なのに、本作はあまりに埋もれすぎている。ようやく復刊されたわけだし、再評価されてもらいたいもの。

No.3 9点 [映]アムリタ- 野崎まど 2015/06/21 02:37
鬼才・野崎まど、驚愕のデビュー作。

本作は一見、最原最早というひとりの天才を中心に、映画作りに情熱を賭ける青春小説以外の何物でもない。
だが、その天才の〝天才性〟が常識を突き破るとき、物語は全く別の何かに変貌する。
何を書いてもネタバレなのだが、最原最早の異形の天才性が導き出す現象が、驚愕の真相を導き出すという意味で、本作は紛れもなくミステリーであり、同時にSFであり、あるいはまたホラーでもある。
ジャンルの枠すら軽々と飛び越えて予想だにしないところへ読者を連れて行く傑作。

No.2 8点 美女- 連城三紀彦 2015/06/19 06:26
〝演技〟をテーマにした8編の恋愛ミステリー集。

何はさておき「喜劇女優」は一読呆然、二読三読してもなぜこんな趣向が成立してしまうのかさっぱりわからない、連城三紀彦以外は書こうと思っても書けないだろう空前絶後の怪作にして傑作。これを読まずして連城ミステリは語れない、連城三紀彦のひとつの到達点だ。
他にも〝殺人のアリバイを別の殺人で主張する〟という抜群に魅力的な謎にくらくらする「夜の二乗」、お家芸と言える構図の反転が鮮やかに決まる「夜の右側」、やたら複雑な計画をたてる犯人の視点で描く倒叙ミステリー(?)「他人たち」など、見逃せない作品が揃う。
色々な意味で、90年代の連城短編集を代表するに相応しい一冊だろう。

No.1 9点 ゆきなだれ- 泡坂妻夫 2015/06/19 06:11
なぜこれが埋もれているのかわからない、泡坂妻夫の短編集の最高峰たる傑作集。
とりわけミステリとしての解決があまりに哀切な真相に結実する表題作は、傑作揃いの泡坂全短編の中でも最高傑作の座を伺う名作中の名作で、これ一本のためだけにでも読む価値がある。
それ以外も「厚化粧」「迷路の出口」「雛の弔い」「闘柑」など、泡坂恋愛・人情小説とミステリーの技巧が最上級に絡み合った逸品が揃う。
連城三紀彦の『戻り川心中』『宵待草夜情』などと並び、日本的な美意識とミステリーが幸福な結婚を果たした、初期の本格スピリットを残しつつ人情路線にシフトし始めた頃の泡坂妻夫にしか書けなかった傑作集として再評価を求めたい。復刊はよ。

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