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ひなめさん
平均点: 6.00点 書評数: 3件

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No.3 7点 黒いトランク- 鮎川哲也 2026/09/22 09:23
『黒いトランク』は1956年に発表された、鬼貫警部シリーズの代表作であり、鉄道の時刻表を駆使した「アリバイ崩し」の古典的名作である。横溝正史の『蝶々殺人事件』に刺激を受け、そのトリックを着想した作品でもある。

『蝶々殺人事件』には、事件そのものを舞台劇のように見せる華やかな演出がある一方、『黒いトランク』は、作者自ら地味でテンポの遅い作品だと評しており、それでも純粋に論理を楽しみたい読者なら十分満足できると冒頭で宣言している。その言葉どおり、派手さよりも論理で正面から勝負する作品だった。

トランクだけでなく、列車、船、郵便物、死体など複数の「移動」が複雑に絡み合うが、提示される情報の多くに嘘がない。しかし、それらの事実を常識に沿って素直につなげていくと、かえって誤った事件像ができあがるよう巧妙に仕組まれている。

そのため、情報そのものを疑うのではなく、読者自身の思い込みを疑い、それらをどう組み合わせて解釈していくかが求められる。『蝶々殺人事件』よりも、与えられた事実を論理によって組み替えて真相に迫るフェアプレイ色が強く、その徹底した論理性が印象に残る作品だった。

No.2 6点 蝶々殺人事件- 横溝正史 2026/09/08 21:44
『蝶々殺人事件』は、1946年に発表された長編探偵小説で、名探偵・由利麟太郎が活躍するシリーズの代表作である。冒頭ではフェアプレイを宣言し、読者にも犯人を当てる機会が与えられることが明言されている。さらに終盤には「ここまでで犯人の計画を見破る材料はほぼ出揃った」と、読者への挑戦状まで用意されている。

ただ、本作の舞台は歌劇団で、登場人物の多くが演技の専門家。誰もが芝居じみているため、目の前で起きていることのうち、何が事実で何が演技なのかを見極める必要がある。

推理に必要な材料はすべて提示する、と約束されていても、その中には嘘や芝居、さらには合理的な目的がないイタズラ遊びみたいな行動まで混じっているため、何を信じるかあるいは疑ってかかるかを読者自身が選別しなければならない。

そのため、必要な情報自体は提示されているのでルール違反とは言えないものの、クイーン作品のように「提示された手がかりを論理的に組み立てれば、読者も犯人にたどり着ける」という意味でのフェアプレイと比べると、かなり不親切に感じた。作者自身が挑戦状の中で「フェアに書けているかどうかは疑問」と少し弱気になっているのも頷ける出来だと思った。

一方で、後半になるにつれて、それまで事実だと思っていた出来事が実は別の意味を持っていたことが次々と明らかになる。振り返ると、同じ場面が違って見え直していくところは面白いと感じた。

No.1 5点 モルグ街の殺人- エドガー・アラン・ポー 2026/08/16 16:06
『モルグ街の殺人』は、1841年に発表された短編推理小説で、名探偵が推理によって事件を解決するという近代的な探偵小説の原型を作った作品である。

ただ、現代の本格ミステリとして読むと、読者が犯人を推理するための伏線やフェアな手がかりは十分とは言いにくく、犯人の正体も意外ではあるものの、やや奇抜で肩透かしに感じた。密室の真相も、警察が窓をもっと念入りに調べていれば簡単に気づけたように思える。

特に、デュパンは警察を「細部を徹底的に調べるが、全体を見る力がない」と批判しているのに、その警察が肝心の窓を十分に捜査していない点には矛盾を感じた。デュパンの優秀さを見せるために、警察が都合よく無能に描かれている印象がある。

一方で、この作品が重視しているのは精巧なトリックよりも、デュパンがどのように観察し、普通とは違う点を見つけ、警察の前提を疑って真相へ近づくかという思考プロセスなのだと思う。

現代の本格ミステリとして見ると粗さはあるが、名探偵、警察との対比、密室、論理的推理といった後の探偵小説の土台を作った歴史的に重要な作品だと感じた。

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