皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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名探偵ジャパンさん |
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平均点: 6.21点 | 書評数: 370件 |
No.7 | 7点 | 家守- 歌野晶午 | 2019/05/13 16:51 |
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一話目の「人形師の家で」を、なかなかいい心地で読んでいたところ、ラストの人形トリックで、「えー」となりました。あの状況に追い込まれても、ああするかなぁ? トリックのために人間を動かす、大山誠一郎イズムを感じました。
続く「家守」と「埴生の宿」は、完全な島荘イズムが込められていますね。特に「埴生の宿」の、あの豪快な仕掛け。島田荘司が書いたと言われても私は信じますよ。 残る「鄙」と「転居先不明」も、ついでに無理矢理他者の作風に当てはめると、正史イズムと乱歩イズムになるでしょうか。 以上五編。作者の引き出しの広さを再確認させる、好中編集でした。 |
No.6 | 7点 | そして名探偵は生まれた- 歌野晶午 | 2016/08/19 20:47 |
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「そして名探偵は生まれた」
メタミステリというか、「リアル名探偵もの」です。ミステリ作家はやはり誰しも、こういったテーマには一度手を出してみたくなるものなのでしょうか。 リアルと虚構に折り合いはつくのか? 藤子不二雄の怪作「劇画オバQ」を思わせる作品。(…って、前にもこんなこと書いたな) 「生存者、一名」 「孤島もの」の宿命である、「閉じ込められた理由」と「外界と連絡を取れない(取らない)理由」に一石を投じた意欲作です。こういう設定の孤島ものは初めて読みました。 サスペンス的展開になっていった辺りから、「これは推理や予想しながら読むともったいない」と思い、文章を受け入れるがままに読んでいったためか、私はかなり楽しめました。 「館という名の楽園で」 「そして名探偵は生まれた」に続くメタミステリもの。 本作のポイントは、「館の見取り図がきちんと製図されたものでなく、作中の登場人物が描きなぐった(という設定の)ラフ画がそのまま使われている」というところです。この館の見取り図を綾辻作品のようなメタ視点からの「製図」にしてしまうと、アンフェアになってしまうための処置です。こういう心配りは、さすがだなと感じてしまうのです。 「夏の雪、冬のサンバ」 他の方の書評にもありましたが、さすがに傾きすぎ(笑)地盤沈下や事故でそうなったというよりも、わざとやってるレベル。 最後、探偵が一杯食わされるところなんかは好きです。 全4編。バラエティに富んだ力作揃いの一冊でした。 |
No.5 | 6点 | 春から夏、やがて冬- 歌野晶午 | 2015/06/01 09:31 |
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叙述トリックというものは、つくづく作家にとっては劇薬だなあと感じた。
もう、最初から疑ってかかって読んじゃうからね。「この登場人物の性別は? 年齢は? 舞台となっている時代は?」地の文でそれらを表す記述が出ると、ほっと胸をなで下ろす。しかし、「いやいや、この地の文自体が何者かの手記、という可能性も…」だめだ、全然話に入っていけない。もう頭からっぽの夢詰め込める状態で読もう。 結果、夢どころか、陰鬱な結末によるブルーな気持ちだけが詰め込まれてしまいました。悲しい話だ。悲しいだけならいいのだが、ヒロイン(?)を地獄の道に連れ込んだ人物に対する作中の解答がないまま終わってしまっている。確か、他の作家だが、「天使のナイフ」という作品でも同じような事を書いた記憶があるが、エンターテインメントなら、悪には作中できっちり裁きを下してもらいたい。社会派はエンターテインメントを標榜してるわけじゃないからいいのかなぁ? |
No.4 | 5点 | 密室殺人ゲーム王手飛車取り- 歌野晶午 | 2015/04/15 10:46 |
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ひどい設定だな、と思ったが、読み進めていくうちに、読者である自分もトリックについて推理しながら、良心よりも好奇心に駆られ読んでしまっていることに気が付く。
主人公たちがあれだけやっても、警察に尻尾を掴ませもしないという(そもそもこの世界の警察は働いているのか?)ところなど、この作品は完全なファンタジー。 「殺人鬼が何をやっても絶対に捕まらない」という特殊設定ありきで成り立っているミステリだ。 だから無辜の被害者が殺されまくっているというのに、不思議と嫌悪感はそれほどでもない。「人間が描けていない」とは、かつて新本格に浴びせられた批判だが、この作品の登場人物は主人公らも被害者も含め、全員人間ですらない。ファンタジー世界の駒、ゲームのキャラクターだ。読んでいて良心があまり痛まない原因もここにある。「ドラクエ」で、殺したスライムにかわいそうと思わないのと同じだ。 要は「ポケット推理クイズ」的な問題集に書かれた殺人被害者にいちいち同情したり、犯人に憤ったりしないのと同じ。 だから、最終章は蛇足だった。「たかがゲームの駒が何人間ぶってるんだよ」と。 ドラクエで、「あなたが殺したスライムたちにも家族がいたんですよ」とか、「竜王も悪の道に手を染めたことを悩んでいます」などと言われるような「ウザさ」がある。 読者に問題を提供する出題者でしかない駒が、出題以外の何をしようが興味はない。さっさと全員爆死して終わってくれ。と思った。 ……ところが、終わらない。何これ。 |
No.3 | 5点 | 舞田ひとみ11歳、ダンスときどき探偵- 歌野晶午 | 2014/09/10 17:33 |
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何だか誤解を受けそうなタイトルとカバー。
皆さんも想像されたように、こまっしゃくれたガキがアホな警察の鼻をあかして難事件をズバズバ解決。みたいなものかと思ったら全然違った。 ・黒こげおばあさん、殺したのはだあれ? いきなりこの気の抜けたサブタイトルで「むむっ!」と川平慈英みたいな声が出てしまう。が、内容はしごく真っ当なミステリだった。 挨拶代わりの軽いジャブといったところ。 ・金、銀、ダイヤモンド、ザックザク 第一話から繋がる設定に意表を突かれ、またしても「むむっ!」 後味の悪い、救いがない話だった。 序盤の関節技の攻防か。 ・いいおじさん、わるいおじさん どうやら全作、前の事件の設定を引き継いだ形の短編集のようだと気付く。突発的とはいえ、犯人の工作がずさんな気がした。 投げ技などの大技が炸裂しだす。 ・いいおじさん? わるいおじさん? 収録作の中でもっとも捻った作品だと感じた。犯行のきっかけとなった事故は、こういうことをやるのであれば、万が一に供えて何か対策を事前に練っておくのが普通ではないだろうか。片方に急用が入る、急病ということもありうる。(外にいるほうは立場上特に)これもまた救いようのない話。 これは凶器攻撃だ。 ・トカゲは見ていた知っていた 「黒こげ~」に次いでオーソドックスなミステリ。ラストに向けての箸休め的短編。 締めに入る。カウント2.9の連発。 ・そのひとみに映るもの 最後の事件にして主人公のある秘密が明かされる。しかし、それほど感情移入したキャラクターではないため、それを明かされても「ふーん」といったところ。 事件自体も結構捻っている。でも、小二くらいの年齢なら、犯人と思しき人物が手に持っていたものが、あれだと分かるんじゃないかなぁ? フィニッシュホールドで試合終了。いや、不完全燃焼の両者リングアウトか? 中身を読むと主人公はどう見ても刑事のおじさんのほうで、タイトルにある舞田ひとみは、ただヒントを与えるだけ。しかも本人はそうと意識しないまま。 ミステリとしては軽いノリで、子供向けなのかと言われたら、人はガンガン死ぬし、際どい話も含まれており、特に「いいおじさん?~」など、子供に読ませられないのでは? 一般向けドラマ化も無理だろう。 まさかの続編があるようなので、機会があればそちらも読みたい。 |
No.2 | 7点 | 長い家の殺人- 歌野晶午 | 2014/08/23 08:47 |
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皆さんご指摘の通り、見取り図を見ただけでトリックを看破できるという珍しい作品。作者デビュー作ということで、これでよく何かの賞を取れたなと思ったのだが、島田荘司の推薦だったとは。本作刊行の1988年には、まだこれが「驚愕のトリック」として成立していたのか?
また、やはりここの方々の書評はまことに的確で、まさに、ミステリ好きが書いたミステリ、という匂いがそこかしこに溢れている。 本編以上に興味深く面白いのは、新装版冒頭の作者の言葉と、巻末の島田荘司の「薦」で、歌野晶午誕生秘話が語られる。 全面的に直そうかとも思ったが、当時の気持ちまで消えてしまいそうで、やめたという作者の思い。いきなり押しかけてきた作家志望の青年を迎入れる島田の懐の深さ。(全く正反対のイメージがあった。問答無用で門前払いするような。島荘やさしい。御手洗潔のようではないかw もっとも、音楽に無知識であったら、島田に追い返されていたようだが)今では考えられない、古き良き時代のおおらかさに触れた。 作品自体は4点、作者の思いに1点、島荘の「薦」に2点で計7点をつけた。 |
No.1 | 7点 | 葉桜の季節に君を想うということ- 歌野晶午 | 2014/07/17 20:45 |
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毎度おなじみ例のトリックを使っているのだが、他の驚き一発型と違い、例のトリックと作品テーマを合致させているところが評価の対象なのだろう。
確かに読後色々と考えさせられるが、主人公の正体の人が、ああいった行いや喋り方をするのは、やはり違和感、嫌悪感があるなとも思った。 立場にふさわしい振る舞いをすることが、やはり美しいのだと、古い考え方かもしれないが、そう思う。 気になったのは、最後のネタばらし後、色々な問題が有耶無耶にされたこと。読む側はショックでそこまで頭が回らないし、書く方も、一気にテンションが上がってイケイケになってしまったのかもしれないが、読み終わり冷静になって振り返ってみたら、トリックの大胆さで煙に巻かれた感じ。 あと、最近の帯の煽り文句は、ハードル上げすぎだと思ったが、「そこまで言うなら読んでみよう」と思い購入したのも事実で、痛し痒しといったところ。 |