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tider-tigerさん
平均点: 6.71点 書評数: 369件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.5 6点 魔球- 東野圭吾 2018/10/18 23:46
今までの書評でさんざん腐してしまった東野圭吾ですが、本作ははっきり好きだといえる作品です。それほど多くは読んでおりませんが、東野作品ではこれが一番好きかもしれません。初期の本格志向が強い作品の方がこの作者の資質が生きるような気がします。人情話は要りません。実験的な本格、もしくはバカミスを読みたい。
本作はかなり大胆というか無茶な挑戦をしているように思います。だけど、無理やり辻褄を合わせていく。そういうところはカーの『三つの棺』のような読後感、ダメなんだけど、そんなことはもういいやというミステリならではの奇妙な充実感があります。
自分が思う本作の大きな問題点は二つ。
一つは読者を濃霧の中に放り込むような形になっておりますが、ここははっきりとした裏道作り、誤誘導をした方が効果的だったように思える点。
もう一つはダイイングメッセージ(?) あれはない方がよかったのでは。二つの事件を結びつけるために必要だったかもしれませんが、殺害された捕手の写真に書かれた言葉だけで、どうにか筋を展開させることができたのではないかと思います。
あと、おまけで「終章」はない方が個人的には好み。
動機に関しては文句ありません。『容疑者Xの献身』よりよほど納得がいく動機、手段だと思っています。想定以上の事態を引き起こしてしまい、追い込まれていくこと、この人物なら納得できます。1000人のうち1人しかそんな理由では罪を犯さない。でも、その人物が1000人のうちの1人だと読者が納得できるのなら、それは凄い動機なんだと私は考えます。感情移入できなくても構いません。
タイトル『魔球』も決まっていると思います。
瑕疵の多い作品です。文章も現在より拙く、言葉の選び方もやや疑問あったりします。でも、私はこれは好きです。点数は6点としますが、私にとって最高の東野作品候補です。

以下ネタバレ




Tetchyさんの以下のご意見に完全同意。
『東野氏はこの男に武士の魂を託し、“武士の心”という意味を込めて“武志”という名にしたに違いない』
あれは切腹でしょう。首ではなく、なによりも大切だった右腕を落とすことはすなわち介錯だったと。
感動というにはこの犯人は自己中心的に過ぎるし、幼すぎるしなのですが、潔い態度ではあったと思います。

No.4 7点 ある閉ざされた雪の山荘で- 東野圭吾 2017/03/04 15:50
作り物めいたところのある作品だが、私はその作り物感がいい方向に作用していると思う。
とにかく設定がいい。雪なんかどこにもないのに雪の山荘に閉じ込められる、電話があるのに助けを呼べない、こんなおかしな状況に登場人物らが追い込まれるのだが、ぜんぜん不自然ではない。理由づけがしっかりしている。ゆえに殺人事件が本当に起きたのかどうかを推理する愉しみが増す。下手なクローズドサークルよりもクローズドでドキドキワクワク感がすごい。
最初のうちは二人組での行動などあったりもして、読者である私はおいおい危ないなあと思ったのだが、登場人物たちは呑気なものである。登場人物と読者の感じ方にそういうギャップがあると白けてしまいがちだが、本作はそういうギャップが愉しいのだ。
序盤、中盤はとても良かった。終盤は意表を衝かれはしたが、動機にやや強引さがある点(正確には動機そのものではなく、動機が生ずるまでの流れ)、ラスト数頁の雰囲気があまり好みでないことなどあってやや評価を落とす。が、かなり面白かった。
この人は人間ドラマを強調しない作品の方がいいと思う。また、あまり売れなかったのかもしらんが、初期作品の方が作者の持ち味が出ているように思える。
直木賞受賞までのくそ無駄な道のり(本人に罪はない)のせいで持ち味を削られていったような気がする。バカミスな方向に突き進んだりしても面白いのでは。
※『白夜行』や『容疑者X』を最近になってようやく読んだ自分がこんなことを言うのもなんですが、『秘密』や『白夜行』がダメで『容疑者X』で合格という直木賞の選考基準がよくわからない。

No.3 7点 白夜行- 東野圭吾 2016/05/27 01:57
いくつかの短編が昭和史をなぞるように並べられ、二人の人物がそれらに関与していることによって最終的に一本の線となる。この構成は面白い。
二人の関与をもう少しぼかした方が良かったかもしれないなとは思った。種明かしが早過ぎるし、わかりやす過ぎる。
800頁を越える大作だが、相変わらずのリーダビリティで、さらに構造としては短編の積み重ねといった趣なので中だるみは感じられず、最後まで面白く読めた。
最重要人物二名の内面描写を排し、彼らの会話は皆無、接触を示すようなエピソードさえほとんど存在しない。スタート地点が示されるだけで、その後どのように絆が育まれていったのかは一切書かれず、絆によって生まれた彼らの行動のみが書かれる。この試みも興味深かった。この試みが成功しているかと問われると、残念ながらという気もした。雪穂は怖ろしい女だと作中人物から何度も口に出されるなどせっかくの試みを殺してしまうような拙さは頂けない。間接的に描く道を採ったのだから、やはりここは遠回しに感じさせて欲しい。ただ、作品自体はこの試みで面白くなった。
わからないことがあまりにも多いので想像で補うしかない。
亮司が雪穂にあれほど尽くしたことは納得できる。
読後感は良くないが、ラストも納得できる。
亮司は雪穂を愛していたのか。私はNoの可能性もあると思っている。
雪穂は上昇志向の強い女なのか。これもNoの可能性があると思う。
二人の間に絆など本当にあったのか。こんな想像したくもないことまで想像させられた。いずれにしても容疑者Xよりこちらの方がよっぽど献身の物語だと感じた。
ちなみに本作で私がもっとも共感を寄せたキャラは菅原絵里だった。

No.2 7点 容疑者Xの献身- 東野圭吾 2016/05/21 10:16
本サイトで評価の高い本作と白夜行を購入。とりあえずこちらの方が薄いので先に読んでみた。文章は明晰。興味を惹きつけるネタの出し方や話の運びは申し分ない。おそらくこの人は多少プロットが弱くとも読ませてしまう力があると思う。
湯川と石神の会話はなかなか面白かった。石神がストーカー化した時は「あーあ、こうなっちゃうわけね」とゲンナリしたが、その後の展開には驚いた。やや強引だが、巧い。東野圭吾のアイデア、プロット、展開力の三本柱は素晴らしいと思う。
ただ、無駄なことを書かないのが仇となって骨格が透けて見えてしまう。序盤でどのようなことが起こるのかが予想できてしまった。うまさ故の弊害か。無目的な描写をだらだらと垂れ流す方が真相を隠蔽するには好都合なのかもしれない。

東野圭吾に欠けているもの。
東野圭吾の文体は好きではないが、欠点だとは思わない。
だが、人物造型がいま一つなのは明らかに欠点だと思う。
人物描写がぎくしゃくしているため、感動とか純愛以前に読後にモヤモヤとしたものが残った。聖女でも悪女でも聖人でもサイコパスでも構わない。ただ、一貫性がないのは困る。読み手は戸惑う。
そもそも東野圭吾は人物造型の必要性をあまり感じていないように思える。プロットに人物を当て嵌めている印象が強い。特に女性。この人の書く女性を面白いと思ったことは一度もない。
靖子は善人でもないし、悪女でもない。プロットに従ってプカプカ浮いているだけで中身がない。一貫性がない。
例えば、石神の献身によって自分が拘束されること、真っ先に思いつくべきことなのに後々までこの点に思い至らない。これほど頭の悪い女性ではないはず(別に賢くもないが)。
美里は靖子よりは意思を感じられたが、やはりプロットに操られている。美里をもっとうまく使えば物語にさらなる深みを与えられたのではなかろうか。
もちろん石神は靖子たちよりは遥かに興味深く描かれていたが、やはりちぐはぐな印象。
石神の採用したトリックの非人道的な性質に関しては、石神の性格とは親和性があり、それほど不自然ではなかった。好き嫌いはともかくとして、この点は批判しない(もちろん批判するのも自由だと考える)。
私はむしろ石神がかつて自殺を図ったという件がどうにも納得がいかない。この男が自殺をするとは思えない。プロットに合わせて猫の目のように人物象が変化する、その一貫性の無さを端的に示していると思われる。
そして、大きな問題。石神は完全犯罪ではなく正当防衛を主張するよう薦めるべきだった。
被害者は加害者を脅迫している。そのうえ「殺してやる」とはっきり口にして、馬乗りになって中学生の娘を殴りつけている。コードで首を絞めているので正当防衛は難しいかもしれないが、大幅な減刑、執行猶予も期待できるし、加害者を責める者はほとんどいないと思われる。
なぜ石神のような頭の良い男があえて茨の道を選んだのか? 自分の行為がちっとも献身になっていないことに気付かなかったのか。
その後の展開からすると献身の名の元に靖子を拘束することが目的であったとは考えにくい。故に富樫殺害のシーンは書き直した方がいいと思う。

No.1 6点 むかし僕が死んだ家- 東野圭吾 2016/04/28 19:36
二人の人間が狭い家の中をうろうろするだけでこれだけの長さ。しかし、飽きさせない。閉鎖環境で力を発揮する作家というとスティーブン・キングがまず頭に浮かんだが、本作もなかなか。
タイトルからしてとんでもない結末が待っているのではないかと期待したが、残念なことに想定内のオチであった。ただ、そこに至るまでの一歩一歩の見せ方がうまい。展開が巧みな上に文章は理路整然としており、流し読んでもすんなり頭に入ってくる。そうなるとリーダビリティは極めて高くなる。
だが、残念なことにその文章に魅力を感じない。作家自身の息遣いが見えないので拒絶されているように感じてしまう。書き手の自意識が透けて見えないのは一流の証なのかもしれない。物語を効率的に読ませるという意味では非常に優れている。
でも、やはり苦手な作家の一人。

以下 ネタバレあり






最大の問題は作中にあるような理由で子供の頃の記憶がごっそりとなくなるものなのか。本当にそんなことが起こり得るのかがどうも疑わしい。
まあこれを言い出すと成立しなくなる物語(自分が好きな作品含む)がゴマンと出てくるので困ってしまうのだが。
Tetchyさんが面白いと言っていた発想 家=墓 は自分も面白いと思った。

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tider-tigerさん
ひとこと
方針
なるべく長所を見るようにしていきたいです。
書評が少ない作品を狙っていきます。
書評が少ない作品にはあらすじ(導入部+α)をつけます。
海外作品には本国での初出年を明記します。
採点はあ...
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平均点: 6.71点   採点数: 369件
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