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tider-tigerさん
平均点: 6.71点 書評数: 369件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.5 7点 白昼の死角- 高木彬光 2020/01/04 02:06
これだけの厚さでしかも同じようなことの繰り返し。それでも最後まで楽しく読めてしまいます。リーダビリティの高さでは高木彬光作品でもトップクラスではないでしょうか。
しようもない連中ではありますが、どこか憎めないところがあります。
特に鶴岡氏には一本筋が通っていて、不思議と嫌悪感は湧きません。
実話を基にした詐欺師の物語ということもあり、自分は今でもさほど違和感なく読めますが、手口の稚拙さを指摘されている方もいらっしゃるようで。まあ、この時代はまだまだ緩かったということでしょうか。
父親のお気に入り作品ですが、私はあまりの分厚さに腰が引けておりました。
なのに「絶対面白いから読め読め」と(当時中学生の)息子にこれを薦めてくる父親というのはいかがなものでしょうか。

追伸
>>時勢に合った悪事そのものより、悪事を時勢に沿わせる戦略がミソゆえに
そうそう! 急いで書いたので大切なことを書き忘れていました。
今もなお犯罪の歴史として興味深く読めてしまうのですよね!

No.4 6点 能面殺人事件- 高木彬光 2019/12/03 00:07
初読は30年以上前になるが、当時はAはおろか、その他の作品もすべて未読だったので仲間はずれにされたような気持ちになった。それなりに驚いたが、それほど好きな作品ではなかった。なまじ変な知識がついたせいで、学校で予防接種を受ける時に「きちんと~したか」を医師に質問して嫌な顔をされたことを憶えている。
今はなかなか意欲的で優れたアイデアも散りばめられた悪くない作品だと思っている。容疑者が少なすぎるのが惜しいが、これはラストをああしたかったから致し方ないのかな。
かなり凝っている作品だと思うのだが、その複雑さのせいもあってか随所にぎこちなさが見られ、いまいち流麗ではない。ただ、細部に数多のアイデアが注ぎこまれており、そこは未だに感心する。意欲も買う。が、筆力がついてきていない印象がある。非常にもったいない。発表当時は犯人の意外性もあったのだろうが、はたして今の読者が意外に感じるだろうか。Aへの挑戦としてはいまいちな戦果だったが、「他人に~を~せる」ための工夫は評価したい。写真放置の件は犯人の心情的にはあり得ないが、この見地からするとありではないかという気もする。
6点か7点か迷ったが、6点。

既存の部品を組み合わせ方を工夫することによっていかに新しく、魅力的に見せるのか。創作においては一手段として常に密かに行われていることではあるけれど、それが手段というより目的であるかのような作品もある。故殊能将之氏なんかはこうしたアプローチで洒落たものを書いていた印象がある。氏はネタバレのような無粋なことはしない。知っている人がニンマリすればいいというスタンスだろう。
はてさて執筆当時の高木氏の心境やいかに。現在の読者であれば阿吽の呼吸で汲み取ってくれることでも当時の読者はどうなのか。あるいは発表当時(昭和27年)は推理小説はまだまだ一部マニアのものであり、本作はそうしたマニアの内輪受けを狙った作品だったのか。いろいろなことを考えてしまう。

No.3 4点 七福神殺人事件- 高木彬光 2016/07/08 23:12
つまらなかった作品は書評しない方針ですが、思い入れのある作家なので書いておきます。
本作が出たのは私が中学生か高校生の頃でした。久しぶりの神津ものの新刊でしたので父は大喜びでした。ところが、その後父はこの作品については黙して語りませんでした。
小学生のころに何回か七福神巡りをしたこともあったので、私はこの作品がすごく気になっていました。
読ませてくれと言ったら、父は「大した話じゃないぞ」と寂しそうに笑いました。
当時はそこまで酷いとは思いませんでしたが、今となっては私も父と同じ意見です。
他の高木作品を読んだ方が、どうしてもこれも読みたいというのであれば止めはしません。

No.2 9点 人形はなぜ殺される- 高木彬光 2016/07/08 23:10
中学生になってしばらく経ったある日、父に「とりあえずこれを読んでみろ」と本書『人形はなぜ殺される』を手渡されました。それ以来、父の持っていた高木作品を読み漁りました。
父は『刺青殺人事件』『白昼の死角』『破戒裁判』の三作がお気に入りだったようです。息子は『人形はなぜ殺される』『誘拐』『わが一高時代の犯罪(今は少し順位が落ちる)』の三作が好きでした。そんな父は車の運転がかなり下手になりましたがまだ元気です。

ミステリ小説の読み方や楽しさを教えてくれた思い入れのある作品です。
魔術だの断頭台だの魅惑的な道具立て、人形が殺されて、人間が殺される。
ハイテンションな言い回しだって、ガキはさらにハイエナジーですから問題なし。
もっとも衝撃を受けたのは遺体の処理法。単に奇を衒っただけではなく、非常に合理的であり、また犯人の異常さが際立つ。
この犯人こそ真性のサイコパスって感じがします。
とにかく、この作品は楽しかった。
よく練られた殺人計画、そのうえ、状況に応じてそれを変更していく犯人の柔軟性と狡猾さに痺れる。こいつのくそ度胸は買い。
この手の連続殺人って後に行くほど手抜きになりがちですが、本作は最後の殺人が最も恐ろしく狡猾な所業。一つ手抜きっぽい殺人ありましたが。
良くも悪くもミステリのお手本といえる作品だと思います。ケレン味もあって、フェアで、人物造型に難はあるも人間ドラマで魅せようなんてつもりはさらさらない作品なのでこれはまあいいでしょう。
※悪くもというのはパズラーとしての面白さを徹底することにより小説的な面白さを減じている点、教科書的であるだけにきちんと勉強している人間(ミステリを読み込んでいる読者)には答えが分かりやすいということです。
ちなみに私はまったく犯人がわからず、真相を知ったときは死ぬほど驚きました。

問題点その1 犯人が分かりやすい
とある作家(確か島荘だったような)が「昔は推理クイズを作ると十人に一人くらいしか正解者はいなかった。昨今では半数以上の人が当ててしまう」こんなことを言っていました。
本作には読者への挑戦が取り入れてあります。難易度の設定について作者は悩んだのではないでしょうか。
本作発表当時の読者は犯人やトリックをズバズバと言い当てていたのでしょうか。
作者がもっと後の時代にこれを書いたのならば、ヒントをもっと減らし、逆に読者への罠を増やしていたのではないかと想像します(好意的に見過ぎか?)。
青柳八段を容疑者の候補に入れてみるなんてどうでしょう。将棋指しという職業はこの事件の容疑者候補としてはなかなか魅惑的だと思いません?

問題点その2 神津が無能、神津が女々しい
当時の私(神津恭介を知ってからまだ二時間も経っていない中学生)の見解
「神津ほどの男をここまで翻弄するなんて凄い犯人だ」
まあ、動機がまるでない(ように見える)人間を容疑者に加えるのは実際に捜査を行っている人間にしてみれば勇気がいるんじゃないかなあ、なんてお茶を濁しておきます。

そういや黒ミサだか、K.K.K.の集会だかの最中に誰かが「黒い郵便」と呟きましたが、これはなんだったのか?
黒い郵便→ブラックメイル→恐喝、ということ? なんのためにこんなことを言った?当時はまったく意味がわかりませんでしたし、今もよくわかりません。

最後に
研三の乱入はあまり意味がなかったように思えるのは気のせいでしょうか。

No.1 8点 誘拐- 高木彬光 2014/05/26 16:56
これは完全に騙されました。
ここまで見事に騙されると気持ちがいい。
誘拐を扱った小説としてはピカ一ではないかと思います。
誘拐において犯人側が直面する最も困難な問題は身代金の受け渡し。不確実ではあるが、安全な方策を取る犯人、だが、しかし、犯人の狙いは……。
自分は人形と誘拐が高木彬光氏の二大傑作だと思っています。

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tider-tigerさん
ひとこと
方針
なるべく長所を見るようにしていきたいです。
書評が少ない作品を狙っていきます。
書評が少ない作品にはあらすじ(導入部+α)をつけます。
海外作品には本国での初出年を明記します。
採点はあ...
好きな作家
採点傾向
平均点: 6.71点   採点数: 369件
採点の多い作家(TOP10)
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