皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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アイス・コーヒーさん |
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平均点: 6.50点 | 書評数: 162件 |
No.4 | 6点 | 黒い仏- 殊能将之 | 2014/08/08 10:59 |
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石動シリーズ第二作にして本格ミステリ界を激震させた問題作。「ハサミ男」で掴んだはずのファンを大半失ったのではないかというほどの嫌われようで…。
途中までは仏教をテーマにした真面目な雰囲気で進んでいく。名探偵・石動戯作の助手アントニオも登場して相変わらずコミカルな展開だ。 しかし、ある引用を境に物語は急変し、そのまま驚愕の真相に着陸するのだ。本格ミステリの定義すら揺るがすような問題作であることは間違いないだろう。 …これが世間一般の評価というわけだが、私的には(洒落ではないが)そこまで特殊な内容でもないように思う。もう少し穏便な形で似たような試みをした先行作もあり、全体としてそこまで驚きはなかった。(これは自分が麻耶雄嵩作品で慣れたというのもある。) トリックの完成度は高いが、駄作でもなくまた傑作でもなかった。「美濃牛」と同様怒ったりせずに楽しんで読みましょう。 (以下ネタバレ) 途中、アントニオvs石丸の戦い(未遂)が描かれているのは謎解き前の伏線だと考えるのが妥当。これによってタイムスリップによるアリバイトリックの可能性が示唆されているとも考えられるのだ。 すなわち、本作は異端な「特殊設定」もの本格であり、云ってしまえばそれだけのことである。 |
No.3 | 7点 | 美濃牛- 殊能将之 | 2014/08/08 10:36 |
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著者第二作にして石動戯作が登場するシリーズ第一作。美濃の小さな村を舞台に一家殺人を描くという、いかにも横溝正史な設定が特徴。
700ページを超える超大作になっているのは恐らく各人物ごとの視点に立った、徹底した情景・人物描写によるものだろう。これのおかげでキャラクターの個性は細かく表現され実に活き活きとしているし、小説としてのエンターテイメント性は極めて高い。 また、一見脱線に見えるようなシーン一つ一つに伏線が隠されていて実に面白い。それによって導き出される真相も中々驚きのあるものだった。 正史へのオマージュは物語の展開から真相に至るまでそこら中にちりばめられていて、特にメイントリックは代表作のアレを見事にひっくり返している。未読の方はその目で確かめて頂きたい。 ところで、本作の裏テーマになっているのが引用である。各章の冒頭に配置された膨大な数の引用は実に的確で笑えるほどだ。引用元も海外のマイナー作家から日本の歌謡に至るまで様々。本編自体は衒学趣味に満ちている訳ではないが、殊能氏の博識は誰の目にも明らかだ。これで「不勉強」とは…。 「ハサミ男」のアクロバティックさはないが、とにかく面白い本。従って一つ一つの文章を面白がりながら読むのが得。 |
No.2 | 7点 | ハサミ男- 殊能将之 | 2014/03/07 17:48 |
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まず、本作は予備知識なしで読むのがベストであり、これから予備知識なしで読みたい方は感想なんて見ないことをお勧めする。
(ネタバレはなし)シリアルキラーが自らの模倣犯を追うという本作だが、そのトリックのうちいくつかはすぐに気付いてしまった。この手法も発表以降十年ほどでかなり模倣されている。しかし、「ハサミ男」の破壊力はすさまじく、最後まで飽きさせなかった。作者の伏線を確認しながら読める、というのもあるがそれだけではない。もっと大きな企てがあちこちで進行していたのだ。そして、再読してみると……文章に秘められた深い闇がみえてしまう。 主人公である「ハサミ男」、皮肉屋で引用癖のある「医師」、どこか読者の目を引く堀之内、事件に翻弄される磯部…人物の関係図がよく出来ている。ちょくちょく出てくる薀蓄は冗長に感じる人も多いだろうが、一応これも重要な点。少なくとも、本作においてはこれにも目を通しておくべきである。 読み終えてみると、やはりこれはサイコサスペンスだな、と思った。結局、ハサミ男の総てが分かったとは言えない。内容が荒削りではあるが、強烈な印象が残った。 (追記)映画「ハサミ男」の方も見てみたが、原作を愚弄している。映像化でトリックを成り立たせるために内容まで改変し、もはや修復不可能の域にまで破壊してしまった。演出も失敗といっていい。やはり紙の本でしか成り立たない設定だ。 |
No.1 | 7点 | キマイラの新しい城- 殊能将之 | 2013/12/30 15:52 |
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欧州の古城を移築したテーマパークの社長に、中世の騎士の霊が憑りついた。探偵の石動戯作は750年前の殺人事件を推理することになるが…
大胆なメイントリックや。ロポンギルズでのアクションが面白く、異色作でありながらもそれなりに楽しめた。多重解決や亡霊の登場などは複雑で特殊なものだが、そこまで敷居は高くない。 ただ、ミステリとしては伏線や証拠といったものが一通りそろってフェアな戦いとなるため、文句はないし、ハチャメチャな展開は笑えてよかったが、全体としてのまとまりが悪い。物語の必然性が薄いのだ。もう一工夫が欲しいところではある。石動の似非密室講義や謎の薀蓄もあったが、話と直接の関係はない。 一方で終わり方は何とも言えない良さがあった。これはこれで良いと思う。今年亡くなった殊能さんのご冥福を祈りたい。 |