皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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ミステリーオタクさん |
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平均点: 6.97点 | 書評数: 155件 |
No.3 | 4点 | 神の悪手- 芦沢央 | 2024/11/14 21:12 |
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将棋をテーマにした5つの話を収録した短編集。作者は三十代女性。(失礼。まぁ許してくれ、後輩君)
《弱い者》 将棋の対局を通して大災害被災地での弱者の窮状を浮き彫りに。 《神の悪手》 シュールなオープニングも、割とありがちな途中のミステリ展開も悪くはないが、エンディングもそうエシカルにせずにもっとミステリにしてほしかった。タイトルからイメージされるようなスケールの大きさがあるわけでもないし。 《ミイラ》 人間社会のルールの根源に関する考察を提示したのだろうが、これはある程度以上将棋、特に詰将棋を理解していないと作者の出したかったテイストが十分には伝わらないだろう。まぁ伝わったところで大して面白いとも思えないが。 《盤上の糸》 本作の大半を占める対局シーンはやたらと抽象的な描写が多く何を言っているのか、何を言いたいのかよく分からなかった。 《恩返し》 最終話は将棋の駒を作る駒師の体験、視点を通しての勝負の物語。どの世界にもある優劣、葛藤、成長、師匠越え、悟りなどについて語られる。 全て将棋を媒体にしてのヒューマンドラマだが、将棋をモチーフにすることへの拘りが強すぎて個人的にはいつもの「芦沢ショートミステリ」の妙味があまり感じられなかった。しかし作者自身そんなことは百も承知で「面白いミステリ」を犠牲にしてでも挑んでみたかった新境地だったのだろう。 ところで文庫の帯にコメントを寄せている羽生さん、ホントに読んだんですか? |
No.2 | 6点 | 汚れた手をそこで拭かない- 芦沢央 | 2024/08/22 22:02 |
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短編集なのに本のタイトルがどの収録作品名でもなく「・・・集」でもない禍々しいフレーズのちょっと風変わりな体裁のサスペンス集。
《ただ、運が悪かっただけ》 運命論などの考察を含めて中身の濃い話だとは思うが、面白かったかと訊かれれば個人的にはチョットね・・・ 《埋め合わせ》 倒叙物とも言える焦燥型サスペンスで捻り方も悪くないけど、最後の「嵌め込み」はあまりシックリ来ない。 《忘却》 物忘れと罪悪感、そして電気の問題。これも辻褄合わせが面白いと言えば面白い。 《お蔵入り》 このタイトルはダブル・ミーニングかな。そんな使い方はないか。 《ミモザ》 ある再会からの淡い焼け木杭的なストーリーかと思いきや予想外の展開へ・・・ 最後のドタバタは古い漫画チックながらなかなか面白かったが「締め」は・・・何とも言えず。 帯の「もうやめて」という文言から相当のイヤミス短編集かとワクワクして読み始めたが、期待が大きかったためか全体的に薄味のイヤミスに感じられたのは少し残念。ただどの話も纏まりの良さとリーダビリティの高さは短編の名手(と言われている?)に相応しいクオリティだったと思う。 |
No.1 | 7点 | 許されようとは思いません- 芦沢央 | 2021/10/06 21:53 |
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自分にとって初の芦沢作品。5編からなる短編集。
《目撃者はいなかった》 ちょっと無理がある感は否めない(ミステリなんてみんなそうだが)が、実に面白いし、巧いとも思う。でもこの展開ならもっと話を最後まで書いてほしかった。 《ありがとう、ばあば》 これは捻りもあることはあるが、ミステリというよりは心理サスペンスだろう。また途中、ばあばと娘の口論などはちょっとダラダラした印象が拭えない。 (ネタバレ小言) いくら人が少ないとは言え、それなりのホテルなんだし、高々7階なんだからバルコニーで大声で騒げば誰か気づくだろう。 (ネタバレ小言終わり) 《絵の中の男》 凄惨な話でありながら前2作同様よみやすいが、やはり長い気がする。 一人称語りのストーリーだが(演出として故意にであることはわかるが)語り手の話し方のまわりくどさもだんだん鼻につき気味になってくる。ミステリ要素も悪くはないが、斬新とも思えない。 《姉のように》 姉の犯罪という異常事態、そして育児ノイローゼに陥っていく心理を生々しく描いていく陰鬱な心理小説かと思いきや・・・・・・「仕掛け」はこれがベストかな。ただし長崎弁は苦手。 《許されようとは思いません》 陰惨な話でありながら引き込まれるが、この「仕掛け」はチョットね・・・ タイトルのミーニングも含めて真相は意外ではあるが、自分には心情的に少し理解困難。エンディングは面白い。 全て非常に読みやすいが、どの話も途中間延びして無駄に長いと感じる部分があったことは否定できない。 ドロドロと書き連ねられる心情描写の奥に「企み」が隠されている。そしてストーリー構成のテクニックにも際立つものがある。 ふと米澤穂信の短編集に似たテイストだと感じた。 |