皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
ボンボンさん |
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平均点: 6.51点 | 書評数: 185件 |
No.6 | 6点 | 時のかたち- 服部まゆみ | 2016/02/22 23:20 |
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4作の短編。どれも上流階級又は芸術家の方々のドロドロが舞台。しかし、意外にせつなくもいじらしい人間の心の機微が話の本筋になっていて、読後感は悪くない。
トリックは、具体的に一つ一つ取り出してみれば、多少稚拙な感じはするのだが、それがドラマの中に上手に埋もれているので、それほど気にならない。 ミステリ的には、「怪奇クラブの殺人」が痛快で一番良かった。これには、作者の長編「罪深き緑の夏」の登場人物の一人がそのままの設定で出演していて、いい味を出している。 |
No.5 | 7点 | 罪深き緑の夏- 服部まゆみ | 2016/02/01 00:01 |
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ドロドロの愛憎劇になる素材なのに、視点の置き場の妙で、清廉な読み心地になっている。圧倒的な物語世界。空回りの悲劇。題名が、本当によくこの小説の芯を表している。
ただ、登場人物が多く、人間関係もかなり複雑なので、それぞれの心情があまり語り尽くされていないような気もする。よーく考えればもの凄く可哀想な人や、清濁併せ持つ人や、驚きの裏表を見せる人もいるのだが、やはりもう少しページ数がないと判りにくいかもしれない。 主人公がフレスコ画の制作に没頭していくシーンは、すごくワクワクした。この作者の作品には、芸術の制作に携わる人たちの情熱や高揚感について描かれることが多く、そういうシーンには心動かされる。作者自身の投影なのだろう。 |
No.4 | 6点 | 時のアラベスク- 服部まゆみ | 2016/01/14 17:35 |
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著者のデビュー作。ロンドン、ブリュージュ、パリなどを舞台に、美術や文学が背景を彩る独特の雰囲気で美しく書き上げられているが、今となってはちょっと恥ずかしい80年代っぽさや少女漫画っぽさがチラついて、多少むずがゆい部分も。この著者の力量からしたら、完成度としてあともう一歩のところで、すごく惜しい感じ。
それでも、次から次と続発する事件について解き明かされた真実は、なかなか良かった。動機や手口の一つ一つはあまり珍しいものではないが、途中いろいろな見方ができ、どの筋の話かと思っていると、まさに一連の「アラベスク」が完全にバラッバラにほぐされる結末で、お見事だった。 しかし、随分たくさんの人が死んでしまう。推理小説としての人死になのに、なんだか悲しくなるところが、この著者の人間味か。 |
No.3 | 9点 | ハムレット狂詩曲- 服部まゆみ | 2016/01/06 18:35 |
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(ネタバレ注意)
どんな悲劇かと思って読み始めたが、終盤に近づくにつれクスクス笑いっぱなしだった。 一つの演劇の舞台、「ハムレット」の制作過程で起こった出来事が、鬱々とした2人のハムレット的人物の視点から語られる。この「ハムレット」の筋になぞらえた陰惨な気分の独白と、繰り広げられる状況のミスマッチ、その違和感がやがて可笑しみになり、最後は気分爽快で読了。 あー、結構たくさん騙されたなあ、と労働の後の心地よい疲労のように満足した。 著者の服部まゆみさんが、寡作のまま若くして亡くなってしまったのが本当に惜しまれる。もっともっと大きく評価されてよい作家だと思う。 |
No.2 | 8点 | この闇と光- 服部まゆみ | 2015/12/28 23:08 |
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本当に何を書いてもネタバレになるので困る・・・。
謎解き前の「謎」部分の運びが実に面白い。徐々に違和感を示し、順々に気付きの幅を広げてくれる。話が進むにつれ、あそこにもここにも、答えを想像させるものが埋め込まれているのが発見できるので、たっぷり楽しませてもらった。 これは超豪華で壮大な「思春期」だ。と考えると、読後すぐは、終わり方について、「大人」への発展が中途半端で少し物足りなく感じたが、じっくり反芻してみると、あくまでも「この闇と光」の世界で終結するためには、これでいいのだと思えるようになった。 |
No.1 | 10点 | 一八八八 切り裂きジャック- 服部まゆみ | 2015/12/18 14:44 |
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史実とおびただしい数の実在の人物のプロフィールを、作者創作の主人公2人を動かすことで綴り合せて、1888年(と1923年)を目の前に出現させてしまう神業。スマホを片手に出てくるものを調べながら読み進めると、大筋どころか、細々としたことの一々が綿密に調べられた資料を見事に活かして書かれていることが分かり驚かされた。
ヴィクトリア朝の霧のロンドンの世界観を楽しむも良し、誰も彼もが疑わしい中から真犯人を追うも良し、制限時間を横目に疾走するサスペンスにドキドキするも良し。 また、鬱々グズグズのモラトリアム青年の、目が覚めるような成長物語としても、心潤う読みごたえがあった。 そして、(多少のネタバレになるのかな?真犯人とは直接関係ない話だけど・・) 第1部の小説と第2部の日記、プロローグとエピローグを含めた構成自体が、全編を通して語られる裏テーマである「物語のすばらしさ」にも関わってくるのだが、最後の最後に繰り出される柏木の名言「だって君・・・小説とはそういうものだろう?」には、ひっくり返った。 そもそもが100年以上前の「実在」の未解決事件を基にした「物語」なのに、その中で「日記」を下敷きに「小説」を書き、さらにそこから抜け出して、前述の台詞を言うのだから、まさに迷宮、すべてはロンドンの霧の中となる。これは、私の中で一、二を争う名台詞となった。 |