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HORNETさん
平均点: 6.30点 書評数: 1069件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.48 6点 任侠楽団- 今野敏 2024/04/15 21:22
 阿岐本組組長・阿岐本雄蔵は、義理人情に厚く、域内の困りごとに一肌脱ぐのが大好き。代貸の日村はそんな親分に振り回される日々。今回は、公演間近のオーケストラが、内紛によって分裂の危機!? コンサルティング会社の社員を装って楽団に潜入した阿岐本組の面々だったが、そんな矢先に指揮者が襲撃される事件が発生し…!

 今回は、傷害事件も発生し、その犯人を明らかにするというフーダニットも含んでおり、シリーズ作の中ではなかなかミステリっぽい。「誰が犯人か」を推察していく過程で、登場人物一人一人の人柄が明らかになっていくので、シリーズの面白さをうまくミステリに絡めていると思う。
 とはいえ、真犯人の見当は前半早々につき、もののみごとにそのとおりだったので、謎解きそのものは作品の魅力のメインではない。組長・阿岐本の豪放さと人情、振り回される体であっても結局そんなオヤジを敬う日村、それぞれのシリーズキャラクターが存分にらしさを発揮して、ハートフルなストーリーに帰結するシリーズの魅力は変わらず。

No.47 6点 一夜- 今野敏 2024/02/04 20:27
 人気小説家・北上輝記が誘拐された。著名人の誘拐事件に緊張が高まる警察だったが、犯人からの接触は一切ない。ようやく届いた犯人からの要求は、「この誘拐事件を世間に公表しろ」というもので、金銭その他の要求はなし。いったい犯人の目的は何なのか?おかしなところが散見される事件に、竜崎伸也が挑む。

 同じ日に都内で起きた殺人事件の話が出てきたところで、だいたい真相が見えてきて、実際その通りだった。ミステリ的な仕掛けとしては本サイトの方々であれば予想の範囲内だろう。周囲の、世俗的な余計な配意を一蹴する竜崎節も本作ではあまり目立たず。相変わらず小気味よく無駄のないテンポで非常に読み進めやすいが、シリーズとしては平均作の印象。

No.46 7点 審議官- 今野敏 2023/02/23 20:24
 大人気シリーズの登場人物を主人公としたスピンオフ第3弾。(法則を破って題名が「3文字」になってしまった 笑)
 長編の本シリーズでは、ついに竜崎伸也が本庁に復帰し、大森署長を退任して異動したところ。本作では、竜崎の異動後に大森署に残った面々(斎藤警務課長、貝沼副署長、関本刑事課長、板橋捜査一課長など)を主人公にした「その後」や、竜崎の家族(妻、娘、息子)を主人公とした短編が収められており、非常にバラエティに富んでいる。
 よって竜崎が直接登場して采配を振るう場面は皆無だが、竜崎の哲学に影響を受け、そして頼りにしているシリーズメンバーの日常が巧みに描かれておりとても面白い。
 つぎはいよいよ隠蔽捜査「10」。待ち遠しい。

No.45 6点 大義- 今野敏 2022/05/08 21:33
 横浜みなとみらい署・暴対係係長の諸橋夏男、通称「ハマの用心棒」のシリーズ短編集。
 今回は、班員である巡査部長の倉持忠や、巡査長の八雲立夫、監察官の笹本康平らを主人公にした、スピンオフ的な短編集となっていて面白かった。(1話目の「タマ取り」はダジャレネタみたいで失笑だったが。)
 シリーズを読んでいなくても、今野氏はいつも初読の読者を見据えた描き方をしているのでまったく問題なく楽しめる。むしろ本シリーズの入り口にもなり得る一冊だと思う。
 改行の多い作風ということもあって、2時間程度で読了できる。といっても、十分に楽しめる内容。

No.44 7点 探花- 今野敏 2022/05/04 21:55
 横須賀・ヴェルニー公園で刺殺体が発見された。目撃者によると、刃物を持った白人男性が現場近くにいたのを見たという。米軍がらみの案件か?と神奈川県警が眉を寄せる中、県警警務部長に竜崎の同期のキャリア・八島圭介という男が赴任する。八島は同庁入庁の中でトップの成績、ハンモック・ナンバーが一番の男だという。その八島が、米軍との交渉には竜崎が出向くべき、と主張する。八島の目論見は何なのか?

 本の宣伝文句には、「竜崎のライバル出現か?」と謳われているが、結果としてはライバルになんかなり得ない俗物だった。本作品はむしろ、現場たたき上げでキャリアへの反感を持つ板橋刑事課長と竜崎署長の、表層には表れない信頼関係の方が見もの。信頼を寄せながらもぶっきらぼうな態度を崩さない板橋課長、そんなことは何も気にしない竜崎署長、これが名コンビ。
 事件の裏を暴いていく過程以上に、信念の男・竜崎と、「キャリアは頭でっかち」という先入観を持っている所轄の署員とが次第に距離を縮めていく様が本シリーズの真骨頂だと思う。
 今回もそれを、十分に楽しめた。

No.43 5点 仁侠シネマ- 今野敏 2021/01/24 12:35
 任侠シリーズ第5弾。今回の立て直しは、映画館。
 今回は、阿岐本組の面々が乗り込んでいき活躍するというような、これまでのような展開とはちょっと毛色が違った。主に代貸・日村と組長・阿岐本が、企業役員や政治家に相対する場面が多く、割と淡々と物語が展開していく感じだった。マル暴の甘糟、女子高生の香苗の登場場面も多かった。
 それでもこのシリーズには飽きが来ない。続けて欲しいなぁ。

No.42 5点 黙示- 今野敏 2020/10/04 12:27
 古物収集家の家から、ある指輪が盗まれたという。持ち主の館脇友久は、その指輪を手に入れるのに4億を使った。しかし、指輪は鉄と真鍮でできたものとのことで、なぜそんなに価値があるのかと萩尾警部補は疑問に思う。すると館脇は、それは考古学界で伝説の「ソロモンの指輪」だからだ、と答えた。
 何かを隠しているような館脇。途中から捜査に加わった捜査一課からの横槍。事態が混迷を深める中、萩尾と、コンビの秋穂の、盗犯刑事としての嗅覚が働く。

 このシリーズの面白さは、萩尾の三課刑事としてのプロフェッショナルぶりにあるのだが、本作はなんとなくその魅力が薄かった。同じところをずーっとめぐっているような展開で、物語に深まりがなく、短編でよかったのではないかと感じた。

No.41 6点 スクエア- 今野敏 2020/06/02 22:33
 山手町で殺された中国人の捜査に、管轄外でありながら「ハマの用心棒」諸橋が呼び付けられた。どうやら不動産詐欺が絡んでいそうな事件だが、神奈川県警本部長・板橋は諸橋たちが気に入らない様子。さらに捜査のお目付け役に、天敵とも言える県警監察官・キャリアの笹本がつくことに。疎んじる諸橋と相棒の城島だったが―

 暴力団とのかけひきや暴力的な対峙もいとわぬ諸橋らと、綱紀と公正を重んじる警察組織とのぶつかりあいの面白さは相変わらずだが、今回は綱紀粛正の筆頭・笹本が諸橋&城島コンビと共に行動するところに面白さが凝集されている。正論からすれば完全に逸脱している諸橋&城島コンビ、監察官として苦言を呈し続ける笹本。だが、行動を共にするうちに、相対する考え方の両者だからこそバランスが保たれている構図が浮かび上がって来る。
 暴力団が絡んだ事の真相は多少複雑ではあるが、整理して捉えられればそれほど難しくはない。なるほどと思えるからくりがちゃんとある。
 唯一、神野一家の関わり方が、本シリーズの中では浅めだったかなぁ…

No.40 8点 清明- 今野敏 2020/02/24 19:30
 大森署長として禊(?)を終え、神奈川県警刑事部長としてキャリア復帰した竜崎伸也の、シリーズ第8弾。
 着任早々、発生した死体遺棄事件は、警視庁との合同捜査。おなじみの伊丹をはじめ、警視庁時代の馴染みの面々と共に事件解決に向かう竜崎。
 そんな折、運転講習のために自動車学校に通っていた妻の冴子が講習中に事故を起こしたという一報が入る。警察署に2時間以上交流されているという状況を不審に思い、交流先に向かう竜崎。その自動車学校の所長は、キャリアに反感をもつ警察OBだった――

 事件の真相追及という本筋はもちろん、それにまつわる件の自動車学校所長とのやりとりや、公安とのやりとりが見もの。いかにも竜崎らしい処し方に「相変わらずだなぁ」とニンマリ。
 シリーズで巻を重ねても、期待を裏切らない、変わらないクオリティ。

No.39 7点 キンモクセイ- 今野敏 2019/12/07 21:30
法務省の官僚が殺される事件が起きた。現職官僚の殺人に奮い立つ警察だったが、なぜか警視庁は捜査本部を縮小、公安部も手を引くことに。警察庁警備局の31歳若手キャリア、隼瀬順平は、それを不審に思い深入りしようとする上司・水木を疎ましく思っていたが、いつの間にか同調して独自捜査に身を入れる。極秘で探りを入れるうちに、隼瀬は被害者が“キンモクセイ"という謎の言葉を残していた事実を探り当てる―

小説という虚構の世界なのか、それとも現在の日本のリアルな暗部なのか。昨今の政治情勢や法整備を題材にして、その行く先を憂える内容のようにも思える。オーソドックスな捜査物語ではなく、警察内部の暗黒を描くパターンの作品。佐々木譲の同タイプの作品にも似て、惹き込まれる作品。

No.38 6点 スクープ- 今野敏 2019/01/26 21:19
 TBNテレビ報道局社会部の布施京一は、看板番組「ニュース・イレブン」所属の遊軍記者。会議は遅刻、夜は毎晩繁華街に繰り出す、など素行に問題はあるものの、本人はいたって素直なつもりで、何故か人を惹きつける。独自の取材で数々のスクープをものにしている彼の取材ソースのひとりは警視庁捜査一課の黒田裕介刑事。顔を合わせれば「失せろ」と言われる存在だが、なぜか切っても切れない関係。今日も夜の街に繰り出し、フラフラしているようで事件の真相に迫る布施であった―

 布施、捜査一課黒田、布施の上司の鳩村デスク、キャスターの鳥飼と香山、ちょっとうっとうしい東都新聞の持田記者、という固定メンバーで綴られた短編集。相変わらずそれぞれのキャラ付けが上手く、各編の展開も早いので、テンポよく読み進められる。
 一応それぞれに謎があり、ミステリとして仕立てられてはいるが、真相はストレートなものばかりなので、それにだけに重きは置かれていない。報道局を舞台とした、変り者敏腕記者の武勇伝集といった風情。

No.37 5点 心霊特捜- 今野敏 2018/05/12 19:49
 神奈川県警心霊特捜班―通称「R特捜班」は、霊能力のある数馬史郎、鹿毛睦丸、比謝聡美の3人を、ノーマルの番匠班長が束ねている。岩切大吾はそのR特捜班と県警の連絡役。岩切を主人公として、霊能力を駆使して事件を解決していくシリーズで、雰囲気・設定としては{ST」シリーズに似ている。
 霊能力と聞いてはじめは「そりゃさすがにちょっと…」と思いながら読み始めたが、そこはさすが今野氏、私のような非現実的オカルトに否定的な人間でも抵抗なく楽しめてしまうストーリーテラーぶりだった。
 最終的にはやはり「隠蔽捜査」シリーズのような武骨なストーリーが好みなのでこの点数だが、面白く読めるのは確か。

No.36 8点 棲月- 今野敏 2018/03/11 11:30
 近隣の私鉄と銀行のシステムが次々にダウンする妙な事案が発生。万一、ハッカーによるシステム攻撃のことも考え、念のため署員を向かわせる竜崎だが、管轄外での事案に口を出すことになるその動きに、警視庁生安部長から横槍が入る。
 時を同じくして、管内で少年の殺人事件が発生。一見関連のない二つの事案だったが、関わった少年グループたちが「ルナリアン」と呼ばれるカリスマハッカーを恐れているらしいことが分かってくると、竜崎は二つを結び付けて考えようとする。突飛に思える発想だったが、結果的にその読みが事件を解決へと導いていく―

・・・と、「関係があるのではないか」「気がする」というような感覚的な、曖昧なスジ読みで捜査を進め、結果的にドンピシャという一足飛びの捜査過程は相変わらずだが、本シリーズに地道で精緻な捜査やロジックは期待していないので問題ない。それよりも原理原則を崩さない竜崎の一貫性と、始めはそれに戸惑いながらも次第に強く惹かれていく周囲の人間とのドラマが醍醐味。
 本作でも、捜査会議で「署長はキャリアなので、現場の捜査は分からないのでは…」というニュアンスの言葉が他部署から出た時に、戸高が「何もわかっちゃいないのはそっちのほう。署長がこれまでどれだけの事件を解決してきたかも知らないくせに」というようなことをボソッと言う場面がある。普段は反抗的ともとれる態度の戸高のこの一言は、シリーズを読んできた者にとって「最高!」と拍手したくなるものだった。
 シリーズ2作目から続いていた大森署長も本作が最後。ついにキャリアに復帰する。馴染みの大森署メンバーと別れるのは読者も寂しいが、新しい場でまた信頼ある人間関係を築いていくであろう竜崎の今後も、楽しみにしたい。

No.35 7点 臥龍- 今野敏 2017/10/29 11:12
 ヤクザをとことん憎む「ハマの用心棒」こと暴対係長・諸橋夏男と、係長補佐・城島勇一コンビが活躍するシリーズ第4作。
 ある晩横浜の盛り場で飲んでいた諸橋と城島は、近くで起きた3対2のスジ者同士のけんかの仲裁に入る。2人組は警察であることを知ってそそくさと立ち去ったが、半グレらしい3人組は構わずに立ち向かってきた。一旦は諸橋たちにノされて立ち去ったのだが、飲み直している諸橋たちのもとにまたすぐにやりかえしに来て逮捕。
 警察に動じることなく刃向かってくる連中に不穏な空気を感じた諸橋たちは、神風会の神野に情報を集めに行く。神野は、以前諸橋たちの捜査により逮捕され、現在刑務所収監中の田家川の配下団体が、何かを目論んでいるかもしれないと匂わせる。
 すると翌日、田家川の事件以来横浜に出張ってきていた関西系の羽田野組組長が射殺される事件が勃発。神野の言った通り、田家川の配下が動いているのか?城島と共に捜査に乗り出す諸橋―

 小気味よい諸橋&城島コンビのやり取りでテンポよく進む、相変わらずのリーダビリティ。エンタメテイストの作風でありながら、事件の真相に迫るミステリ要素もしっかりしている。
 捜査一課の方針と食い違い、勝手な捜査に憤る一課と闘いの構図になるという手法もお決まりだが、その間に立つ笹本管理官がいい味を出している。諸橋たちにいつも苦言を呈しに来る管理官だが、実はすべて諸橋たちを思ってのことであり、シリーズを追うごとにその色が濃くなってきている。こういうキャラクター(管理官)は今野作品によく出てくるね。(隠蔽捜査シリーズの野間崎管理官もそんな感じ?)
 期待を裏切らないシリーズ。次作も楽しみ。

No.34 6点 マインド- 今野敏 2017/07/24 20:20
 「真の黒幕は誰なのか?」を探ることがメイン。しかもそれも、ミステリ慣れしてる読者なら早い段階でだいたいわかる(私もそうだったし)。

 ページを繰らせるリーダビリティは相変わらず高いが、こういう心理学的なネタは好みが分かれるかも。面白いは面白いが、「そんなに思うように人を操れたら、マジで世の中犯罪だらけ、怖っっ!!」と思うのが正直なところ。

No.33 6点 継続捜査ゼミ- 今野敏 2017/07/24 20:08
 警察学校長で退職した元刑事が、女子大の教授として赴任し、ゼミのケーススタディとして提供した未解決事件を5人の女子学生と共に解決に導くという話。

 過去の捜査情報と関係者への聞き込みを頼りに机上で推理合戦(?)を繰り広げるという体は、時代や場面設定は違えどこれまでも多くあったので特に新鮮味はない。強いて言えば、元警察官の大学教授とゼミ生という設定ぐらいか。
 ミステリ本筋にはあまり関係ない、主人公を頼りにしてくる文学研究の大学教授とのやりとりが個人的には面白かった。

No.32 6点 任侠書房- 今野敏 2017/07/24 19:58
 任侠シリーズの第一弾。
 まぁ完全にエンタメ小説です。ミステリ書評サイトなので採点は控えめにしておきました。だから言い方を変えると、とっても面白いってこと。

 今時珍しい、任侠や地元住民とのつながりを大事にする阿岐本組。その組長が、ひょんなことから倒産寸前の出版社経営を引き受けることになった。
 「なんとかなるだろ」ぐらいの楽観的組長にいらだちと呆れを覚えながら、梅之木書房に出向く代貸しの日村。曲者ぞろいの編集者たちを相手に、次々に起こるトラブルに向かうことになった日村だが―

 きっと現実にこんなヤクザはいないんだろうけど、そうであってくれると嬉しいかも…と思いながら一気読み。面白いよ。

No.31 6点 任侠学園- 今野敏 2017/06/24 21:58
 正直、ミステリの範疇には入らない。極道が学校の再建に乗り出すという極道エンタメ。シリーズの他作品を登録したので勢い登録してしまった。

 でもまあ面白い。特に、対モンスターペアレントのくだりや、ヤクザの娘というだけで幅を利かせている鼻持ちならない女子高生の鼻を明かすときは痛快だった。
 文庫版で、一日で読める。
 その割に楽しめて、十分お得だと思う。

No.30 7点 逆風の街- 今野敏 2017/06/24 21:30
 「ハマの用心棒」こと、神奈川県警みなとみらい署・暴力犯係係長の諸橋と、相棒城島による「横浜みなとみらい署暴対班」シリーズ。
 悪徳金融業者の苛烈な取立てに心身ともに摩耗した被害者の救済、取立て業者の糾弾に乗り出した諸橋&城島コンビ。だが、捜査が真に迫るにつれ、警察内部からそれを止めるようなブレーキを感じる。その背景が分かってくるにつけ、悪辣な取立てに憤慨していた諸橋も、さまざまな思いに揺れるようになる。
 「社会の害悪、暴力団の排除」。その信念にブレはない諸橋だが、それはただたんに頑固一徹ということではなく、何が正しく、何が間違っているのか、不完全な人間らしい迷いや煩悶に悩まされることがある。そんな時に活路を開くのが相棒・城島の一言。そんな二人の関係が痛快で、このシリーズには惹かれてしまう。
 警察エンタメ的な要素が色濃い著者の作品だが、必ずミステリ(つまり謎の解明)の要素はあり、しかもそれが警察内部の機構を踏まえたうえでの独特な色で面白い。私は「隠蔽捜査」シリーズが大好物だが、それが好きな人はきっとこのシリーズも好きになるだろう。

No.29 5点 マル暴甘糟- 今野敏 2017/06/11 17:38
 甘糟達夫は、北綾瀬署刑事組織犯罪対策課に所属しているマル暴刑事。ヤクザと見分けがつかない強面ぞろいと相場が決まっているマル暴刑事の中で、真逆の弱弱しい風貌の甘糟は「何で自分が…」と疑問と不満を抱きながら職務にあたっているが、ヤクザ以上に恐ろしい先輩刑事・郡原の前ではそれも言えない。
 ある日多嘉原連合の構成員、東山源一が撲殺される事件が発生。手口や、防犯カメラに映っていた不審な車の様子からは、明らかにヤクザではない「半グレ」の仕業のように見える。弟分を殺された多嘉原連合のアキラはいきり立つが、単純な半グレの犯行という見方に違和感を覚える郡原、甘糟は、アキラをいさめながら、ある意味協力的に真犯人を探っていく・・・

 現場主義の所轄である主人公たちに、エリート然とした捜査一課が加わることになり、始めは反目し合うような雰囲気だが次第に通じ合い・・・という、著者の作品にはよくあるパターンが本作品でも踏襲されている。それでも、その描き方が作品個々で味があり、ワンパターンとは感じさせず、いつも気持ちがよい。
 肝心のミステリの方でも、マルBならではの仕来たりや組織構造が関わってくる仕掛けなので、一般のロジックとは違うが、だからこそ味があってよい。
 常に時代劇のような「勧善懲悪」感がある著者の作品だが、その爽快感が人気の秘密なのではないかと思う。

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ひとこと
好きな作家
有栖川有栖,中山七里,今野敏,エラリイ・クイーン
採点傾向
平均点: 6.30点   採点数: 1069件
採点の多い作家(TOP10)
今野敏(48)
有栖川有栖(44)
中山七里(40)
東野圭吾(34)
エラリイ・クイーン(34)
米澤穂信(20)
アンソロジー(出版社編)(19)
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