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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1853件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.100 7点 デッドソルジャーズ・ライヴ- 山田正紀 2024/11/29 12:54
 山田正紀はこういう感じの連作長編を幾つか物しており、既視感は正直あるのだが、本作は “死” の定義を揺るがすガジェットと、レプタイルの存在によるエロティックなテイストが読みどころ。今時なら強引に特殊設定不条理ミステリ(笑)と呼べなくもない。ボブ・ディランから荻野目洋子まで、サントラ盤でも作りそうな勢いで引用している。え、ファンなの?

No.99 6点 仮面- 山田正紀 2024/11/13 12:36
 犯人と被害者、現実と回想、書き手と読み手。様々な境界線が融解融合する騙りに楽しく幻惑された。記号論的転換によるホワイダニットも、この世界観なら説得力充分イヤ寧ろ斯くあるべしと言う感じ。タマネギの件をダミーに使ってしまうとは贅沢な。
 ▲▼を用いたアレは戴けない。あまりにあからさまだし、テキストが長過ぎ。

No.98 7点 虚栄の都市- 山田正紀 2024/11/08 12:37
 「いったい、何なのだ……」

 この呟きに全てが凝縮されているようだ。流れ来て流れ行く、その一部分を切り取っただけのような、全然完結していないじゃないかと言う物語は、山田正紀の(特に初期)作品には割と見られる形態で、つまり本作、実はSFなんじゃないかなぁ(フレッド・セイバーヘーゲン『バーサーカー』シリーズみたいな)。
 冷酷にバタバタ死ぬ反面、小さなエピソードで人々に “顔” を与える手法が、ここでは取って付けた感じではなく効果を発揮していると思う。アクション系と政治的な題材も上手く並走して、意外と盛り沢山。

No.97 7点 阿弥陀- 山田正紀 2024/10/18 10:59
 “巨大な密室” は、その密室性の完全さについて読者は確信しづらい(ので、作品の謳い文句としては逆効果なのでは?)。本作の真相だって、要は抜け道があっただけと言えなくもない。ただ、そのちょっとした脱力感へ導く為に謎を丁寧に解体する手捌きが格別。派手な装飾は無いのに脳細胞が刺激される。♪とぼけた顔してバンバンバン~、と言う感じだ。

No.96 7点 復活するはわれにあり- 山田正紀 2024/09/13 12:03
 ジェフリー・ディーヴァーのリンカーン・ライムでアクションをやってみたかったのだろうか。半身不随のおじさんがハイテク車椅子で大暴れ。感動ポルノにしてたまるかと言わんばかりのキャラクター造形はドロッと爽やか。主人公の不自由さが却って火事場の馬鹿力のように全体を引っ張って、かつてのスーパーアドベンチャー・シリーズのパワーを再生させている。
 惜しむらくは、“サイボイド” と言う特殊なガジェットが、見た目にせよ動き方にせよイメージしづらい。作者の筆も健闘してはいるが、あまり詳しく説明的な描写をするとスピード感が損なわれるので止むを得ないか。

No.95 7点 ファイナル・オペラ- 山田正紀 2024/08/09 11:49
 山田正紀は神だけでなく仏も狩るのか。
 物語の核がなかなか定まらないのは大問題。ようやく見えてきたのは堅固な構築物ではなく川面に揺らぐ影のようだった。多重解決をあそこまで繰り返してしまうと、残る真相はもうアレしかない、と言う形で先が読めてしまうのには困ったな。
 過剰な表現も強引な暗合も呑み込んで作者が突き刺したかった一つの祈り。つまり狂気とは狂った世界に対する正常な反応である。儚き者よ、物狂え。

No.94 7点 マヂック・オペラ- 山田正紀 2024/08/01 13:34
 歴史には疎いので……勉強になりました。それはつまり、“定説を引っくり返した妄想” に驚くだけの素養が足りないと言うことであって、架空の国の戦争系ファンタジーでも読んでいるような気分だった。

No.93 7点 ミステリ・オペラ- 山田正紀 2024/07/26 12:25
 え、これSFじゃないの? ミステリである以上投げっ放しには出来ないのであって、必ずプロローグに立ち戻らねばならない宿命がこの長さと相容れるのか。“ミステリ” と掲げられたタイトルだけを命綱に谷底へいざ降下。 

 確かに神の扱いは神シリーズ(SF)よりも『神曲法廷』(ミステリ)に近いだろうか。不穏な戦時下の空気感は呪師霊太郎シリーズや『機神兵団』。平行世界説は『花面祭』『螺旋』。個人的には、目立たない作品だが『宿命の女』を想起した。更にヴァン・ダイン『僧正殺人事件』へのこだわり(笑)。
 山田正紀マナーの集大成みたいな感じで、それ故に既視感も強い。面白くしたいなら得意技を全部投入すりゃいいんだろ! と良くも悪くも開き直ったか。濃度の割に読み易く、しかし読んでも読んでも終わらないので胃もたれ必至。このバランス感覚の欠如こそ山田正紀、ではある。
 “これ” はそもそも何なのか? と言う謎に埋もれて殺人事件が単なる徒花みたいに見える。と言う事実こそがコンセプトの勝利を物語る。

 ただ――ごちゃまぜのスープが黄金の一滴に “化ける” 瞬間が、ついに訪れなかった。これだけやられても、私は “理解” を手放して飛び降りることは出来なかったのである。

No.92 7点 氷雨- 山田正紀 2024/07/12 12:08
 サスペンスフルなハード・ボイルドではあるが、パーツの組み合わせ方が結構パズラー的で、そこが良い。石投げ勝負は名場面。
 主人公の妻子に対する思いが、結局は “自分に都合の良い範囲” に落ち着いてしまった感があり残念。そこはちょっと説教臭く感じた。妻がこの結婚で得たのは苦労だけみたいなのに……。

No.91 8点 螺旋- 山田正紀 2024/07/05 12:35
 序章を読んで “え、これSF?” と訝ったのだけれど、実際には現代社会の生活者視点と神学的象徴論の二重写し。ともすれば頭でっかちな観念論に陥りそうなところ、見事な反転と共にきちんと着地している。
 単なる物理的トリビアではなく、そのときにそれが起きることで “奇跡” たり得ている “史上最長の密室” トリック。それに対抗するかのような “××に対するペテン”。この物語はまるで “神シリーズ” のアナザー・サイドだ。

No.90 7点 渋谷一夜物語(シブヤンナイト)- 山田正紀 2024/06/14 12:58
 発表順ではない作品配列がなかなか効いているんじゃないか。サスペンスから少しずつ捩れて条理が失われ、徐々に足場がズレて行く感覚で意識がキーンと冷えるようだった。“幕間” で一旦リセットしたのが異化効果と言えなくもない。平均値の高さ故に却って突出して目立つ作品は無いが、「死体は逆流する」の “動機” が出色と言うか何と言うか。

No.89 7点 イリュミナシオン 君よ、非情の河を下れ- 山田正紀 2024/05/24 14:08
 作中で語られる五人の物語には読み応えがあるけれど、それを支える外枠の部分は上位の物語と言うより構造の説明でやや動きに欠ける。とは言え学術用語を駆使した時空バトルは散文的で逆説的に詩的(かもしれない)。前年の『オフェーリアの物語』に続いてアルチュール・ランボーをサンプリング。嵌まってたのかな~?

No.88 6点 オフェーリアの物語- 山田正紀 2024/05/24 14:06
 呪師霊太郎シリーズの種子を、言の葉の影響力強めの特殊な土壌に蒔いて着床させたもの? 諸々の概念が宙に浮かんだような、それとも、上下感覚を曖昧にしたまま、謎が謎であると言う一点をよすがに頁は進む。人形に似た人間の物語。ところで表紙の人形は切り絵なんだってさ。

No.87 7点 天正マクベス 修道士シャグスペアの華麗なる冒険- 山田正紀 2024/03/28 13:38
 第一話のトリックは賛否両論ありそう。私は断固支持する。時代背景に認識論を絡めて、見たことの無い景色を見せてくれた。
 第二話のトリックは必然性が判りづらい。一方で事件の背景は非情な世の習いで唖然。

 で、歴史改変SFの如き肝心の「マクベス」の部分は単刀直入に過ぎる。あまりに短い断章で、単なる付け足しみたいになってしまっているのでは? それでもキャラクターの肉付けがしっかりしているので、決別には切ない余韻が残った。それで充分じゃないかと言う気もまぁする。

No.86 6点 天保からくり船- 山田正紀 2024/03/21 11:30
 これは受け取り方に迷う。
 どうしてもあの大ネタが印象に残ってしまうが、必ずしもそれが作品の本質と言うわけではないだろう。九合目までは普通の時代アクション小説で、それなりに手慣れた書きようで充分楽しめた(敵味方が曖昧でなかなか本題に入らない嫌いはある)。
 その上でアレをやるなら、もう少し仕掛けと話の筋とに有機的なつながりを仕込んで欲しいところ。伏線の乏しさからして、執筆後半に思い付きで付け加えた設定か、とも勘繰りたくなる。
 しかし一方で、山田正紀らしいと言えば非常にらしいネタであって、つい顔がほころんでしまいもするのである。

No.85 7点 花面祭- 山田正紀 2024/03/16 12:55
 華道と言う素材と山田正紀ブシを巧みに融合。浮世離れした異界ではなく現代日本の生活者を描きつつ、花の彩り・時の移ろい・輪廻転生を鮮やかに幻視させる言の葉の力を感じた。トリック云々より人の心が織り成すミステリ。特に夏のエピソードは良く出来ているのではないか。
 ただ、“天才華道家” の天才性をエキセントリシティだけで表現しちゃうのはちょっと不公平かな~。この人はココが凄い、と言うのを具体的に示して欲しかった。全編を貫く “しきの花” は、正体が判ってみれば詭弁だろう。華道の素養があれば受け取り方も違うのだろうか。

No.84 7点 エイダ- 山田正紀 2024/03/01 13:59
 照れ隠しのような演出を施しつつの物語原理主義宣言である。断片的にばらまかれる様々な “現実” に於ける “物語”。個々で見るとそれぞれ読み応えのあるエピソードなのだが、それらが収斂する結末でやや推進力が落ちてしまったのが如何にも惜しい。
 読んでて良かったメアリ・シェリー『フランケンシュタイン』。本作中で言及されるイメージは原典でないと摑みづらいんじゃないかと思う。ホームズも登場(一応言っとく)。

No.83 5点 愛しても、獣- 山田正紀 2024/01/17 12:04
 男には “獣” が潜んでいる、と言うのはステレオタイプだと思うが、“こんな姿は見たくない” と思わせる部分を容赦無く突き付けてかつてなく読者を凹ませる山田作品。
 ただ、そういったメイン・テーマよりも、一世代前の炎上の様相が悲惨で印象に残った。しかも真相が明らかになっても光はあまり見えない。矛先があっちの家に変わるだけである。

 ところで結果論として、悪意ある彼女の行動が想定外の真相を引きずり出したわけで、その点の面白さはもっと強調しても良かったのでは。

No.82 7点 1ダースまであとひとつ- 山田正紀 2024/01/05 13:38
 初出誌がどこにも記載されていないが、全部書き下ろしなのだろうか(未確認)? ジャンルを分散させることで全ての作品が全ての作品の箸休めを為しつつテイストの変化を常に味わえる巧みな円環を描く短編集、を意図したのかもしれない。
 気軽に楽しめる短編が揃っていて概ね満足。「システムダウン」だけは今一つ。凝っているけどそれに見合った効果が得られていない。

No.81 7点 雨の恐竜- 山田正紀 2023/12/29 15:24
 ヤングアダルトのレーベルを意識したのか、いつもより柔らかみのある文体、しかし時々いかにも山田正紀なやりとりが挿まって苦笑を誘われる。
 作者はその枠組みを上手く使って、中学生と警察官と恐竜をシームレスにつないでみせた。読者はいつの間にか十四歳になっており、夕日の中の恐竜はあまりにも美しい。

 ところで、登場人物紹介に “斉藤ヒトミ:本書の語り手” とあるが、彼女は視点人物であって語り手ではないよね。
 一貫して彼女の見たこと思ったことだけが書かれてはいる。一ヶ所だけサヤカの視点になる部分があるけど、それはその場にいたヒトミにサヤカが語った事柄だとの解釈も可能。
 すると実は “ヒトミ” と言う表記は一人称? 叙述トリック(笑)?

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虫暮部さん
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泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
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西尾維新(72)
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