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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1843件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.29 7点 百舌鳥魔先生のアトリエ- 小林泰三 2024/09/19 12:24
 着地点は結構読めるけれど否応無しに引っ張り回される不快感が快感。でも予測がついてもつかなくても、どの道でろでろになるのだから関係無いね。身体パーツの過剰はフリークス的イメージの基本だから “百舌鳥” と言う字は如何にも小林泰三っぽいじゃないか。あっ、人間ならともかく猫様にあんなことするなんて許せぬ。

No.28 6点 五人目の告白 小林泰三ミステリ傑作選- 小林泰三 2024/08/15 13:02
 “ミステリ傑作選” と言っても小林泰三だからねぇ。一般的なものとは基準がまるで違うのである。
 SF傑作選である『時空争奪』と印象はほぼ同じ。どのジャンルを書いてもべったり “小林印” の刻印を押したような強烈な作風だから、ミステリだSFだと言うのはさほど重要な区分ではないのに、そこで区分してまとめてしまったわけで、コンセプトに無理があったんじゃないか。

 “入門編” としての機能性には少々疑問符が付く。“自己認識の混乱” は作者が多用したネタだが、だからと言ってこんなに重複して採らなくても。それより超限探偵とか因業探偵とか安楽探偵とか入れれば良かったのに。
 “ミステリ世界の地図” があるとして、その辺境にこんなものばかり書いている偏狭な小説家がいた、と言う記念碑にはなっているだろう。

No.27 7点 因業探偵 新藤礼都の事件簿- 小林泰三 2024/03/09 13:57
 抜群の頭脳と最悪の性格。新感覚お仕事ミステリ(笑)。
 しかし本作の最も重要な売りは “何処に謎があるのかが謎” と言う構造だと思う。斜め上に向けて積み上げるロジックに気を取られていると、思いもかけぬところから読者を騙しに来る。
 と考えると、これは単なるキャラクターものではない。それをメインの要素に見せかけて実は煙幕の一つとして機能させているのである。読み易過ぎて実際以上に “小品” の印象が残ってしまうのが勿体無い。

No.26 8点 天獄と地国- 小林泰三 2022/10/26 11:46
 傑作短編の長編化完全版、である。
 欠点、は言い過ぎか、計算違いだった点は、“天獄と地国” と言う設定に行間を充分埋める程の存在感は無い、と言うことではないだろうか。ヴィジュアル作品なら異様な世界が常時背景として目に入る。文章なので、進んだテクノロジーと乏しい資源による歪な文化には浸れるが、最重要の世界設定は忘れがちだった。
 もっとも、変態的な基本設定で照れを吹っ切れたのか、物語はそれこそジュヴナイルのように素直な冒険行。仲間達と挫折を乗り越えて楽園を目指せ! って奴にまんまと乗せられてしまった私であった。

No.25 6点 世界城- 小林泰三 2022/09/08 13:49
 “本格冒険ファンタジー” との謳い文句に偽りは無く、なかなか古式ゆかしい少年の冒険譚。が、そこは小林泰三、理系のことわりで編まれた世界設定の “正確に間違えた” 感じが美しい。いつもならしばしば笑いにつながる過剰にロジカルな会話が、きちんとコミュニケーションとして機能しているのも微笑ましい。

No.24 5点 安楽探偵- 小林泰三 2022/05/03 12:19
 Lazy Detective ――どういうことだろう。明らかにこの連作短編のうち幾つかは、作中で示された真相とは別の真相が仄めかされている。しかし最終話に至ってもその “真の真相” が語られることはないままだ。
 確かに “読者に対して親切に書かないことが読者に対する親切” みたいな芸風の人ではあるが、一体何があったのだろうか。

 考えられる可能性は以下の通り。
 1.ものぐさな作者は最後まで説明するのが面倒になった。
 2.“真の真相” が某国の機密に関わっていた為、最終話を差し替えられた。
 3.この問題点への対処法によって読者を選別している。選ばれた読者は泰三の国へ迎え入れられ幸せに暮らせると言う。

No.23 7点 逡巡の二十秒と悔恨の二十年- 小林泰三 2021/12/24 12:13
 「吹雪の朝」は、クローズド・サークルものに見せかけて実は××+××のミステリ。「侵略の時」「サロゲート・マザー」は作者ならではの哲学的で論理的な狂笑SF。「食用人」、このネタでここまでやった例は初めて読んだ。「メリイさん」は以前にも書いたネタだろ!

No.22 8点 目を擦る女- 小林泰三 2021/07/20 12:22
 私にとって、小林泰三作品で最も忘れがたいのは「予め決定されている明日」であるようだ。“好き”とはちょっと違う。初読から十数年。世界の向こう側で忙しなく蠢く算盤人たちの朧な影は、私の頭の中にくっきりと刻み込まれたままである。嗚呼イヤだイヤだ。

No.21 5点 幸せスイッチ- 小林泰三 2021/04/24 11:46
 短編集。まぁ面白いんだけど、“ハードウェアとしての小林泰三”と言う感じ。ソフトを厳選はしなかったんだな。イコライザーの変調で何をかけてもサイケに聴こえるCDプレーヤーである。しかしおかげで私は世界の秘密に気が付いてしまった。短編集。まぁ面白いんだけど、“ハードウェアとしての小林泰三”と言う感じ。ソフトを厳選は

No.20 4点 奇憶- 小林泰三 2021/04/03 12:59
 作者の持ちネタを組み合わせただけ。お約束の面白さみたいなものはあるが、強い核が欠けており残念。

No.19 7点 ネフィリム 超吸血幻想譚- 小林泰三 2021/02/16 11:51
 なかなか死なない体なのをいいことにやりたい放題。残虐プレイと冷静かつ論理的な文体の組み合わせが笑いを誘う。つまりこの作者の基本的な芸風そのもの。SF的に展開した『ΑΩ』に対してこちらはホラー調だけど、そんなことは枝葉に過ぎないのだ。最初から最後まで血みどろな話で、読み終えて本を閉じたらページの間からドロリと溢れて来た。

No.18 8点 人獣細工- 小林泰三 2021/02/03 12:01
 表題作は、厳しく見れば「玩具修理者」の焼き直し。読み比べると「玩具修理者」はほぼ骨格だけなんだな~。私は肉を纏った「人獣細工」の方が好き。
 「吸血狩り」。この作者にしてはとてもストレート。
 「本」。言語によるソフトウェアが脳にインストールされちゃうことはよくあるよね。これは決して奇天烈なフィクションではないと思う。

No.17 8点 見晴らしのいい密室- 小林泰三 2021/01/15 12:51
 ネタバレしちゃうのだが、「探偵助手」について私はきちんと読み取れているのか自信が無い。
 見た目が似ている二種類の薬がある。取り違えると場合によっては命に関わる。それを防ぐ適切な対策を講じなかったことが“確率の殺人”であると言っている? ――単なる思い込みや怠慢でその程度のリスクが放置されている事例は現実に幾らでもありそうだけどなぁ。まぁ作品のキモはそこじゃないんだけど。
 「囚人の両刀論法」は、会話で示されるロジックよりも、その背後に垣間見える設定の方が面白そう。“委員会”とか“冷凍貨物船で惑星系巡り”とか。

 『目を擦る女』から三編を入れ替えて再構成したもの。変更部分がページ数で言えば半分弱なので、もう別物である。大人の事情なのか。今となってはこんな刊行の仕方は寧ろ贅沢と言うべきか。ザ・ローリング・ストーンズのアルバムの英盤と米盤で内容が違うようなものか(違う)。

No.16 7点 肉食屋敷- 小林泰三 2021/01/04 11:47
 作者曰く“怪獣小説、西部劇、サイコスリラー、ミステリーというバラエティーに富んだ構成”の短編集。確かにその通り。なんだけど、それゆえにこそ、通底する普遍的な小林泰三テイストが剥き出しになっている、とも言える。執拗な書き込みと笑ってしまう変態的怪奇趣味。ぬめっ、とした感じ。好きな色は赤と黒。
 1編選ぶなら私は「ジャンク」。素敵に吐き気がしそうな世界設定だ。

No.15 7点 玩具修理者- 小林泰三 2020/12/27 13:31
 第2回日本ホラー小説大賞短編賞受賞の表題作。詳細な描写を執拗に重ねて気持悪さを醸し出す技は既に出来上がっている。フィニッシュも鮮やかに決まった。但し、今振り返ると、同作者の初期短編群の中で突出したものと言うわけではないと思う。

 併録の中編「酔歩する男」。以前読んだ時と比べ格段に面白く理解出来た。いや、あの時読んだのは本当にこの本だっただろうか? 勿論、そうでないとしたら私が勘違いしただけのことなのだ。

No.14 7点 海を見る人- 小林泰三 2020/12/11 12:08
 本書は小林泰三のブライト・サイドだと思っていたけど、決してリリカルなだけの作品集ではないし、視覚的な想像を膨らませるとなかなかシュールかつグロテスクだし、こりゃあ表紙を飾る鶴田謙二のイラストに騙されていたわ(いいじゃないの幸せならば)。
 どれも面白いが、以前読んだ時と比べると結構“普通”な印象。変な世界の話はいっぱい読んだからね。

No.13 7点 未来からの脱出- 小林泰三 2020/11/03 11:42
 枠組みとしてはSFだが、なかなかミステリ味も濃い一冊。嫌がらせのように使われるロジック、記憶の錯綜による混乱、グロテスクな変形と、正直いつものネタが満載ではある。ただそもそもが特殊な作風だから、それをマンネリズムだと批判するのは違う気がする。寧ろ作者はこのスタイルをどこまでも研ぎ澄ます職人の道を極めようとしているのだな。

No.12 5点 ティンカー・ベル殺し- 小林泰三 2020/07/31 12:24
 このシリーズがこんなに続くとは思わなかった。こうなると評価の仕方も微妙になって来る。つまり、設定を生かしたねじれたロジックやトリックの作り方がパターン化していないか、そして、土台にあるのは他人のネタじゃないか、と言うことである。しかし“アーヴァタール”の設定と既成のメルヘン世界の親和性は高いし、それ自体がコンセプトだし。うーむ。
 本作にはもう一つ問題があって、メインのトリックには先行例(結構知名度あると思う)があるのだ。私はそのへん比較的鷹揚なつもりだが今回はがっかりしてしまった。

No.11 6点 因業探偵 リターンズ 新藤礼都の冒険- 小林泰三 2019/03/04 12:30
 謎解き要素はあまりないけど丁々発止の会話劇が楽しい。この作者の定番ネタが幾つも出て来るが、そういう時に“またか”と感じる作家と“待ってました”と感じる作家がいて、小林泰三は明らかに後者。得だね。

No.10 7点 人外サーカス- 小林泰三 2019/02/01 12:02
 版元は“サバイバル・ミステリ”と謳っており、確かに伏線があり種明かしもあるが、そこまで謎解き要素が強いわけではない。殺し合いに関する工夫を楽しむ作品であり、能力が高い&なかなか死なないキャラクターだから色々と無茶な殺し方が出来て小林泰三の本領が遺憾なく発揮されている。しろがねもびっくり、徳さんの仕掛けた罠に拍手!

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 1843件
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