皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
虫暮部さん |
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平均点: 6.22点 | 書評数: 1943件 |
No.46 | 8点 | 魔境物語- 山田正紀 | 2022/01/30 12:08 |
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光風社版、天野喜孝の美麗表紙が素敵。
山田正紀のこの時期の冒険小説系作品は “はみだし者達の即席チーム、無謀な道行” ばかりなのだが、「まぼろしの門」はその中でも最高位に置くべき逸品。孝平がいるからこそ嘉兵衛のキャラクターが生きる構造に仏教を上手く絡めて、ラストシーンではもう泣きそう。 「アマゾンの怪物」も、パターン通りではあるが作品の水準として劣るものではない。全員に裏がある省エネ設定? ただ、中編2編収録と言うなんとも中途半端なパッケージが、山田正紀作品リストの中で本書の存在感を妙に薄くしているように思える。せめてもう1編あれば……もしかして “魔境” テーマでシリーズ化するつもりが頓挫したのだろうか。 |
No.45 | 7点 | 化石の城- 山田正紀 | 2022/01/16 12:01 |
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これは作者初の “明確なSF要素を含まない長編” だ。
ところが山田青年はあとがきにこう綴っている。 “ぼくはSF作家を志す者だ。なぜ他の小説をではなく、SFを選んだのかという理由のひとつに、諸先輩の誰もが口にされることだが、その間口の広さがある。(中略)ぼくの独断にすぎないかもしれないが、すでに日本においては、SFを小説の一ジャンルと考えるのは正確でないような気がする。頭のなかで繰り返したあるシミュレーションを、小説にとりいれるテクニック、あるいはそれに伴う「思想」のような気がするのだ。 ――というわけで、この『化石の城』は現代史をテーマにしたSFである。” これは、山田正紀を読み解く上で、なかなか重要かつ親切な告白ではないか。 デビュー作で星雲賞を受賞し、立て続けに傑作SF長編を発表、一躍SF界の寵児となるかと思ったらアクション小説へも手を伸ばした。それはそれで面白いのだが、“初期作品のようなSFを(初期のうちに)もっと書いて欲しかった” 私にしてみれば “何故そっちへ行った!?” との疑問を拭い去ることが出来ずにいた。てっきり出版社主導の “売る為の路線” として書いたのかな~と邪推していたのだが、しかし本人としてはそこまでの区別は無かったと言うことだろうか。 超自然現象の有無とかにこだわらず、本作から『宿命の女』や『人喰いの時代』を経て『ミステリ・オペラ』あたりに辿り着くものが “現代史SFと言う思想” だとすれば、山田正紀のミステリが何故いつもミステリとして何か欠けているように感じられるのかの説明になるような気がする。 |
No.44 | 7点 | 宿命の女- 山田正紀 | 2021/12/29 12:16 |
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問題は結末間近で明らかになる “宿命の女” なる芸術作品。私の感受性の欠如か、“そういうものでそういう表現が出来る” と言うことがイメージしづらく “なんじゃそりゃ” と思った。
思ったがしかし、数ページ読み進むうちにみるみるそれが自分の中で “アリ” に変わって行く。大袈裟に言えば、心の一部が組み替えられたような気分で面白かった。 主人公が美術雑誌編集者で、アクションに於ける強みがまるで無く、優柔不断なままラストまで流れ着くあたりも苦笑を誘われ良い感じ。 |
No.43 | 7点 | 裏切りの果実- 山田正紀 | 2021/12/26 11:02 |
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それにしても暑い。そして疲れて、空っぽ。返還前夜の沖縄の空気がこれでもかとばかりにリアルに描かれている。いや実物知らんけど、リアルな気が、する。現金輸送車は宿命的に狙われる。
結末近くで明かされる伊波名の意外な小賢しさと、それによって露わになる志郎の空虚さ(とは大袈裟か)が印象的。ドストエフスキーを持ち出したりして、実はインテリ? 理想に敗れた活動家あがり? “刑務所” ってそういうことか? |
No.42 | 7点 | 開城賭博- 山田正紀 | 2021/11/03 15:24 |
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広義の“時代物”作品集。SF要素はありません。
表題作。“史実”と言うアドヴァンテージはあれど、短い描写で賭けの場に見事引きずり込まれた。「恋と、うどんの、本能寺」。もっと紙幅を割いて、うどんの真相を追求して欲しかった。「独立馬喰隊、西へ」。作者十八番のはぐれ異能集団もの。幾度も読んだパターンだけどグッと来ちゃうね。私には判らないけど、岡本喜八監督へのオマージュとの由。 |
No.41 | 7点 | 恋のメッセンジャー- 山田正紀 | 2021/10/16 10:46 |
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愛読者にしてみれば「眠れる美女」は定番ネタで、処理の仕方もパターン通りかも。「かまどの火」は『宝石泥棒』の一場面を移植したよう(良い意味で)。上司からのこんな通信方法は嫌だ。
他に生物学SFミステリ(とは言い過ぎ)、飛行機乗り達の切ない話、切り裂きジャックの話。アイデアを引っ張り過ぎない短編らしい短編が集まっている。植物が視点人物を務める「西部戦線」の語り口が面白い。 |
No.40 | 7点 | 京都蜂供養- 山田正紀 | 2021/10/03 11:11 |
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1994年。作者の単行本未収録短編の多さに憤った編集者が“山田正紀コレクション”と銘打って全3巻の短編集を企画。本書はその奇妙な味編。
と言うことらしいが、“奇妙な味”って、ジャンル分けしづらい作品に対する逃げ口上になってないか? 私としては、認定に際してもう少し高いハードルを求めたい。 本書の収録作は全体的に“奇妙な味”と呼ぶには鋭い。少なくとも一部分には刃が付いている気がする。 はっきりとSFである「モアイ」。実はSFの「鮫祭礼」。表題作は伝奇ミステリ? 真に“奇妙な味”なのは「転げ落ちる」「近くて遠い旅」くらい。一番滑稽で怖いのは「獣の群れ」。 |
No.39 | 6点 | ヘロデの夜- 山田正紀 | 2021/10/03 11:01 |
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1994年。作者の単行本未収録短編の多さを嘆いた編集者が“山田正紀コレクション”と銘打って全3巻の短編集を企画。本書はそのSF編。
出来が悪いわけではないが、他作品との類似は見られる。“自分は記憶力にとぼしく、内容を全く思い出せない短編もある”との作者の言、意外と本音? 表題作と「ユダの海」にちょっとしたリンクがあり、これは更に膨らませて連作長編にする構想だったのかも(山田正紀にはその手の中断したシリーズが沢山ある)。「プランクトン・カンサー」のオチは疑問。そんなことしたら浮力低下で浮上出来なくなっちゃうのでは。 |
No.38 | 7点 | 見えない風景- 山田正紀 | 2021/10/02 10:54 |
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1994年。作者の単行本未収録短編の多さに驚いた編集者が“山田正紀コレクション”と銘打って全3巻の短編集を企画。本書はそのミステリ編。
“えてして現実とはそんなものなのでしょう”と作中でも語られるように、この人のミステリ短編は“ダミーの真相 → 本当の真相”と明らかになるにつれてスケール・ダウンする一抹の脱力感(バカミスとはまたニュアンスが違う)が持ち味かなぁと私などは思う。 それが常に良い方向に働くとは限らないけれど、表題作の巧みながっかり感には拍手。「スーパーは嫌い」の真相は、不自然だが面白いアイデアではある。もう少ししっかり詰めていれば! |
No.37 | 5点 | 少女と武者人形- 山田正紀 | 2021/09/26 14:10 |
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“奇妙な味”と呼ぶのも躊躇する、曖昧な輪郭の短編集。と感じるのは“山田正紀作品”だとの先入観も大きいのだろうか。
しかし、鮮やかな色彩を放つSF作品群とは対照的で物足りなさもあるが、これはこれで作者の持ち味(悪癖?)の一つと認めざるを得ない。ミステリ系作品でしばしば見られる、きちんとまとまり切らない、雰囲気に流されるような結末はこれと同根だと思うのだ。 『夢の中へ』は、『少女と武者人形』全編に単行本初収録作品を追加してほぼ倍に増量したもの。嬉しいボーナス・トラックである反面、追加分だけで独自に刊行するには弱いと言う冷静なビジネス的判断でもあるんだろうなぁと切ない。 |
No.36 | 7点 | フェイス・ゼロ- 山田正紀 | 2021/09/21 11:51 |
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初読時は地味に感じられたが、読み返すと味わい深くなって来た。一読して過剰な期待感が落ち着いたので、作品本来の良さを素直に享受出来るようになったのか。これって褒めていることになるのか?
表題作はSFミステリ。「火星のコッペリア」もそれに含めていいだろう(融合度はこちらが上)。一番素直にグッと来たのは「冒険狂時代」で、これだけ矢鱈古く1978年の作品。このことを以てして“山田正紀は初期のほうが面白い”などと決め付けたくはないが……。 |
No.35 | 7点 | ヨハネの剣- 山田正紀 | 2021/07/27 12:33 |
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全体的にあっけない結末で、まぁそこが短編である意義でもあるのだろう。ユーモラスなアイデアが光る「アナクロニズム」、曖昧なアイデアを雰囲気で描き出した「優しい町」が良い。表題作のテーマは短編で使い尽くすのはちょっと勿体無いか。登場人物が過激派と言う設定は展開上結構有効? |
No.34 | 5点 | アフロディーテ- 山田正紀 | 2021/07/01 14:26 |
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あらら、いつの間にか現実が作中の年を追い越していた。
架空の都市が舞台と言う点でSF。でも実は海上都市アフロディーテ(いまひとつイメージが摑めなかった)と移住者である主人公の位置付けは、同じ作者の魔境冒険ものを未来の場に平行移動しただけでは。 アクション度はさほど高くなく、前半は青春小説。後半は“取り返しの付かないものへの諦念”を描いたソフトなハードボイルド? 地味な話だとの前提で読んだ方が楽しめるので、版元は誇大広告を控えるべきだ。今でこそ“キッドの正体”は判り易いけど、発表当時このアイデアはどんな感じだったんだろう。 |
No.33 | 7点 | 白の協奏曲- 山田正紀 | 2021/05/25 12:40 |
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こういう“撤去作戦”が実施されたら、私はどうするだろう。火事場泥棒のほうが怖いな~。テレビやラジオを聴取する義務は無いのだから、そんな指示は知らないぞと言い張れる。居留守を使って数日部屋に籠もるか。
物凄い大金とか財物とか、人間一人の身の丈とあまりにスケール感の違う欲望を見ると、その対比に哀しみを感じてしまうことがある。結末の“散骨”の場面もそんな感じだった。 第一楽章で説明される“囚人ゲーム”はちょっと説明不足。 楽団員は全員男性なので表紙のオブジェにはミスがある。 |
No.32 | 7点 | ツングース特命隊- 山田正紀 | 2021/04/27 10:48 |
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はみ出し者の愉快で不機嫌なチームの珍道中、と御馴染みの設定ながら、エンタテインメントのツボを押さえた書きっぷり。主人公のカラーが薄い気はするが、死に行くキャラクターをドライに描いて切なく読ませる技に酔いしれた。異国や魔境の旅情も満載。ところがこれでも山田正紀作品群の中では地味な方なのである。 |
No.31 | 9点 | 竜の眠る浜辺- 山田正紀 | 2021/04/10 12:48 |
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ほのぼの系山田正紀の最高峰。最高峰も何も、こういう味わいの山田作品はほぼこれだけか。しかし作品リストにこの一冊があるだけで或る種のバランスが生まれている。異色作なのに代表作。
エピローグに至っても事態は全く解決していない。にもかかわらず妙な安堵感に満たされるのは、登場人物を落ち着くべきところに落ち着かせる手際の良さ故か。 但し、今回読み返して、“男女の役割分担”が作品全体を覆っている、とは感じた。勿論そういう時代の作品だからなのだが、普遍的なテーマの中でそれが目立つような。ああいう“ワイルド・ライフ”に於いては役割分担制に回帰してしまうものだろうか。 |
No.30 | 8点 | 謀殺のチェス・ゲーム- 山田正紀 | 2021/04/01 10:46 |
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若人2人の逃避行が、物語中盤の“ゲーム”とあまり有機的に結び付いていない。
勝敗の基準が今一つ解りづらい。 両陣営とも似たようなキャラクターが多く紛らわしい。 題名に“謀殺”は変じゃない? しかしグッジョブ。息を詰めて一気に読みました。 |
No.29 | 7点 | チョウたちの時間- 山田正紀 | 2021/03/25 12:52 |
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最初期の“説明出来ないことは説明出来ない”から、“説明出来ないことが説明出来ない理由を説明することで説明出来ないこと自体を浮かび上がらせる”手法へと進歩したような。背後に垣間見えた概念があまりに大きく、いつまでたっても読み終えた気がしない。 |
No.28 | 6点 | 地球・精神分析記録 ――エルド・アナリュシス――- 山田正紀 | 2021/02/16 11:50 |
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最初期のプリミティヴな勢い溢れる幾つかの長編を経て、ゲーム性と虚構性による或る種の冷徹な面白さへと階梯を昇り始めた作品、なんだけどまだ過渡的な印象。後年、過剰になって紙幅を肥大させる神学・民俗学や精神医学からの引用だが、この時期はまだ抑制されていて、今読むと物足りないくらいだ。4章の“犯罪が企業化した社会”の設定は、連作長編の1エピソードで終わらせるには勿体無い。 |
No.27 | 8点 | ふしぎの国の犯罪者たち- 山田正紀 | 2021/02/03 12:02 |
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冷水を浴びせるようなラストは、決して嫌いなタイプではないのに、本作に限ってはあまりにショッキングで悲痛。それだけ登場人物達に愛着を感じていたのはニックネームの効用か? どの作戦も綱渡りの連続なのに、夢の中でステップを踏むような遊戯性をうっすらと滲ませた筆致でなんとなく納得させられてしまう。特に、あさっての方から急襲するような3話目のアイデアに感服。 |