皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
虫暮部さん |
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平均点: 6.21点 | 書評数: 2006件 |
No.51 | 6点 | 恍惚病棟- 山田正紀 | 2023/02/17 13:38 |
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大まかな謎は二つある。“病棟で何が起きているのか?” は、ミステリの柔らかい部分と硬い部分の予想外の混ざり方と言う感じで驚かされた。一方、その舞台で発生した悪意による出来事については、曖昧な部分が多くスッキリしなかった。
主人公のキャラクターについて。読者視点で読み取れる印象と、作中で他の人達が彼女に接する時の評価にギャップを感じた。“過大評価されている人” と言う意図的な設定なのだろうか。 研修医・新谷のノートは、発表当時のセンスとしても失笑ものである(筈)。それこそ痴呆老人からのメッセージかと思った。 |
No.50 | 8点 | 謀殺の弾丸特急- 山田正紀 | 2023/02/03 11:57 |
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超冒険(スーパーアドベンチャー)シリーズ第三弾、だそうな。第二弾『火神を盗め』は、キャラクターの身上や動機付けがアレコレうざったかった。対して本作は、否応無しに巻き込まれて “生き延びたい” だけの設定が、玄人相手の無茶な逃走劇に却って説得力を持たせている、と私は思う。相手を死なせても精神的な呵責がいつの間にか有耶無耶になっているあたりも、判る。
“機関車 VS 攻撃ヘリ” では素人ならではのアイデアが炸裂して痛快無比。一方、ジャングルの中で一晩停車しても無事(なのに翌朝にはあっさり追い付かれる)、と言う流れには首を傾げた。 尚、計画的殺人は起きていないわけで、タイトルは “無謀な自殺行為” の略、かな。 |
No.49 | 8点 | たまらなく孤独で、熱い街- 山田正紀 | 2022/09/01 12:24 |
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殺人者については諸々未解明なまま。そういうミステリ的な “納得” を脇に置けば、文脈とか整合性とかとは別のところでかなり腑に落ちる(判らなさが判る)話。“孤独” を描いたと言うと陳腐だが、そう言うしかない。
真ん中の部分、つまり “彼” を、ここまで思い切って空白に出来たのは作者の胆力ゆえ、だろうか。 SF作品では虚構性の強さが特徴の人だし、見る角度を変えると “誰でもない殺人者が、しかしその時その場所に確かに居た” と言う幻想小説にも思える。 |
No.48 | 8点 | デッド・エンド- 山田正紀 | 2022/08/02 11:56 |
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山田正紀の宇宙SFしかも長編って実は珍しい。そしてJ・P・ホーガン『星を継ぐもの』あたりと同じ意味でのSFミステリである。スケールの大きなホワイダニット?
そこに主人公個人の、言ってしまえば卑小な絶望をぶつけて対比、とするには何か足りない気がする。ただ、この謎とその真相はとても好きで、つまり全面的高評価ではないけれど必要なポイントは確保されている。 |
No.47 | 7点 | 魔術師- 山田正紀 | 2022/04/23 12:49 |
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神獣聖戦シリーズは作者本人による『神狩り』のリメイクみたいなものだと思う。デビュー時より語彙が増えた分、虚構性の切迫感も増強されている。“鉱脈を掘りあてたかもしれない” とのコメントや『神狩り2 リッパー』との共通性もむべなるかな。但しキャラクター造形も相変わらずなのである。 |
No.46 | 5点 | 神獣聖戦 Perfect Edition- 山田正紀 | 2022/03/16 12:05 |
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動的な物語を或る種の背景に引っ込めてまで、本来は背景の役割であるところの “世界のありさま” を主役に引っ張り出している。上巻まるまる使って設定紹介をしているようなもので、正直そこは読みづらかった。記述を繰り返し重複させる悪癖もきつい。作者のアクロバットに付いて行けなかった気分で悔しい。
後半ようやく登場人物(人に限らず)が前面に出て来て面白くなるが意外とあっさり終結。説明にここまで紙幅を割いておいて、具体的なアクションはこれだけ? いや、ページ数としては充分長い筈なんだけど、壮大な設定を延々読まされたせいでスケール感が狂っちゃったんだね。 「テイク・オン・ミー」の歌詞が、厳密に言えばちょっと違う。“密室殺人” は有名なバカミス系トリックの応用? |
No.45 | 8点 | 魔境物語- 山田正紀 | 2022/01/30 12:08 |
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光風社版、天野喜孝の美麗表紙が素敵。
山田正紀のこの時期の冒険小説系作品は “はみだし者達の即席チーム、無謀な道行” ばかりなのだが、「まぼろしの門」はその中でも最高位に置くべき逸品。孝平がいるからこそ嘉兵衛のキャラクターが生きる構造に仏教を上手く絡めて、ラストシーンではもう泣きそう。 「アマゾンの怪物」も、パターン通りではあるが作品の水準として劣るものではない。全員に裏がある省エネ設定? ただ、中編2編収録と言うなんとも中途半端なパッケージが、山田正紀作品リストの中で本書の存在感を妙に薄くしているように思える。せめてもう1編あれば……もしかして “魔境” テーマでシリーズ化するつもりが頓挫したのだろうか。 |
No.44 | 7点 | 化石の城- 山田正紀 | 2022/01/16 12:01 |
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これは作者初の “明確なSF要素を含まない長編” だ。
ところが山田青年はあとがきにこう綴っている。 “ぼくはSF作家を志す者だ。なぜ他の小説をではなく、SFを選んだのかという理由のひとつに、諸先輩の誰もが口にされることだが、その間口の広さがある。(中略)ぼくの独断にすぎないかもしれないが、すでに日本においては、SFを小説の一ジャンルと考えるのは正確でないような気がする。頭のなかで繰り返したあるシミュレーションを、小説にとりいれるテクニック、あるいはそれに伴う「思想」のような気がするのだ。 ――というわけで、この『化石の城』は現代史をテーマにしたSFである。” これは、山田正紀を読み解く上で、なかなか重要かつ親切な告白ではないか。 デビュー作で星雲賞を受賞し、立て続けに傑作SF長編を発表、一躍SF界の寵児となるかと思ったらアクション小説へも手を伸ばした。それはそれで面白いのだが、“初期作品のようなSFを(初期のうちに)もっと書いて欲しかった” 私にしてみれば “何故そっちへ行った!?” との疑問を拭い去ることが出来ずにいた。てっきり出版社主導の “売る為の路線” として書いたのかな~と邪推していたのだが、しかし本人としてはそこまでの区別は無かったと言うことだろうか。 超自然現象の有無とかにこだわらず、本作から『宿命の女』や『人喰いの時代』を経て『ミステリ・オペラ』あたりに辿り着くものが “現代史SFと言う思想” だとすれば、山田正紀のミステリが何故いつもミステリとして何か欠けているように感じられるのかの説明になるような気がする。 |
No.43 | 7点 | 宿命の女- 山田正紀 | 2021/12/29 12:16 |
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問題は結末間近で明らかになる “宿命の女” なる芸術作品。私の感受性の欠如か、“そういうものでそういう表現が出来る” と言うことがイメージしづらく “なんじゃそりゃ” と思った。
思ったがしかし、数ページ読み進むうちにみるみるそれが自分の中で “アリ” に変わって行く。大袈裟に言えば、心の一部が組み替えられたような気分で面白かった。 主人公が美術雑誌編集者で、アクションに於ける強みがまるで無く、優柔不断なままラストまで流れ着くあたりも苦笑を誘われ良い感じ。 |
No.42 | 7点 | 裏切りの果実- 山田正紀 | 2021/12/26 11:02 |
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それにしても暑い。そして疲れて、空っぽ。返還前夜の沖縄の空気がこれでもかとばかりにリアルに描かれている。いや実物知らんけど、リアルな気が、する。現金輸送車は宿命的に狙われる。
結末近くで明かされる伊波名の意外な小賢しさと、それによって露わになる志郎の空虚さ(とは大袈裟か)が印象的。ドストエフスキーを持ち出したりして、実はインテリ? 理想に敗れた活動家あがり? “刑務所” ってそういうことか? |
No.41 | 7点 | 開城賭博- 山田正紀 | 2021/11/03 15:24 |
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広義の“時代物”作品集。SF要素はありません。
表題作。“史実”と言うアドヴァンテージはあれど、短い描写で賭けの場に見事引きずり込まれた。「恋と、うどんの、本能寺」。もっと紙幅を割いて、うどんの真相を追求して欲しかった。「独立馬喰隊、西へ」。作者十八番のはぐれ異能集団もの。幾度も読んだパターンだけどグッと来ちゃうね。私には判らないけど、岡本喜八監督へのオマージュとの由。 |
No.40 | 7点 | 恋のメッセンジャー- 山田正紀 | 2021/10/16 10:46 |
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愛読者にしてみれば「眠れる美女」は定番ネタで、処理の仕方もパターン通りかも。「かまどの火」は『宝石泥棒』の一場面を移植したよう(良い意味で)。上司からのこんな通信方法は嫌だ。
他に生物学SFミステリ(とは言い過ぎ)、飛行機乗り達の切ない話、切り裂きジャックの話。アイデアを引っ張り過ぎない短編らしい短編が集まっている。植物が視点人物を務める「西部戦線」の語り口が面白い。 |
No.39 | 7点 | 京都蜂供養- 山田正紀 | 2021/10/03 11:11 |
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1994年。作者の単行本未収録短編の多さに憤った編集者が“山田正紀コレクション”と銘打って全3巻の短編集を企画。本書はその奇妙な味編。
と言うことらしいが、“奇妙な味”って、ジャンル分けしづらい作品に対する逃げ口上になってないか? 私としては、認定に際してもう少し高いハードルを求めたい。 本書の収録作は全体的に“奇妙な味”と呼ぶには鋭い。少なくとも一部分には刃が付いている気がする。 はっきりとSFである「モアイ」。実はSFの「鮫祭礼」。表題作は伝奇ミステリ? 真に“奇妙な味”なのは「転げ落ちる」「近くて遠い旅」くらい。一番滑稽で怖いのは「獣の群れ」。 |
No.38 | 6点 | ヘロデの夜- 山田正紀 | 2021/10/03 11:01 |
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1994年。作者の単行本未収録短編の多さを嘆いた編集者が“山田正紀コレクション”と銘打って全3巻の短編集を企画。本書はそのSF編。
出来が悪いわけではないが、他作品との類似は見られる。“自分は記憶力にとぼしく、内容を全く思い出せない短編もある”との作者の言、意外と本音? 表題作と「ユダの海」にちょっとしたリンクがあり、これは更に膨らませて連作長編にする構想だったのかも(山田正紀にはその手の中断したシリーズが沢山ある)。「プランクトン・カンサー」のオチは疑問。そんなことしたら浮力低下で浮上出来なくなっちゃうのでは。 |
No.37 | 7点 | 見えない風景- 山田正紀 | 2021/10/02 10:54 |
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1994年。作者の単行本未収録短編の多さに驚いた編集者が“山田正紀コレクション”と銘打って全3巻の短編集を企画。本書はそのミステリ編。
“えてして現実とはそんなものなのでしょう”と作中でも語られるように、この人のミステリ短編は“ダミーの真相 → 本当の真相”と明らかになるにつれてスケール・ダウンする一抹の脱力感(バカミスとはまたニュアンスが違う)が持ち味かなぁと私などは思う。 それが常に良い方向に働くとは限らないけれど、表題作の巧みながっかり感には拍手。「スーパーは嫌い」の真相は、不自然だが面白いアイデアではある。もう少ししっかり詰めていれば! |
No.36 | 5点 | 少女と武者人形- 山田正紀 | 2021/09/26 14:10 |
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“奇妙な味”と呼ぶのも躊躇する、曖昧な輪郭の短編集。と感じるのは“山田正紀作品”だとの先入観も大きいのだろうか。
しかし、鮮やかな色彩を放つSF作品群とは対照的で物足りなさもあるが、これはこれで作者の持ち味(悪癖?)の一つと認めざるを得ない。ミステリ系作品でしばしば見られる、きちんとまとまり切らない、雰囲気に流されるような結末はこれと同根だと思うのだ。 『夢の中へ』は、『少女と武者人形』全編に単行本初収録作品を追加してほぼ倍に増量したもの。嬉しいボーナス・トラックである反面、追加分だけで独自に刊行するには弱いと言う冷静なビジネス的判断でもあるんだろうなぁと切ない。 |
No.35 | 7点 | フェイス・ゼロ- 山田正紀 | 2021/09/21 11:51 |
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初読時は地味に感じられたが、読み返すと味わい深くなって来た。一読して過剰な期待感が落ち着いたので、作品本来の良さを素直に享受出来るようになったのか。これって褒めていることになるのか?
表題作はSFミステリ。「火星のコッペリア」もそれに含めていいだろう(融合度はこちらが上)。一番素直にグッと来たのは「冒険狂時代」で、これだけ矢鱈古く1978年の作品。このことを以てして“山田正紀は初期のほうが面白い”などと決め付けたくはないが……。 |
No.34 | 7点 | ヨハネの剣- 山田正紀 | 2021/07/27 12:33 |
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全体的にあっけない結末で、まぁそこが短編である意義でもあるのだろう。ユーモラスなアイデアが光る「アナクロニズム」、曖昧なアイデアを雰囲気で描き出した「優しい町」が良い。表題作のテーマは短編で使い尽くすのはちょっと勿体無いか。登場人物が過激派と言う設定は展開上結構有効? |
No.33 | 5点 | アフロディーテ- 山田正紀 | 2021/07/01 14:26 |
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あらら、いつの間にか現実が作中の年を追い越していた。
架空の都市が舞台と言う点でSF。でも実は海上都市アフロディーテ(いまひとつイメージが摑めなかった)と移住者である主人公の位置付けは、同じ作者の魔境冒険ものを未来の場に平行移動しただけでは。 アクション度はさほど高くなく、前半は青春小説。後半は“取り返しの付かないものへの諦念”を描いたソフトなハードボイルド? 地味な話だとの前提で読んだ方が楽しめるので、版元は誇大広告を控えるべきだ。今でこそ“キッドの正体”は判り易いけど、発表当時このアイデアはどんな感じだったんだろう。 |
No.32 | 7点 | 白の協奏曲- 山田正紀 | 2021/05/25 12:40 |
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こういう“撤去作戦”が実施されたら、私はどうするだろう。火事場泥棒のほうが怖いな~。テレビやラジオを聴取する義務は無いのだから、そんな指示は知らないぞと言い張れる。居留守を使って数日部屋に籠もるか。
物凄い大金とか財物とか、人間一人の身の丈とあまりにスケール感の違う欲望を見ると、その対比に哀しみを感じてしまうことがある。結末の“散骨”の場面もそんな感じだった。 第一楽章で説明される“囚人ゲーム”はちょっと説明不足。 楽団員は全員男性なので表紙のオブジェにはミスがある。 |