皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
虫暮部さん |
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平均点: 6.22点 | 書評数: 1853件 |
No.40 | 6点 | ヘロデの夜- 山田正紀 | 2021/10/03 11:01 |
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1994年。作者の単行本未収録短編の多さを嘆いた編集者が“山田正紀コレクション”と銘打って全3巻の短編集を企画。本書はそのSF編。
出来が悪いわけではないが、他作品との類似は見られる。“自分は記憶力にとぼしく、内容を全く思い出せない短編もある”との作者の言、意外と本音? 表題作と「ユダの海」にちょっとしたリンクがあり、これは更に膨らませて連作長編にする構想だったのかも(山田正紀にはその手の中断したシリーズが沢山ある)。「プランクトン・カンサー」のオチは疑問。そんなことしたら浮力低下で浮上出来なくなっちゃうのでは。 |
No.39 | 7点 | 見えない風景- 山田正紀 | 2021/10/02 10:54 |
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1994年。作者の単行本未収録短編の多さに驚いた編集者が“山田正紀コレクション”と銘打って全3巻の短編集を企画。本書はそのミステリ編。
“えてして現実とはそんなものなのでしょう”と作中でも語られるように、この人のミステリ短編は“ダミーの真相 → 本当の真相”と明らかになるにつれてスケール・ダウンする一抹の脱力感(バカミスとはまたニュアンスが違う)が持ち味かなぁと私などは思う。 それが常に良い方向に働くとは限らないけれど、表題作の巧みながっかり感には拍手。「スーパーは嫌い」の真相は、不自然だが面白いアイデアではある。もう少ししっかり詰めていれば! |
No.38 | 5点 | 少女と武者人形- 山田正紀 | 2021/09/26 14:10 |
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“奇妙な味”と呼ぶのも躊躇する、曖昧な輪郭の短編集。と感じるのは“山田正紀作品”だとの先入観も大きいのだろうか。
しかし、鮮やかな色彩を放つSF作品群とは対照的で物足りなさもあるが、これはこれで作者の持ち味(悪癖?)の一つと認めざるを得ない。ミステリ系作品でしばしば見られる、きちんとまとまり切らない、雰囲気に流されるような結末はこれと同根だと思うのだ。 『夢の中へ』は、『少女と武者人形』全編に単行本初収録作品を追加してほぼ倍に増量したもの。嬉しいボーナス・トラックである反面、追加分だけで独自に刊行するには弱いと言う冷静なビジネス的判断でもあるんだろうなぁと切ない。 |
No.37 | 7点 | フェイス・ゼロ- 山田正紀 | 2021/09/21 11:51 |
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初読時は地味に感じられたが、読み返すと味わい深くなって来た。一読して過剰な期待感が落ち着いたので、作品本来の良さを素直に享受出来るようになったのか。これって褒めていることになるのか?
表題作はSFミステリ。「火星のコッペリア」もそれに含めていいだろう(融合度はこちらが上)。一番素直にグッと来たのは「冒険狂時代」で、これだけ矢鱈古く1978年の作品。このことを以てして“山田正紀は初期のほうが面白い”などと決め付けたくはないが……。 |
No.36 | 7点 | ヨハネの剣- 山田正紀 | 2021/07/27 12:33 |
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全体的にあっけない結末で、まぁそこが短編である意義でもあるのだろう。ユーモラスなアイデアが光る「アナクロニズム」、曖昧なアイデアを雰囲気で描き出した「優しい町」が良い。表題作のテーマは短編で使い尽くすのはちょっと勿体無いか。登場人物が過激派と言う設定は展開上結構有効? |
No.35 | 5点 | アフロディーテ- 山田正紀 | 2021/07/01 14:26 |
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あらら、いつの間にか現実が作中の年を追い越していた。
架空の都市が舞台と言う点でSF。でも実は海上都市アフロディーテ(いまひとつイメージが摑めなかった)と移住者である主人公の位置付けは、同じ作者の魔境冒険ものを未来の場に平行移動しただけでは。 アクション度はさほど高くなく、前半は青春小説。後半は“取り返しの付かないものへの諦念”を描いたソフトなハードボイルド? 地味な話だとの前提で読んだ方が楽しめるので、版元は誇大広告を控えるべきだ。今でこそ“キッドの正体”は判り易いけど、発表当時このアイデアはどんな感じだったんだろう。 |
No.34 | 7点 | 白の協奏曲- 山田正紀 | 2021/05/25 12:40 |
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こういう“撤去作戦”が実施されたら、私はどうするだろう。火事場泥棒のほうが怖いな~。テレビやラジオを聴取する義務は無いのだから、そんな指示は知らないぞと言い張れる。居留守を使って数日部屋に籠もるか。
物凄い大金とか財物とか、人間一人の身の丈とあまりにスケール感の違う欲望を見ると、その対比に哀しみを感じてしまうことがある。結末の“散骨”の場面もそんな感じだった。 第一楽章で説明される“囚人ゲーム”はちょっと説明不足。 楽団員は全員男性なので表紙のオブジェにはミスがある。 |
No.33 | 7点 | ツングース特命隊- 山田正紀 | 2021/04/27 10:48 |
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はみ出し者の愉快で不機嫌なチームの珍道中、と御馴染みの設定ながら、エンタテインメントのツボを押さえた書きっぷり。主人公のカラーが薄い気はするが、死に行くキャラクターをドライに描いて切なく読ませる技に酔いしれた。異国や魔境の旅情も満載。ところがこれでも山田正紀作品群の中では地味な方なのである。 |
No.32 | 9点 | 竜の眠る浜辺- 山田正紀 | 2021/04/10 12:48 |
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ほのぼの系山田正紀の最高峰。最高峰も何も、こういう味わいの山田作品はほぼこれだけか。しかし作品リストにこの一冊があるだけで或る種のバランスが生まれている。異色作なのに代表作。
エピローグに至っても事態は全く解決していない。にもかかわらず妙な安堵感に満たされるのは、登場人物を落ち着くべきところに落ち着かせる手際の良さ故か。 但し、今回読み返して、“男女の役割分担”が作品全体を覆っている、とは感じた。勿論そういう時代の作品だからなのだが、普遍的なテーマの中でそれが目立つような。ああいう“ワイルド・ライフ”に於いては役割分担制に回帰してしまうものだろうか。 |
No.31 | 8点 | 謀殺のチェス・ゲーム- 山田正紀 | 2021/04/01 10:46 |
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若人2人の逃避行が、物語中盤の“ゲーム”とあまり有機的に結び付いていない。
勝敗の基準が今一つ解りづらい。 両陣営とも似たようなキャラクターが多く紛らわしい。 題名に“謀殺”は変じゃない? しかしグッジョブ。息を詰めて一気に読みました。 |
No.30 | 7点 | チョウたちの時間- 山田正紀 | 2021/03/25 12:52 |
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最初期の“説明出来ないことは説明出来ない”から、“説明出来ないことが説明出来ない理由を説明することで説明出来ないこと自体を浮かび上がらせる”手法へと進歩したような。背後に垣間見えた概念があまりに大きく、いつまでたっても読み終えた気がしない。 |
No.29 | 6点 | 地球・精神分析記録 ――エルド・アナリュシス――- 山田正紀 | 2021/02/16 11:50 |
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最初期のプリミティヴな勢い溢れる幾つかの長編を経て、ゲーム性と虚構性による或る種の冷徹な面白さへと階梯を昇り始めた作品、なんだけどまだ過渡的な印象。後年、過剰になって紙幅を肥大させる神学・民俗学や精神医学からの引用だが、この時期はまだ抑制されていて、今読むと物足りないくらいだ。4章の“犯罪が企業化した社会”の設定は、連作長編の1エピソードで終わらせるには勿体無い。 |
No.28 | 8点 | ふしぎの国の犯罪者たち- 山田正紀 | 2021/02/03 12:02 |
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冷水を浴びせるようなラストは、決して嫌いなタイプではないのに、本作に限ってはあまりにショッキングで悲痛。それだけ登場人物達に愛着を感じていたのはニックネームの効用か? どの作戦も綱渡りの連続なのに、夢の中でステップを踏むような遊戯性をうっすらと滲ませた筆致でなんとなく納得させられてしまう。特に、あさっての方から急襲するような3話目のアイデアに感服。 |
No.27 | 6点 | デス・レター- 山田正紀 | 2020/10/05 12:04 |
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実は本作、基本設定が '80年代の旧作の使い回しである。と言うことが最終話で明らかになり、更にもう一捻りある。そのラストの一塊が山田正紀ブシで美味しいところ。そこに至るまでのエピソードは地味で薄味のミステリ風。地味なりに面白いものもあればそうでもないものも。ここはやはり結末の純SF展開にもっと紙幅を割いて欲しかった。
タイトルはサン・ハウスのブルースより。表紙イラストが素敵。 |
No.26 | 7点 | 襲撃のメロディ- 山田正紀 | 2020/07/26 14:54 |
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'70年代のうらぶれた世相のようなムードにそのまま巨大電子頭脳など幾つかのテクノロジーをぶち込んだ、今読むと少々奇妙な'90年代ディストピアを舞台にした反体制アクション。勢いと冷たさを併せ持つ筆致に胸が躍る。作戦内容に理屈として判らない部分(何故そういう行為によって列車がそういう対応を示すのか、とか)があるけど、それは私の理解力の問題。 |
No.25 | 7点 | 50億ドルの遺産- 山田正紀 | 2020/06/18 12:26 |
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あれっ?――“この島に隠されている五十億ドルの兵器のことでも、あちこちで、いいふらすことにしますかね”
第三章で主人公がこんな風に駆け引きを試みるが、それはプロジェクトにとっても望ましいことである。どこまで事情を知っているか不明、と言う不安材料はあるが、内幕を打ち明ける程のことではない。相手が冷静なら、勝手にし給え、で放り出されるところ。 寄せ集め集団によるハンド・メイドの戦術は山田正紀の十八番。毎度気持が昂る。 |
No.24 | 6点 | 剥製の島- 山田正紀 | 2020/05/29 12:06 |
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一貫してうらぶれた雰囲気のキャラクターばかり登場するが、各編それなりに差別化されていて楽しめる短編集。出来不出来はあって、「湘南戦争」がダントツで面白い。喜劇にせずあくまでハードボイルド的に書き切って潔し。「剥製の島」ストーリーはなんてことないが、描かれた情景のインパクトで勝ち。暗号モノの「閃光」は駄作。「マリーセレスト・2」は設定を作り込み過ぎでは。 |
No.23 | 10点 | 宝石泥棒- 山田正紀 | 2020/05/28 11:07 |
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山田正紀作品は概ね目を通しているが、最高傑作と推したいのは本書。イマジネーション豊かな異界、運命に抗う旅、奇妙な仲間達、友情努力勝利敗北。贅沢に全部載せてしかも隅々までこぼすことなく味わえる。
『神々の埋葬』のように、まだ広げられる余地を残したままの完結でなく、『ミステリ・オペラ』など大長編の胃もたれ必至の物量戦でもなく。 やや長めの『宝石泥棒』は、物語が内包するスケール感と具体的なページ数がピッタリ一致して、食い足りなさも読み疲れも感じない。諸々のエピソードがバランスよく盛られ、いや違う、バランスの悪さも滑らかな模様に見える高い視点に読者を導き、不器用な作家であちこちぶつけながら領域を広げてきた山田正紀としては驚くほど綺麗な球体を描いているのである。瑕瑾……はあるのかもしれないが、あまりに鮮やかな作品世界の中に居ては気付く余地が無かった。 チャクラが小丑から料理で一本取る場面が大好き。 |
No.22 | 7点 | 崑崙遊撃隊- 山田正紀 | 2020/05/27 11:41 |
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ロスト・ワールドの冒険小説としては快作なのだが、結末で述べられる、崑崙に関するSF要素はどうなんだろう。作者は根っこがSF者だからそうなってしまうんだよ、と考えるのはSFファンとして嬉しい。しかしこれは時代背景と登場人物の思想・言動が密接に絡み合った物語である。現代的視点のSF的解釈を付け加えたのは、浪漫を損なう蛇足であるようにも思える。痛し痒し。 |
No.21 | 7点 | 僧正の積木唄- 山田正紀 | 2020/04/07 10:09 |
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刊行直後に読んだ時はあまり楽しめなかった。原因は明白なので此度再読するにあたっては万全の準備を心掛けた。ヴァン・ダイン『ベンスン殺人事件』から『僧正殺人事件』まで順に読み、平行して横溝正史も何冊かチェックして金田一耕助のキャラクターを再確認しておく。満を持しての本書である。
トリビュートとは言え徒におもねった物ではない。例えば文体は概ねいつもの山田正紀そのまま。原典の文章が持つ旧時代ゆえの靄に鉋をかけて1930年代のニューヨークをくっきりと甦らせている。ファイロ・ヴァンス等の扱い方も、愛情ゆえに厳しくならざるを得ないと言った感じだ(一方で金田一耕助については愛情だだ漏れ)。 続けて読むと、『僧正殺人事件』の動機の背後に暗示される広がりは、まさに山田正紀の守備範囲。ヴァン・ダインを補完しているように見せて、それに留まらず自分の場に持って行くあたり強かだ(その割に、明かされる真相はしょぼくて残念)。 ネタバレ防止で幾らか曖昧な表現のところはあるが、さほど気にならなかった。但しこちらを先に読むと『僧正殺人事件』の犯人も見当が付いてしまうと思う。従ってやはりあちらを読んだ上で臨むほうが良い。問題は、『僧正殺人事件』が“ミステリ読みの基礎教養”の座をもはやキープ出来ないだろう、と言うこと。 |