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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1853件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.80 7点 五つの標的- 山田正紀 2023/12/21 13:04
 私は「真夜中のビリヤード」が、山田正紀の短編の中で五指に入るくらいには好き。氷川さんの出番が少ない気もするが、ポイントを絞るならこんなものか。敗者の悪足掻き、ラストのアイデアが良い。
 一つだけややテイストが違う「ひびわれた海」は、長編パニック小説からの抜粋みたい。同じような方向性でもっとちゃんとした作品が幾つもある、と言う意味で物足りない。
 いや、でもそれを言ったら、この作品集に山田作品としての新しさは、まぁ無いかな。小市民が(よせばいいのに)からっぽの拳を振りかざす様に、私は少し笑ってまた途方に暮れるのだった。

No.79 6点 蜃気楼・13の殺人- 山田正紀 2023/12/14 13:30
 全体を包む大きなトリック。それを成立させる背景の設定等には、関係者が色々と無茶をする理由がきちんと感じられた。
 しかし物理的トリックは……ランナー消失はともかく、串刺し死体や空飛ぶトラクターをあんな説明で片付けるなら、寧ろ無くても良かったのでは。

No.78 7点 天動説- 山田正紀 2023/12/07 13:56
 角川ノベルズ版は全2巻。戎光祥出版から合本で復刊。
 初出が雑誌連載なおかげか一話ごとにしっかり山場が盛り込まれ、安心して読めるエンタテインメント作。最終話のちょっとした飛躍も効いている。
 “鉄太郎” が次男であることが最後まで気になったが、結局何の伏線でもなかった。“心の臓だ!” って言い方がツボ。

No.77 7点 ジャグラー- 山田正紀 2023/11/30 12:53
 『ジュークボックス』の、続編、とはちょっと違うな、緩やかな姉妹編? どちらもJで始まる七文字。
 初期作品の “神” の代わりに、ここでは “言語” そして “コンピュータ” が触媒だ。
 “現実” も脳と言うセンサーのフレームに限定されたヴァーチュアル、との認識に則るなら、1~2章では日本中を巻き込んでいるかのような闘争が、3章では噂話レヴェルの遠景に後退する格差こそ本作のキモのように思う。重層構造のミステリに通じるところもある。
 ただ、個人的にはアメ・コミ(映画も含む)に馴染みが無いので、“余所のネタ” で終わってしまった。アトムやドラえもんで書いてあればなぁ……。

No.76 7点 弔鐘の荒野- 山田正紀 2023/11/24 14:16
 手堅い下請け企業謀略もの、かと思ったら後半で大いなる飛躍、しかし無体なツギハギではなくシームレスにつながって、一つの物語として自然に成立しているあたりは流石。死者はどうあるべきか、AIが問題になる現在、改めて読むと発表時よりリアルに考えさせられた。“橋を渡る/渡れない” の例えが切ない。あの政治家の “想像力の無さ” も凄いな。

No.75 6点 美しい蠍たち- 山田正紀 2023/11/18 12:30
  “思い切り人工的なミステリーをめざした” とは作者の弁。でも骨組みを剥き出し過ぎだと思う。色々な説明が台詞だけで済まされているけど、信頼出来る発言者などいないじゃないか。もうちょっと肉付けして欲しかった。それを排した点こそ “人工的” たる所以か?
 最初と最後でのヒロインの変化と、出番は少ないながらメイドの存在が効いている。戸籍上の続柄や相続に関する説明には疑問点アリ。

No.74 7点 血と夜の饗宴- 山田正紀 2023/11/04 13:50
 “電脳ゴシックホラー” だそうです。
 主人公ポジションの人がバタバタ逝く流れは “犠牲の上に成り立つ戦争” っぽくて、妙に強い一般人が登場するより説得力がある。個々のエピソード(と言うか “死に方”)は短くも鋭くまとまっていて飽きさせない。パターンの繰り返しがジワジワ来る。でも前哨戦で終わっちゃうのね。此処からが本当の戦いだ……!

No.73 5点 ジュークボックス- 山田正紀 2023/10/28 13:52
 ランガーそして意味不明な戦争。基本のアイデアは魅力的なのだが、五人の死について順番に描く構成がやや単調。ジャンクな雰囲気は当然意図的なものだろうが、エピソード自体に全力で楽しむのを引き戻すような変な抗力があって乗り切れず。生成AIを先取りしたような最終章の種明かしの先に、もう一波乱欲しかった。

No.72 7点 宇宙犬ビーグル号の冒険- 山田正紀 2023/10/06 13:08
 一捻りした設定のおかげで、古式ゆかしい侵略もの冒険SFを素直に楽しめる。しかし、動物に仮託することで殺し合いの残虐さが中和されると言うのは、考えようによっては危険な手法かもね。

No.71 6点 ゐのした時空大サーカス- 山田正紀 2023/09/30 12:51
 人間と時間の本来の関係とは。素描のような短いエピソードを並べて物語の輪郭を浮かび上がらせる手法で、動的な展開は乏しい。雰囲気ものに留まったとの感もあるが、詩情を生かすにはこのくらいが良いのかもしれない。これは時空を一編の詩に変えてしまおうと言う企みであって、アクション映画を目指しているわけじゃないからね。

No.70 5点 私を猫と呼ばないで- 山田正紀 2023/09/14 13:25
 ミステリは薫り付け程度。これは飛び道具無しで二十枚を如何に凌ぐかと言う挑戦なのだろうか。エンタテインしないことこそがエンタテインメントである、みたいな。私としては切り込む糸口が摑めない話が多く困惑したが、最も意味不明な「つけあわせ」が最も印象に残っているのはどうしたことか。
 ところで猫が登場すると無条件で好感度が上がるな~(と言うのは実物の猫のことであって表題作のことではない)。

No.69 6点 まだ、名もない悪夢。- 山田正紀 2023/09/07 13:12
 “TVの深夜ドラマのシノプシス” なる設定はどの程度意味があるのだろうか。敢えてその趣向に乗っかるなら、映像化に向いていそうなのはせいぜい半分程度。モノローグが多過ぎると思う。御色気サーヴィス回もアリ?
 その設定は単なる体裁だから! と言う作者の開き直りが、完全にSFの「冷凍睡眠の悪夢」や不条理なオチの「訪問販売」の収録を許したのではなかろうか。でも無理のあるものほど、映像を脳内でイメージするのが面白かったりもする。
 中途半端な設定は気にせず、単なる奇妙な味の作品集として読んでも良し。

No.68 8点 第四の敵- 山田正紀 2023/08/10 12:28
 目次を見るといきなり! カフカじゃないか。これは私の専門なので任せたまえ(嘘)。
 例えば巨大にして曖昧な “敵” の組織は「流刑地で」の奇妙な処刑装置を抽象化したものと読める。主人公がやらせのドキュメンタリーの主役を務めさせられそうになるのは「変身」の逆転であるし、何処まで行っても中枢に近付けない無力感は『城』そのものだ(嘘)。
 しかしこちらはエンタテインメントだから、カフカのように停滞はせず西へ東へテンポ良く駆け回る。敵も味方もキャラ立ち充分。ミス・チャンは出番さほど多くもないのにラストで随分良い役だね(確かに真意を測りかねる……)。

No.67 6点 ブラックスワン- 山田正紀 2023/08/03 13:03
 トリックはさして重要ではない。問題はキャラクター。

 “最後の手記” で語られる亜矢子:嫉妬して裏工作を企てる。プライドは高いが、自分に厳しくはない。見栄っ張り。

 勿論これは彼女の裏の部分であるから物語前半で伏せられているのは当然なのだが、では最後に開示されて納得出来たかと言うと難しい。亜矢子ってこんなキャラクター? その状況でそんな行動するかなぁ?
 特に中学生時代とのギャップがあまりに激しい。“いたずら” のトリックだけでは説明し切れない。
 亜矢子が行方不明になった経緯に直接関わる事柄である。現実にはそういう個人の多面性とか普通だろうけど、フィクションとしては説得力のある伏線がもっと欲しいと私は思った。

No.66 8点 超・博物誌- 山田正紀 2023/07/20 12:43
 山田正紀には珍しい宇宙SF。ハードSFと言う程ではないが、もっともらしい科学的解説を含みつつ、牧歌的とも言える筆致で架空の生態系を生き生きと描き出す、文系と理系の美しき融合(笑)。中でも焼死必至の皮肉なジャンプを繰り返す “RUN” があまりにも哀しく可笑しい。

 曲解&拡大解釈をすると、本作は最初期の〈神シリーズ〉の到達目標地点に反対方向からアプローチしたもの、のように思える。
 説明出来ないものを説明する為には、世界の領域を広げればいいじゃないか。但し正規の手続きを取るのは大変なので、ほわほわ~としたファジィなもので境界線を曖昧にしよう、と言うわけだ。勿論その核にあるヴィジョンがクオリティを伴っているからこそ可能な業である。

No.65 8点 顔のない神々- 山田正紀 2023/07/14 13:15
 “SF幻代史” と謳っていて、確かに架空の歴史なんだけれど、特殊能力者が多少登場する他は明確に “これはSFだ!” と言うガジェットは見当たらない。以前読んだ時はそれが物足りなかったのだが、読み返してみるとポイントはそこじゃないんだな。
 これは時代のうねりを骨太に描いた物語、1970年代の “闘争の季節” の総括である。それを新興宗教の側から見ることで絶妙な胡散臭さが加味されて、単純な敵味方の二元論を中和している。子供達を巻き込むのは辛いよなぁ。尻切れ蜻蛉な終わり方だって、良くも悪くも革命が起きない日本への評価と考えるなら相応しいのかも。

 千二百枚を費やしただけあって皆キャラクターが立っていて群像劇としての読み応えも充分。
 埴生建二が(特に前半)倉知淳の猫丸先輩を彷彿させて可笑しかった。後半は随分グレちゃって……。

No.64 8点 謀殺の翼747- 山田正紀 2023/06/30 14:58
 一体何が起きているのか、読者に目隠ししたまま引っ張る手腕。回想場面を挿入するバランスの良さ。エピソードでキャラクターを描く上手さ。
 出来が良いだけでなく吸引力が強い物語で、気持はゲリラ達に同調して人生の捨て方に共感してしまう。真相には仰天しつつ感嘆。

 アラを探すなら、或る意味で事態を混乱させた原因なのに玲子の存在感が薄いこと。あと第三章の終わり、将校が計画に噛むにしても、脅迫のネタがしょぼい。

No.63 6点 金魚の眼が光る- 山田正紀 2023/06/22 12:17
 どうも整合性に欠ける気がするなぁ。
 犯人に対して、必死で時代に抗うが故の犯罪、みたいな或る種の情状酌量が感じられる書き方だけれど、東京で脅迫の共犯者を殺したのも同じ人だよね。こっちの件はあくまで保身だし冷酷でひどいと思う。
 出版社に対して脅迫状を送ったらそこに親戚筋が勤めていた、と言う偶然もどうなの。

 一方、柳河での一連の事件。戦争の足音を背景としつつも、靄のかかったような幻想味に彩られ、それこそ北原白秋と言うフィルター越しに見た世界のよう。リアリティにこだわらずまぁいいかと受け入れたい気分なのである。東京編は無かったことにしよう。

No.62 6点 SAKURA 六方面喪失課- 山田正紀 2023/06/03 12:53
 読んだ印象は “B級” で、まさに作者の狙い通りだ。最後の大ネタは噴飯もの(良い意味)だが、盆暗刑事達の逆転劇はやや唐突で、個々のキャラクターが十二分に生きているとは言いがたい。一話ごとの小ネタを無理の無い範囲で小ネタとして上手く使っているとは思う。
 でも、後藤とか佐藤とかは駄目だろう、イントネーションが全然違う。第五話とその延長は、血の滲むような愛憎がショッキング。

No.61 5点 赤い矢の女- 山田正紀 2023/05/26 13:10
 山田正紀作品にトラウマを背負った主人公が登場する度 “またか” と苦笑したものだが、それは必然的なキャラクター設定なんだな~と反語的に良く判った。
 これと言った傷跡の無い本作のヒロインが、一体どのような動機付けで事件の渦中に踏み込んで行くのか、さっぱりピンと来ない。そこまで彼氏のことを深く愛していた感じではないし、ソ連に対する因縁があるわけでもない。単なる意地と勢いに流されて何度も殺されかけているのであって、しかしそんな意地を張るような性格にも見えない。こういう不自然さがここまで不気味だとは。

 彼女以外の登場人物はそこそこ生きているし、80年代のソ連紀行文としての面白さは感じた。

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虫暮部さん
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