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虫暮部さん
平均点: 6.21点 書評数: 2294件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.13 7点 猫舌男爵- 皆川博子 2023/12/21 13:03
 このタイトルは都筑、しかしまるで清水、いや多くは言うまい。思わず作者名を見直したこの表題作、「睡蓮」のパロディにも思える。この2編をわざわざ1冊にまとめるとは……。本文を読まずに描いただろと思える表紙が、しかしそれ故に最も的確と言うこの捻れ。好きだなぁ。
 因みに “針ヶ尾奈美子” は旧作に登場した名前で、伏線と言う程ではないがファン・サーヴィス?

 他3編。読み易くはないが読む気にさせる言葉が、美醜の垣根を飛び越える。

No.12 8点 花闇- 皆川博子 2023/12/14 13:32
 三代目澤村田之助――幕末に、絶大な人気を博しつつも、四肢を失い、しかしなお舞台に立ち続けた女形が実在した。と言う軽い知識はあったけれども、同時に思っていた。そんなことが可能だったの?
 差別的ではあっても綺麗事抜きで妥当な疑問だろう。本書はそれに、そこそこ答えてくれた、かな。

 高慢ながら芸には真摯。そんなキャラクターをこれでもかとばかりに示し、読者の心に浸透した頃合を見計らっておもむろに手足を奪う。史実だから仕方ないけど作者は鬼か。
 田之助が中心であることは間違いないが、時代に押し流される歌舞伎界の群像劇でもある。中でも大道具師の忠吉の才気は忘れ難い。長谷川! と声が掛かって嬉しいね(私は武将より参謀に惹かれる傾向があるのだが、これも?)。
 しかし役者は改名・襲名が多くてややこしい。叙述トリックに使える。

 知識が乏しいのでどこまでが史実か判らないのだが、期待したより飛躍が少なく、リアリティに対し忠実に書かれている印象。截断後の舞台の様子も意外なほど冷静に描写されている。
 それがこの人の作風だし時代小説のマナーだ、とは知りつつ、そこにもう一歩の何かがあれば、と惜しむ気持も少しある。

No.11 6点 相馬野馬追い殺人事件- 皆川博子 2023/11/24 14:14
 フーダニットはなかなか意外なところを突いている。事件を二つ重ねた煙幕に引っ掛かった。犯人は、一人殺したら歯止めが利かなくなって行動のハードルが下がってしまった感じ。犯人じゃなくても板挟みで素直に供述出来ないとか、皆がバラバラなことを考えて錯綜して行くとか、面白いドラマ。
 しかし、描き方がごちゃごちゃし過ぎ。しばしばページを遡らないと状況が判らなくなってストレスの多い読書になってしまった。

No.10 5点 知床岬殺人事件- 皆川博子 2023/11/04 13:53
 前半と後半が別のプロットみたい。二重人格と事件の絡みが希薄。当人が何も言わないのに、人格の状態や程度を他者が推察出来ると言うのは納得しづらい。
 とは言え、筆力があるので読まされてしまう。犯人のキャラクターをもっと深く掘り下げると魅力的だったのではないか。
 映画監督の鬱屈する様は、作者も “書きたいものと売れるものとの乖離” で苦闘したようだから、それが反映された憂さ晴らしなのだろうか。

No.9 7点 聖女の島- 皆川博子 2023/09/22 12:57
 倉橋由美子『スミヤキストQの冒険』みたい。後年の作品を引き合いに出すなら麻耶雄嵩『夏と冬の奏鳴曲』?
 凡庸な大人達が残酷なまでに書き込まれている一方、少女側のキャラクターに際立った書き分けが無くて物足りない気はする。しかしこれが “聖女” 側の物語だとすると、暴動しようが心中しようが少女達は所詮一山幾らのモブなのだろうか。漂白したかのような雑味の少なさが、この作者の場合はプラスに働くね。

No.8 6点 花の旅 夜の旅- 皆川博子 2023/08/17 12:17
 まるで新本格と言う感じの凝った構造。各短編は深みがありつつ結末を書き過ぎない美意識が好ましい。メタ部分は、前半で期待した程に盛り上がる真相ではなかったので、やや失速との印象が残ってしまい惜しかった。

No.7 6点 ライダーは闇に消えた- 皆川博子 2023/01/06 11:19
 半端に退廃的な青春群像劇、かと思いきや存外にきちんとしたミステリに着地して好印象。中盤のバイク話に引き込まれて、気付いていた筈の伏線をいつの間にか忘れていた私。
 “作者が死んだら賞金が宙に浮く” と言う部分がピンと来ないが、そういうもんなの?

No.6 7点 冬の雅歌- 皆川博子 2022/12/15 15:33
 本作中の某の過去を深掘りしたような長編が後に書かれており、各々単独で読めば傑作なのだが、2冊並べると “中途半端にリメイクしたんだな” と言う印象に変わってしまう。作者はこっちで自分役を死なせていることになる。
 精神病院、アングラ劇団、学生運動、新興宗教(的な精神修養)。私好みの要素がバラバラのピースのようにちりばめられ……バラバラなまま幕切れ。このエンディングは、しかし割とストンと腑に落ちたな。 

No.5 6点 妖かし蔵殺人事件- 皆川博子 2022/12/01 12:22
 手持ちのネタで手堅く書いた感じ。不可解な現象に比べてトリックはしょぼいが、それはそれで歌舞伎をリアルな商売として描いた作品世界と合致しているかも。
 興行の本番中はみんな視野狭窄に陥りがちだから、そこを狙うのは賢い。しかし公演を中断させることも辞さない、同業界人のくせに血も涙も無い計画だな……。入れ換わりが上手くいく保証は無いので、そこは賭けだね。
 特に後半、人間関係が込み入って来るので、もっと意識しながら読むべきだった。犯人のキャラクターが今一つ摑めず、真相を知っても “ふーん” と思うしかなく残念。

No.4 8点 巫女の棲む家- 皆川博子 2022/11/24 12:27
 “霊媒” の一語で始まるが、その交霊術はホンモノではない。しかしそれが人の心の中で蠢き、悪意ではなく心霊現象的事象が生まれ、ホンモノの定義が揺らぎ、信仰が成立するさまが、非常な説得力で描かれている。複数の語り手の思想の違いが、そして彼等がその道に踏み出す気持が、伝わって来た。心の弱い人がそうなるんだろうなんて安易な理解は斬って捨てられるのだ。
 四割くらい作者の経験談だそうで納得。この面白さは危険だなぁ。私は、カルトに嵌まる下地を本書で調えられてしまったかも……?

 ところが結末で急転直下、乱暴な着地を遂げてしまう。この雰囲気には覚えがあるぞ。風呂敷を広げ過ぎた連載漫画が、期待したほど人気が出ず、あと3回で完結させて下さい、ってことで急いでまとめにかかるあの感じ。ページ数の制限があったのだろうか。作者の望んだエンディングとは思えない。

No.3 7点 霧の悲劇- 皆川博子 2021/12/19 10:41
 被害者の過去をほじくり返しているだけでは……? と思っていたら、戦時中の蛮行とかにつながって、島田荘司の社会派作品みたいな流れに。書き方は上手い。
 “プラカード作戦” はなかなか思い切った展開だと苦笑。宗教ネタはサラッと過ぎちゃって残念。古葉が積極的に関わる動機付けが今一つ不明瞭で、課長ではないが “何故そこまで” と言う疑問は残った。

No.2 5点 虹の悲劇- 皆川博子 2021/12/19 10:34
 二つの話がラストで一つに、と言うのはよくあるパターンだが、本作はかなり強引。それぞれの事件や心理描写は悪くないのに、それを嚙み合わせちゃったせいで首を捻らざるを得ない読後感に。
 なにしろ事件同士はまぁ無関係。その割にバッタバッタと人が死ぬ。“蔓でつながれた小芋” との感慨はなかなかインパクトがあった。
 アイ子の遺体発見時、施錠された玄関の蝶番を外からはずしてドアを開けた、ってそんなドアが普通にあったの?

No.1 6点 トマト・ゲーム- 皆川博子 2021/11/30 12:42
 最初期の作品集、にしては随分手馴れた書きっぷりではないか(この時点で四十代だが、私は年齢はあまり関係ないと思うので)。
 時代風俗のせいもあり(頭脳警察がゲスト出演!)、あくまで“一世代前の物語”を遠くから眺める感覚だけれど、「アルカディアの夏」にはクラクラした。部屋の臭いまで感じられそう。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.21点   採点数: 2294件
採点の多い作家(TOP10)
山田正紀(115)
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