皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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虫暮部さん |
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平均点: 6.22点 | 書評数: 1948件 |
No.1648 | 3点 | 影の告発- 土屋隆夫 | 2024/02/22 13:37 |
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各章冒頭の断片的な情景、子供を使ったトリック、公園にブツを予め仕込む、など『危険な童話』を想起させるネタが幾つか。使い回しが全て不可だとは言わないが、重複させ過ぎ。
ミステリ的に面白いトピックを導入する為に登場人物に強引な行動をさせている、と言う感が強く、全体的に不恰好な話だと思う。 犯人は何故エレベーターの中でああいう殺し方をしたのか?(明確に書かれてはいないが、少なくとも理由の一つは)アリバイ・トリックを仕掛けるので犯行時刻を明確にする必要があったから。 何故アリバイ・トリックを仕掛けたのか? 警察に過去の経緯を掘り出されると、自分が疑われる可能性があるから、それに備えた。 しかしその殺し方のせいで名刺を落とし、早々に警察から目を付けられた。 つまり結果論として、余計なトリックは使わない方が良かったと言える。 作者は、アリバイ・トリックは “万一に備えた” ものだと犯人に思考させたりしているが、そのへんの状況の滑稽さを前面に出す気は無いようで、これは後付けの言い訳のように思える。 写真の件は、作者も実験の上で採用したそうだし、トリック自体はまぁ可能なんじゃないか。 寧ろ難点は、一発勝負であること(しかも事前に出来栄えをチェック出来なかった)。そして、自分で撮ったものと “通りがかりの人に頼んで撮ってもらった” もののピントの甘さが共通であること? 第二の殺人で、被害者は “両者(犯人と少女)の結びつきを知っている、もう一人の人物” だったから殺された、と千草検事は考えたがこれは間違いである。既に結びつきが警察に知られた、と言うことを犯人も知っている、のだから今更殺しても意味が無い。 実際の動機は取って付けたような後出しの情報だ。これも作者、殺しちゃった後で “意味が無い” ことに気付いて慌てて捻り出したんじゃないだろうか。 ところでこの当時、電話は何処から何処に掛けたか記録が残らなかった? |
No.1647 | 7点 | アクアポリスQ- 津原泰水 | 2024/02/17 11:23 |
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海上警察? と思ったらスペルは Aquapolis 。
言葉に淫する部分は抑え気味で、明快なベクトルや敵味方の認定など、エンタテインメント寄りで良い意味で判り易い。やれば出来るじゃないか。少女小説と言う出自は伊達じゃなかった。但し、この作者にしては薄味ではある。喫茶店のネタ元はさだまさし。 |
No.1646 | 7点 | 黒翼鳥- 月原渉 | 2024/02/17 11:21 |
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密室成立の理由には唸らされた。犯人の告白によって初めて明らかになる裏事情が多過ぎる気はする。
容疑者のヴァリエーションが少ないので、フーダニットでは驚けない。しかし軍隊はそもそも個人の差異を削る組織だから、良く似た制服が居並ぶそういう書き方は良く出来た批評かも。 |
No.1645 | 6点 | 呪殺島の殺人- 萩原麻里 | 2024/02/17 11:21 |
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色々勘繰って下さいと言わんばかりの設定。
私は、性別誤認トリックでは、と疑った。だって意識を回復した場面でこうだよ。 “部屋の中には僕だけじゃない。もう一人、女性がいたのだ” “僕” が女で、更に女性がもう一人、とも読めてしまう。古陶里の態度を見るに、読者だけに対する叙述トリックではなく、作中の同宿者に対しても実際に二人共謀して嘘を吐いているな、と。 また、監視カメラの映像の自分を見て、記憶喪失の語り手が “僕の顔” とスンナリ認識しているので、アレッ? と思った。 それ以前にシャワーを浴びたりしているから、自分の顔を知る機会はあったのだろうが、クッションとしてその場面を書いておいた方が良かったのでは。 それとも敢えて書かないことで、記憶喪失に対する疑惑を読者に抱かせようとしたのか。 |
No.1644 | 5点 | ダイニング・メッセージ- 愛川晶 | 2024/02/17 11:20 |
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登場人物の関係性が多分に戯画的で、しかもそれが結構大きなウェイトを占めているので、“こいつらマジか!?” と言う思いが否めない。すぐ容貌の話になるのは、まぁしかたないかな……。
加害者が自殺しそうだからと言って被害者がアレを許容しちゃうのは、展開上の要請とは言え納得したくない。 カニの話は好物なので楽しめた。 |
No.1643 | 7点 | そして誰も死ななかった- 白井智之 | 2024/02/17 11:20 |
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後半は笑いっぱなし。ここまで来るともうユーモア・ミステリと認定しても宜しい。多重に仕掛けられたロジックは見事なんだか何なんだか、真相解明がどうでもよくなって来る(“爆発” 説が一番好き)。ここまで盛り沢山だとインフレでどの要素も特異点たりえず流されてしまうと言う、それが落とし穴だったか。 |
No.1642 | 7点 | 厳冬之棺- 孫沁文 | 2024/02/09 13:22 |
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冒頭の推理小説家の件も含め、四つの密室のアイデアはどれも驚きで嬉しくなった。が、ツッコミどころもあるんだなぁ。うーむ。
(陸家)第一の密室:トリックに使った或る道具に、そこまでの強度は無いだろう。そしてそれ以上に、あの方法では水圧に逆らってドアを閉められないだろう。 第二の密室:現場見取図を見ると、そもそも棚のうち一つが家具の配置のせいで使えない。 しかし、私の部屋でも本棚の前には溢れた本が積んであって、いちいちどかさないと奥の本を取り出せない。こういう不便がうっかり生じるのはよくあることだ。 つまり、作中で予め指摘しておけば “よくあることだ” で済むのに、トリック解明時にいきなり注目するから “不自然な配置が推理に都合良く存在した” ような印象になってしまう。 |
No.1641 | 7点 | 君が手にするはずだった黄金について- 小川哲 | 2024/02/09 13:22 |
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評価や人気を手にした作家が、より本質的な表現に迫ろうとして、敢えてキャッチーさを排した書き方をしたパターン。そういうタイミングって編集者より相対的に立場が強くなって好きなように書けるけど、コケることも多いんだよな。
と読み始めは思っていたが、三章目から俄然面白くなった。話題のコアが明確に示されたのはやはり強い。 比べて冒頭二章は、形而上学的な思索でフワッとした雰囲気モノに終始し、それが言語を超えたような奇跡にはつながらなかったのである(出た、形而上学)。 |
No.1640 | 7点 | 少女を殺す100の方法- 白井智之 | 2024/02/09 13:21 |
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鮮やかな色彩感覚が読者の想像力を刺激し、繊細な言語感覚で人間的実在の真実を喝破する。好きな色は赤と黒。作者一流の美意識をこれでもかとばかりに詰め込んだ昇天必至の一冊。神代も聞かず竜田川。平山夢明や小林泰三のファンにもアピール出来そう。
「少女ミキサー」。犯人は何故、“単純に考えるとこうだね” ではない、面倒そうなやり方で切ったのか。“手掛かりを提供する為” としか思えない。 |
No.1639 | 6点 | 折鶴- 泡坂妻夫 | 2024/02/09 13:20 |
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いにしえの和の世界が、今の自分とも地続きの筈なのに異国の話のよう。単純に “時代の流れに乗り損ねた者の恨み節” とも言い切れない自己言及的な展開を孕み、重層的な興趣が柔らかな言の葉で編まれている。
ただ、ミステリ部分が “諸要素の一つ” として紛れがちでどっちつかず。だったら刑事事件になるような展開は省いて人情話に徹した方が良かったかも。 |
No.1638 | 5点 | ポアロとグリーンショアの阿房宮- アガサ・クリスティー | 2024/02/09 13:20 |
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(『死者のあやまち』は未読。)
基本的に手掛かりは事件直後に出揃っているよね。しかし二ヶ月何もせず、更なる死者がヒントになって真相に気付くポアロ。これは失敗談? オリヴァ夫人は何が気になってポアロを呼んだのか。グリーンショア周辺の人間関係から事件を読み取った夫人が、実は無自覚なまま名探偵だったと言う話? |
No.1637 | 7点 | 機工審査官テオ・アルベールと永久機関の夢- 小塚原旬 | 2024/02/02 14:39 |
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“永久機関” と言う題材は魅力的なセレクト。なんだけど同時に弱点にもなってしまった。機構のメカニズムそして矛盾点が文章だと甚だ判りづらい。
一応図版もあるが、“これはあくまで小説だから” って感じで遠慮がち。もっとしっかり、なんなら本文で説明しなくても図版だけで理解出来るくらい書き込んで欲しかった。こんな表紙イラストのくせに、今更気にすることないって。 現代人たる読者は “永久機関は不可能” との認識で読むから扱いが難しいよね。 |
No.1636 | 7点 | 月光蝶- 月原渉 | 2024/02/02 14:37 |
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(ロジカルな推理の結果ではないが)犯人が判り易くない?
一人だけ、存在感はあるのに物語に於ける配置がはっきりしない者がいて、“作者は何の為にこの人を登場させた?” と考えると犯人かな~、と。 まぁそんな邪道な読み方はともかく書き方は面白い。文体の使い分けで、見える景色を巧みに描き分けていると思う。 但し、“基地への出入り” の問題。確かに広義の “密室” ではある。しかしトリックがあの程度なら “密室” を連呼して期待を煽るのは止めた方が良かったのではないか。 |
No.1635 | 6点 | トゥルー・クライム・ストーリー- ジョセフ・ノックス | 2024/02/02 14:37 |
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芥川龍之介「藪の中」を700ページ弱に引き延ばしたもの。
それは言い過ぎか。でも、長い。関係者のインタヴューで構成されているので読み易く、情報の密度は低いが、それを踏まえてもここまでの紙幅を費やす必要は無いと思う。 物語として悪くはない。不動産王の火災事件が絡んで来たところは興奮した(アレが真相でも良かったんじゃない?)。 一方、メタフィクション的構造の意義が物凄く有るかと言うと頷けない。我が国の新本格勢の方が上手だ。 証拠物件の “雑誌などの出版物から切り取られた男の写真” について。裏面を調べれば出処を特定する手掛かりになり得るのに、その点の言及が無いのは作者の手落ち。 あと、この手の作品に日本版解説はいらない。 |
No.1634 | 5点 | 情景の殺人者- 森博嗣 | 2024/02/02 14:35 |
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指示役がいて実行犯がいてと言う真相やその関係性など、最後にサラッと明かされて終わり。これは複数視点を使うとかして犯人サイドからもっと描かないと面白くない。
物語の始まりとなる浮気調査は結局どういうことだったのか。“わざわざ証拠を摑まないといけないことかなぁ” はもっともな疑問で、それが解決していない。 印象的な情景が無かったわけではないが、私は寧ろ “それを美しいと感じる、とはどういうことか” と言う方向へ考えさせられた。 |
No.1633 | 4点 | ダミー・プロット- 山沢晴雄 | 2024/02/02 14:31 |
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何か不自然な話。
読了後の総括として見返すと、(恐喝者殺しは別として)死んだ男と消息不明の女は、表向き主犯と直接のつながりは無い。重要なのはAの死体をBだと偽装することで、それ以外は余計なトリックを弄さないのが一番、のパターンだ。アリバイ工作とか、怪しいだけじゃないか。 擁護するなら、予めキッチリ計画された犯罪ではなく泥縄的に展開した観はある。その点をもっと強調すれば説得力が得られたかも。 “何故、手首を小包で送ったのか?” にまつわる部分には感心した。“被害妄想による殺意” も気持は判る。でもなぁ……過大評価は避けたい。 |
No.1632 | 9点 | 奏で手のヌフレツン- 酉島伝法 | 2024/01/27 12:34 |
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私は漢字マニアなので、たまに漢和辞典を読み耽ってしまう。
常用でない漢字と言うのも当然ながら沢山あり、それら見慣れぬ文字(全くの未知ではなく個々のパーツには見覚えがあるところがミソ)を眺めるのは或る意味で至福の時。本書はそんな目眩く感覚で貫かれた作品。 視覚的説明を極力排して言葉のイメージで築かれた世界は、やがて必然的に言葉そのものの基盤を失ってしまう。例えば、彼等は人らしいし顔の横には耳が付いていて頭には髪が生えるらしい。しかし耳の形状は判らず髪は痛覚を持っている。そうなると顔とは? 頭とは? となって、信用出来る言葉がどれなのか混迷に向かう。それが読んでいるうちに、判らないなりにイメージが固まり、曖昧なまま確からしく思われて来る。イヤこれは頭が歪むぜ。 生態が曖昧な “人” でも日々の営みや親子の情は普遍なんだな~、と言った甘い感慨は、作者にとってきっと目的ではなく手段。ハードとソフトが逆転して、この異世界構築自体が主目的なんじゃないかと思う。 それでもやはり大団円はやって来る。(通常の)物語的なカタルシスに飲み込まれて、それはそれで暫し感泣。涙石が落ちる身体でなくて助かった。 |
No.1631 | 7点 | 歌われなかった海賊へ- 逢坂冬馬 | 2024/01/27 12:32 |
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こういうプロットはジレンマを孕んでいると思う。
“体制の奴等の言うことを鵜呑みにしてはいけない”、それはそのまま “反体制の彼等の言うことも鵜呑みにしてはいけない” と言うことである。ほんのちょっと視座を変えれば(変えずとも?)これはテロリストの物語。ナチ側にだって個人単位で見れば同じようなドラマがあってもおかしくはない。 つまり、“戦時下でもこんな風に抗った市民がいた!” と安易にヴェルナーに絆されるようなら、それはそれで危険だ。それが本作の教訓。 |
No.1630 | 7点 | 可燃物- 米澤穂信 | 2024/01/27 12:32 |
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飛び道具無しで地味。謎のポイントを親切に絞って判り易いが、その結果として小粒な印象。
葛の思考は地の文で記述されるが、口に出す言葉は少ない。テレパシーじゃ伝わらないんだからさ。意図の共有を図らないこういう指揮官は、たとえ有能でも結構危険なんじゃないだろうか。 そして巻末。法律的な手続きについて、弁護士が検め済み、とわざわざ断っているのだから、作者はそこに注目して欲しいのだ。 つまり、諸々のミステリで描かれる警察官の行動は法律上リアルではない、正しくはこう、と実作を以て指摘している。自粛警察に倣って言えば “警察警察” 小説? うわっ、嫌な奴。 |
No.1629 | 7点 | ブラウン神父の秘密- G・K・チェスタトン | 2024/01/27 12:30 |
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意外にも全編をミステリとしてそこそこ楽しく読めた。中でも「ヴォードリーの失踪」が見事。
ネタバレするけれど、「マーン城の喪主」は何か変だ。病死、と思ったら実は決闘、と思ったら実は謀殺。 でも、対外的に病死で押し通すなら、どんな殺し方でも構わない筈。なぜ芝居じみた “決闘” の形を取ったのか? 関係者の意図について記述が曖昧で断定はしづらいが、このトリック(=謀殺をフェアな決闘に見せかける)はさしあたり相手方の介添え人ただ一人を標的として行われている。それを世間に対するカムフラージュとして機能させるには、“実は決闘” と言う秘密がもっと人々の口の端に上る状況が必要。ところが “病死” で片付けたいなら、もはやそんなカムフラージュは、病死ではないと知る人間を増やすだけの邪魔者なのである。 結局、犯人はどういう決着を目指していたのか。“病死” にしたいなら決闘プレイは不要。“決闘だけどフェアなものだったからそんなひどい罪ではないんですよ” と言うことにしたいなら病死を装うのは不要。と言うことになる。読者の視点と作中人物のソレを混同した作者のミスだと思う。 「メルーの赤い月」。成程、この駄洒落の為にブラウンと命名したんだな。 もう一点。“棍棒のような握りのついた太く短い蝙蝠傘” とあるので、装画の傘は違うね(笑)。 |