皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
りゅうさん |
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平均点: 6.53点 | 書評数: 163件 |
No.4 | 6点 | 鴉- 麻耶雄嵩 | 2011/08/27 11:52 |
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読者が推理でもってこの真相にたどり着けるはずはなく、本格作品ではありませんが、アイデアとしては面白いと思います。情景描写などは文学的で、個々の文を見るとうまいと思うのですが、全体としては読みにくい、不思議な文章です。会話部分が多く、ストーリーは単調で、これだけのページ数になっているのが不思議でもあり、ミステリとしてみると冗長に感じます。謎に魅力がなく、読んでいる最中はミステリという感じがしませんでした。
最後に、珂允とメルカトルの二人の推理が示され、メルカトルの推理が真相なのですが、珂允の推理の方に論理性を感じました。村人にとっては見えない犯人、殺人を犯しても痣が浮かび上がることを恐れない人物、鬼子の意味、血で汚れた手の跡と手が拭き取られていた理由、遠臣が殺された時に式服を着ていた理由などの推理にはなるほどと思いました。最後のメルカトルの登場は演出効果抜群ですが、どうやってあの場に居合わせることが出来たのでしょうか。 (完全にネタバレをしています。要注意!) 叙述トリックには読後も全く気が付かず、ネタバレ解説サイトの説明を見てようやく理解しましたが、感心するほどの内容でもありませんでした。最後のメルカトルの推理が真相だとすると、庚を演じていたのは珂允ということになりますが、「庚=珂允」であることに村の人は誰も気が付かなかったのでしょうか。この作品の一番の問題点は、事件の記述者が精神に異常をきたしており、嘘の記述が随所にあることです。 |
No.3 | 6点 | メルカトルと美袋のための殺人- 麻耶雄嵩 | 2011/02/27 07:38 |
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人を人とも思わぬ、傲岸不遜な銘探偵メルカトル鮎と、メルカトルに翻弄される推理作家美袋の物語。メルカトルの推理は、薄弱な根拠に基づいて組み立てられた唐突なもので、説明を聞いてもなるほどと思うところはほとんどありません(笑)。この作品は、謎解きよりもメルカトルの非常識な言動を楽しむものなのでしょう。意外性は、真相よりもメルカトルの行為の方にあります。説明不足なところが多々ありますが、辻褄を合わせることなんて、作者はさらさら考えていないのでしょう。
「遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる」 メルカトルはどうやって竜神像の場所を知ったのでしょうか。 「化粧した男の冒険」 メルカトルはどうやって犯人のルージュを手に入れたのでしょうか。 「ノスタルジア」 メルカトルが推理小説を書き、美袋に謎解きを求めます。2つの密室で構成されており、犯人の捻りもある真っ当なミステリなのですが、美袋は作中で「ふざけた原稿」だと言っています。まさにそのとおりでしょう。 「彷徨える美袋」 メルカトルはどうして将来に起こることが神のようにわかるのでしょうか。 「シベリア急行西へ」 珍しく、クイーンばりのロジックを前面に出した作品です。被害者のある特徴を推理し、それから犯人を特定するロジックはなかなかのものです。メルカトルは犯行時刻を1時間の幅で特定していますが、どうしてそんなことが出来たのでしょうか。 |
No.2 | 3点 | 夏と冬の奏鳴曲- 麻耶雄嵩 | 2011/01/28 21:32 |
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(ネタバレをしています。注意!)
文庫本で700ページもの分量を読ませた挙句にこのラストとは・・・・・・。アンチミステリというよりはナットミステリ作品ではないでしょうか。明らかになる真相は、読者が推理によってたどり着けるようなフェアなものではありません。雪密室の真相にいたっては超自然現象でしたというお粗末さ。なぜ烏有の過去と同じものが映画化されていたのか、2人の桐璃のもう1人は誰だったのか、といった説明できない謎は放置したままで、読者の想像力に任せるという手法は最低だと思います。青春小説として見ればそれなりに面白いと思いますが、ミステリとしては全く評価に値しません。 (2011.1.30 追記 ネタバレをしていますので注意!) 作者が放置したままの謎について、ネット上で解析しているサイトをいくつか見ました。そこでの解析内容にも疑問があります。「映画のシナリオが烏有の体験を予言したのではなくて、烏有がシナリオにたまたま合致した体験者だったからこの事件に巻き込まれ、映画に合わせて出会いが演出された」との書き込みがありました。しかし、この映画の内容は、心情部分も含めて烏有の人生と寸分違わず一致しており、現実的にこんなことが起こりうるわけがありません。この作品は、「世にも奇妙な物語」と同じで、合理的に説明できない部分を含んでおり、ミステリとしては破綻していると思います(この作者なので、「ミステリとして破綻した作品」を意図して書いたのかもしれませんが)。 |
No.1 | 9点 | 翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件- 麻耶雄嵩 | 2010/12/04 21:42 |
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読後、すごい作品を読んだなと思いました。アンチミステリ作品がどういうものか知りませんでしたが、読んでみると、まさしくアンチミステリでした。ミステリ作品の要素として考えられるものをふんだんに盛り込みながら、通常のパターンをことごとく外しています。これをデビュー作でやったというのですから、驚きです。ミステリ初心者が最初に読む作品としては、絶対お薦めできません。クイーンの国名シリーズに関する知識を持っていた方が楽しめます。もっと言えば、黒死館殺人事件も読んでおいた方が楽しめるようですが(私は途中で挫折しており、おそらく普通の人は読了できない作品だと思います)。途中で木更津が披露する推理の突拍子のなさは空前絶後と言ってよく、これを読むだけでも価値があると思います。文章の方ですが、私は全く抵抗を感じなかったし、言葉の使い方等でもおかしいと思ったところはありませんでした(私の日本語のセンスに問題があるのかな)。本格ミステリとはいえず、この犯人を当てるのは無理だと思います。 |