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メルカトルさん
平均点: 6.02点 書評数: 1768件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.25 5点 憑物語- 西尾維新 2024/01/16 22:50
“頼むからひと思いに―人思いにやってくれ”少しずつ、だがしかし確実に「これまで目を瞑ってきたこと」を清算させられていく阿良々木暦。大学受験も差し迫った2月、ついに彼の身に起こった“見過ごすことのできない”変化とは…。「物語」は終わりへ向けて、憑かれたように走りはじめる―これぞ現代の怪異!怪異!怪異!青春に、別れの言葉はつきものだ。
『BOOK』データベースより。

はっきり言ってこれはロリ好きの為の小説と断言しても間違いではないと思います。まず最初の70ページが暦の妹、月火とのいちゃつきのみで進行し、妄想全開のラノベ風。まあ元々本シリーズはラノベ寄りだから許されますけど。あと、ストーリー性がほとんどありません。場面変換は三回くらいしかないので、凄く単調に感じます。流石に日常の何でもない事を面白おかしく書く西尾維新をもってしても、余りにも変節が無さ過ぎじゃないでしょうか。ラストのオチはちょっと良かったですけど。

まるで何かの付け足しの如き作品で、ついでに書いてみました感満載です。予定では本シリーズ最終盤の筈だったのに、その後も延々続いているのは、読者の要望なのか著者の気まぐれなのか分かりませんが、いずれにせよ書きたかったんでしょうね、続きを。確かに臥煙伊豆湖や忍野メメのその後なんかは気になるところですけどね。その辺りまだまだ語り尽していないところが多々ありそうですし。

No.24 7点 怪盗フラヌールの巡回- 西尾維新 2023/09/07 22:14
亡き父親の正体は大怪盗だった――!? 長男の「ぼく」は、傷ついた弟妹と愛する乳母のため二代目怪盗フラヌールを襲名。持ち主にお宝を戻す“返却活動”を開始する。次なる標的は、天才研究者が集う海底大学。忍びこめたかと思いきや、初代怪盗フラヌールを唯一捕らえたベテラン刑事と、新世代の名(ウルトラ)探偵が立ちはだかり、不可能犯罪まで発生! 二代目怪盗フラヌールは、数多の謎を解き明かし、任務を完遂できるのか!? 衝撃の怪盗ミステリー、ここに開幕!
Amazon内容紹介より。

久しぶりに西尾維新の本格ミステリを読みました。『クビキリサイクル』を読んだ時の衝撃を思い出しながら、一寸感傷的な気分になったりして。まず今さら怪盗と云うのはどうなのかと思われる向きもあるでしょうが、それには深い訳があります、色々と。それらを一々論うのはネタバレにもなり兼ねませんので避けます。
不満があるとすれば、やはり女名探偵の存在ですかね。思わせぶりな言動ばかりで何もしないじゃないかと。もみじまんじゅうばかり食べていて、これはネタなんですかね、ボケなんですかね。

作風としては、本格ミステリのど真ん中のストレートと思わせておいて、実はストンと落ちるフォークだったみたいな感じです。新味はないものの、様々なギミックを駆使して読者を欺こうという意気込みを感じます。結局そういうオチかとも思いましたが、途中ダレルことなく読ませ、読後感も悪くないのは作者の力量だと思いました。個性と個性のぶつかり合いも読みどころのひとつでしょう。

No.23 7点 恋物語- 西尾維新 2023/01/15 22:42
“片思いをずっと続けられたら―それは両想いよりも幸せだと思わない?”阿良々木暦を守るため、神様と命の取引をした少女・戦場ケ原ひたぎ。約束の“命日”が迫る冬休み彼女が選んだのは、真っ黒で、最悪の手段だった…。「物語」はその重圧に軋み、捩れ、悲鳴を上げる―。
『BOOK』データベースより。

これは詐欺師貝木泥舟が探偵の真似事を行う、シリーズとしては珍しい探偵譚となっています、否、ハードボイルドと言って良いでしょう。どんな経緯で仙石撫子が蛇神となって、暦とひたぎを殺そうと計画しているのかよく分かりませんが、戦場ヶ原ひたぎの依頼を受けて撫子を騙そうとするダークヒーローのひたむきさに心打たれました。悪のイメージしかない貝木泥舟が何故かその身を投げ打ってまで、ひたぎとの約束を守ろうとするのかも、貝木の一人称で描かれている為、その心情がよく理解できます。

謎も幾つか用意されており、その意味でもシリーズ屈指のミステリ寄りの作品でしょう。
ラストの貝木対撫子の勝負はなかなか迫力があり、クライマックスとしてはかなり盛り上がります。後味も良いです。しかし、この物語の主人公は本来なら忍野メメだったのではないかと思うにつけ、返す返すも彼の不在が残念でなりません。いつか復活する日が来るのでしょうか。

No.22 7点 鬼物語- 西尾維新 2021/07/27 23:10
誤解を解く努力をしないというのは、嘘をついているのと同じなんだよ”
阿良々木暦(あららぎこよみ)の影に棲む吸血鬼・忍野忍(おしのしのぶ)。彼女の記憶から呼び覚まされた、“怪異を超越する脅威”とは……!?
美しき鬼の一人語りは、時空を超えて今を呑みこむ――!!
<物語>シリーズ第12巻
Amazon内容紹介より。

久しぶりに物語シリーズらしい作品に出会えた気分です。今回は忍野忍が主役と思わせておいて実は・・・という寸法であります。八九寺真宵と共に突如「非怪異」とも言える『くらやみ』に襲われる阿良々木暦。訳の分からない相手だけにどう戦うかも闇の中で、新たな人物を登場させ、今後の展開の重要なターニングポイントになりそうな予感がします。
個人的にお気に入りだった忍野メメが退場し、ちょっぴり淋しい思いをしていただけに、増々本シリーズの先々が楽しみになりました。

派手なバトルこそありませんが、ミステリ的な手法を取り入れて伏線を回収させ、感情を揺さぶられるような解決法を選択しており、シリーズファンにとってはやや悲しいラストを迎えます。そして最終章ではメメの親類が登場、良い感じのシーンで締めくくりました。余韻に浸れました。

No.21 5点 囮物語- 西尾維新 2021/02/05 22:37
“―嘘つき。神様の癖に”かつて蛇に巻き憑かれた少女・千石撫子。阿良々木暦に想いを寄せつづける彼女の前に現れた真っ白な“使者”の正体とは…?“物語”は最終章へと、うねり、絡まり、進化する―。
『BOOK』データベースより。

ストーリーがあってないようなもので、ひたすら仙石撫子の内面を描き続ける、撫子ファンのための作品。
それまであまり目立たなかった仙石撫子、主役としてはやはり役者不足ではないかと思います。バトルもほとんどなく、主な登場人物も撫子の他には阿良々木月火、阿良々木暦だけです。もし何の予備知識もなく初めて本シリーズを読んだ人は、おそらく何じゃこれ?と思う事でしょう。順に追って読んでいる私でもかなり物足りなさを覚えたのは確かですので、最後まで退屈せずに読めたことを考慮しても、シリーズ中最も地味で大人しい作品ではないかと思いますね。

読み所としては、中学のクラスでも目立たなかったのに委員長を務めている撫子が、突如覚醒したかのように暴言を吐き心中を吐露する件でしょうか。あとは月火との遣り取りで、少女同士の馴れ合わない会話がなかなか面白かったですね。決して嫌いではありませんが、そもそも撫子に思い入れがないため十分に楽しめなかったのは事実です。

No.20 5点 花物語- 西尾維新 2020/09/30 22:26
“薬になれなきゃ毒になれ。でなきゃあんたはただの水だ”阿良々木暦の卒業後、高校三年生に進級した神原駿河。直江津高校にひとり残された彼女の耳に届いたのは、“願いを必ず叶えてくれる『悪魔様』”の噂だった…。“物語”は、少しずつ深みへと堕ちていく―。
『BOOK』データベースより。

阿良々木暦や戦場ヶ原が卒業した後、神原駿河が高校三年に進級した時の物語。やはり主役級の阿良々木、戦場ヶ原、羽川がいないと淋しいものがありますね。必然的に忍野忍も八九寺真宵らも出てきません。登場するのは、ここ大事なので、貝木泥舟と阿良々木火憐。新たなキャラが沼地蠟花、忍野扇。今一つ物足りませんね。
これは神原駿河の物語というより沼地蠟花の物語と言ってしまったほうがしっくりきます。よって、神原の最も重要な芯となる怪異に関しての記述が、あまりにも希薄過ぎると思います。確かに神原の内面は描かれていますが、あくまで彼女は狂言回し役として機能しているようなもの。そして、私がこれまで抱いてきた神原のイメージよりもかなり大人し目な人物のように感じられ、羽川の時のような魅力は認められませんでしたね。

ストーリーとしては相変わらず大した紆余曲折もなしに、単純明快である意味一本調子です。ただその描写力で圧倒しているだけで、内容としては面白いものではありません。忘れた頃に阿良々木暦が登場しますが、キーパーソンとしては描かれていません。まあ読者サービスのようなものかと。今回は神原の一人称が裏目に出た感じがしましたね。

No.19 5点 傾物語- 西尾維新 2020/03/31 22:35
“変わらないものなどないというのなら―運命にも変わってもらうとしよう”。迷子の小学生・八九寺真宵。阿良々木暦が彼女のために犯す、取り返しのつかない過ちとは―!?“物語”史上最強の二人組が“運命”という名の戦場に挑む。
『BOOK』データベースより。

これまでとは毛色が違う、SF志向の高い作品となっています。その分ファンタジー要素は希薄で、激しいバトルやキャラ萌えも期待できません。
私としては当然八九寺真宵を中心に据えた物語だと思っていたので、こんな筈ではなかったという裏切りにあったような気持が強いです。八九寺はほとんど出て来ず、専ら暦と忍の二人でストーリーは進みます。最初から作者はそのつもりで書いたらしいので、その意味では意図通りではあります。しかし、作風というか、視点の違いに違和感を覚える読者も少なくないと思いますね。

終盤まではやや冗長に近い感覚で、それを我慢してやっと最後の腑に落ちる真実に出会える感じです。ファンにとっては待ち遠しかった、「役者」の登場でそれまでのもやもやが吹っ飛んでしまうようなもので、詐欺に近いと言ったら言い過ぎかも知れませんが、まあそんな感じです。
何故この人が真相を言い当てるのか、かなり唐突ではありますが、確かにそれは納得の行くものであり、何とかスッキリした形で物語を終えられたのではないかと思います。

No.18 7点 猫物語(白)- 西尾維新 2020/02/13 22:45
“何でもは知らないけれど、阿良々木くんのことは知っていた。”完全無欠の委員長、羽川翼は二学期の初日、一頭の虎に睨まれた―。それは空しい独白で、届く宛のない告白…「物語」シリーズは今、予測不能の新章に突入する。
『BOOK』データベースより。

何よりこれまで阿良々木暦の一人称だったのが、委員長羽川翼の一人称になったのに新鮮さを感じます。更に正直あまり掴み所のなかった戦場ヶ原が人間臭くて、これまた個人的に嬉しい誤算ではありました。しかもいいままで出番のなかった阿良々木家の父母が出ているではありませんか。チョイ役ではありますが、阿良々木母の台詞には痺れました。
結局何がしたかったのかがはっきりしているのに好感が持てます。それは愛、家族間の愛、兄弟愛、男女の愛なんだと思います。今回虎の怪異が主となっており、猫対虎の図式が描かれますが、その裏には羽川の生々しい感情が隠されていて、それが前述の愛に繋がります。

阿良々木暦は取り込み中で、ほぼ出てきません。それと主要キャラの神原、真宵、仙石も。代わりにファイヤー・シスターズ、戦場ヶ原ひたぎ、忍がそれぞれいい味を出しています。いやしかし、<物語>シリーズ七冊読みましたが、初めて阿良々木暦がカッコ良いと思いましたね。安定して面白い本シリーズですが、本作が最も私の好みに合う作品のような気がしました。

No.17 6点 猫物語(黒)- 西尾維新 2019/11/01 22:19
完全無欠の委員長、羽川翼。阿良々木暦の命の恩人である彼女はゴールデンウィーク初日、一匹の猫に、魅せられた―。それは、誰かに禁じられた遊び…人が獣に至る物語。封印された“悪夢の九日間”は、今その姿をあらわにする!これぞ現代の怪異!怪異!怪異!知らぬまに、落ちているのが初恋だ。
『BOOK』データベースより。

西尾維新は何気ない日常のやり取りや会話を面白おかしく描くのが得意な作家の一人だと個人的に思っています。読み手側としては、それをどう読み解くか、或いは十分に楽しめるかが評価に繋がるのです。そのよい例が冒頭の暦と月火のじゃれ合いだと思います。この長々とした本筋に関係ない、ほのぼのとした兄妹の掛け合いを楽しめるかどうかで、結構評価が変わってくるかもしれません。

肝心の羽川に関する怪異のほうは、思いの外あっさりしていて薄味の感がします。猫に魅せられた委員長が吸血鬼に匹敵する程の力を手に入れ、それに暦がどう対抗するのかが読みどころではありますが、登場人物が限定されてしまうので、ストーリーに広がりが感じられません。スケールの大きさも本シリーズでは控えめですね。物語に複雑さを求める読者には不向きと言えるでしょう。で結局最終的に上手く納め過ぎて、なんだかなあと思ってしまいました。
一つ注意したいのが時系列の問題。これは致し方ないでしょうが、シリーズをある程度纏めて一気読みしないと混乱すること必至。まあしかし、安心して読めるのは良いですね。しかし、あまりの安定感にマンネリ化しないかが懸念されます。
尚、『猫物語』には黒と白がありますが、それぞれ独立した話で上下巻という訳ではないそうです。

No.16 6点 偽物語- 西尾維新 2019/07/21 22:00
“ファイヤーシスターズ”の実戦担当、阿良々木火憐。暦の妹である彼女が対峙する、「化物」ならぬ「偽物」とは!?台湾の気鋭イラストレーターVOFANとのコンビも絶好調!「化物語」の後日談が今始まる―西尾維新ここにあり!これぞ現代の怪異!怪異!怪異!青春は、ほんものになるための戦いだ。
『BOOK』データベースより。

上巻、手際よくエピソードを交えながら主要キャラを紹介していくのは、一種の読者サービスとも言えるでしょうが、シリーズ一作目から読みたくなってしまうような造りはあざとさも感じます。ただ、これによりいきなり本作から読み始めても大丈夫なように描かれているのは確かなようです。
上巻は阿良々木暦の上の妹の物語でありますが、読みどころは最終盤の激し過ぎる兄妹喧嘩で、その後の敵との対決はあっけなく終わってしまい、やや物足りなさを覚えますね。

下巻は下の妹の物語。本質的にはこちらが今回の根幹を成しているのだと思います。個人的にも下巻が好み、というか本シリーズが怪異を主眼としたものならば、誰もがこちらを推すのではないでしょうか。結末は確かに心動かされるものがありました。兄妹の絆、どんな形であれそれは美しく素晴らしいものだという思いに駆られます。
しかし、相変わらず言葉遊びが過ぎて、たまにちょっと寒かったりする会話の応酬が苦手な方は避けるべきかもしれません。ラノベと割り切ってしまえばそれはそれでいいのでしょうけれど。

No.15 6点 傷物語- 西尾維新 2019/05/10 22:11
全てはここから始まる!『化物語』前日譚! 全ての始まりは終業式の夜。阿良々木暦と、美しき吸血鬼キスショット・アセロラオリオン・ハードアンダーブレードの出逢いから――。『化物語』前日譚!!

安定の面白さですね。安心して読めますが、どこか突出したところがあるかと言うとそうでもない。でも程々にスリリングで、萌え要素に関しては文句の付け様がありません。
これは阿良々木自身の物語であり、彼が人ならざる人間に変身してしまった原因を描いており、シリーズにとって欠かすことのできない作品でしょう。そして忍野との出会いも勿論明かされます。阿良々木暦の人間性にも迫りますが、前作でそれ程目立たなかった感のある委員長羽川翼の存在が、何より大きいのは誰もが認めるところではないかと思います。実際私の中では好感度急上昇です。それなのに、阿良々木が彼女の気持ちに気付いていないかのような振る舞い、或いは本当に気付いていないのか?判りませんが、ちょっと酷すぎるのではないかと。
あとがきにあるように、『化物語』よりも先にこちらを読んでも全然問題ないと思います。ただ、こんな事があったのに何故他の女子を?という疑問を抱かざるを得ないかもしれませんね。

No.14 6点 化物語- 西尾維新 2019/04/05 22:19
阿良々木暦を目がけて空から降ってきた女の子・戦場ヶ原ひたぎには、およそ体重と呼べるようなものが、全くと言っていいほど、なかった―!?台湾から現れた新人イラストレーター、“光の魔術師”ことVOFANと新たにコンビを組み、あの西尾維新が満を持して放つ、これぞ現代の怪異!怪異!怪異。(上巻)

青春を、おかしくするのはつきものだ!阿良々木暦が直面する、完全無欠の委員長・羽川翼が魅せられた「怪異」とは―!?台湾から現れた新人イラストレーター、“光の魔術師”ことVOFANとのコンビもますます好調。西尾維新が全力で放つ、これぞ現代の怪異!怪異!怪異。(下巻)
『BOOK』データベースより。

怪奇譚とラブコメのハイブリッドって感じです。まあ突き詰めれば、西尾流の純愛小説になるんだろうなと思いますが。勿論、キャラクター小説としても秀逸です。
しかし、戦場ヶ原と神原の個性が強すぎる反面、語り手で主人公の阿良々木はどこか優柔不断で影が薄い印象を受けます。自身も怪異に関わった人間ではありますが、次々に怪異に襲われる女性キャラたちを前に右往左往、お世辞にも格好良いとは言えませんね。彼は凡庸ですが、それが逆にヒロイン達を際立たせているので、損な役回りなのかもしれません。それにしてもこのハーレム状態は羨ましい限り。「萌え」が好きな人にはお薦めですが、私の様なおじさんにはちょっとどうかと。
本当は7点でもいいかと思いましたが、取り敢えずこれがシリーズ一作目で基準となりますので無難なところで6点としました。

No.13 5点 りぽぐら!- 西尾維新 2019/03/23 22:11
リポグラムとは特定の語、特定の文字を使わないという制約のもとに書かれた作品のこと。
収録作品は『妹は人殺し!』『ギャンブル札束崩し』『倫理社会』のオリジナルとそのリポグラム版それぞれ4編の合計15編です。各々異なる平仮名10文字又は16文字を禁止ワードとし、それらを一切使わず同じ話4編を完成させるという、誠に奇矯で無謀な試みに挑戦した意欲作です。

オリジナル自体は面白いのですが、読者は全く同じストーリーを5回読まされることになり、いい加減飽きてくるのは致し方ないと思います。多少の忍耐力を要求されます。ただ、禁止ワードが異なることにより、作風も必然的に様々なものになり、例えればスープは同じで麺が違うラーメンを何度も食べるようなものって感じでしょうか。古文体であったり、耳慣れない単語を駆使したり、或いは造語を使ってみたりと苦労の後が伺えます。
段々レベルが上がって難易度が高くなっていくので、最後は何とか読解できるギリギリの線になってしまいます。特に「は」と「を」が禁止ワードに含まれている最終話はほぼ箇条書きに近く、これだけ読んだら疑問符の連続だったのではないかと思いますね。
システム上5編なのはやむを得ないですが、せいぜい3編位が限界でしょう。余程のファンでない限り正直キツイです。

No.12 6点 少女不十分- 西尾維新 2019/02/07 22:24
悪いがこの本に粗筋なんてない。これは小説ではないからだ。だから起承転結やサプライズ、気の利いた落ちを求められても、きっとその期待には応えられない。これは昔の話であり、過去の話であり、終わった話だ。記憶もあやふやな10年前の話であり、どんな未来にも繋がっていない。いずれにしても娯楽としてはお勧めできないわけだが、ただしそれでも、ひとつだけ言えることがある。僕はこの本を書くのに、10年かかった。

この異形の小説を前に6点という可もなく不可もない点数を付けるのは如何なものかと、正直思います。結論から言うと西尾維新ファン必読の書であり、とんでもない物語なのであります。その意味からすれば、私はダメ読者なのでしょう。
最初、自叙伝か私小説のような出だしで、これはドキュメンタリーなのかと勘繰りたくなりますが、明らかなフィクションです。ただ、己の内面や癖を吐露している数々の描写の何割かは、西尾維新自身本来のパーソナリティである可能性も否定できません。

極端に会話文が希薄で、他人には理解しがたい少女の行動と、こちらもいささか理解に苦しむところの多い主人公の心理状態と行動。こんなものを読まされて、一体どうすればいいと言うのでしょうか。しかし、序盤こそ読みにくいとか思っていましたが、それがやがて癖になるのは、多少なりとも作者に共感しているせいかもしれません。「変わっている」という感覚が、ああ解ると自分と重ね合わせている私の心持はやはり異常なのでしょうか。

No.11 6点 トリプルプレイ助悪郎- 西尾維新 2019/01/12 21:54
岐阜県の山奥―裏腹亭。偉大な作家・髑髏畑百足が生活していた建物に、その娘であり小説家である髑髏畑一葉はやってきた。三重殺の案山子―刑部山茶花―が送りつけた予告状から事件は始まる―。気鋭・西尾維新が御大・清涼院流水の生み出したJDCワールドに挑む!維新×流水=無限大。
『BOOK』データベースより。

前作『ダブルダウン勘繰郎』に比べて格段に本格度が増しています。しかも、今回はJDCの探偵が二人(正確には三人)も出てきてサービス精神も大いに感じます。だからと言ってJDCらしさが出ているかとなるとそうでもない気がします。まあ、作者が違うのだから仕方ないでしょうが、その代わり西尾維新の本領を発揮していると思います。
メインは密室ですが、トリックが意表を突くものでさすがにこれは見抜けないですね。さすが西尾、こうした本格ものを書かせても凡人の発想にはない才能を感じさせます。ただ、やや無理があると言えなくもありません。ご都合主義とまではいかなくても、んん?って感じの不自然さが気になります。

トリビュートもいいですが、九十九十九や龍宮城之介辺りを主人公にしたパスティッシュも読んでみたいですね。

No.10 6点 ダブルダウン勘繰郎- 西尾維新 2019/01/10 22:07
京都―河原町御池交差点。蘿蔔むつみはそびえ立つJDC(日本探偵倶楽部)ビルディングを双眼鏡で一心不乱にみつめる奇妙な探偵志望者・虚野勘繰郎とめぐりあう。―それが過去に66人の名探偵の命を奪った『連続名探偵殺戮事件』の再起動と同調する瞬間だとは思いもよらずに…!?新鋭・西尾維新が御大・清涼院流水の生み出したJDCワールドに挑む。
『BOOK』データベースより。

推理小説というより探偵小説でしょうね。短いのと主要登場人物が4人と少ないこともあって、ストーリー性にはあまり期待できません。しかし、その中にも仕掛けとトリックを盛り込んで、上手く纏め上げている感じです。物語の抑揚はしっかりしていて、ちゃんと見せ場はあります。スマートさと破天荒さが上手くミックスされているように思います。
JDCに欠かせないスケールの大きさはありません。それよりもキャラクターに特化しており、それぞれの個性やスタンス、物事のとらえ方、考え方等を大切にしているのだと思います。それは各自の台詞によく表れており、探偵というなんだかよく分からない職業に対する作者なりの解答なのかもしれせん。

トリビュートとは言っても、JDCの名だたる名探偵は出てこないため往年のファンにとっては寂しいかもしれませんね。まあ一人だけ人気の黒衣の名探偵が友情出演してますけど。勿論名前は明かされませんよ。それが西尾流ってことなのだと思います。

No.9 6点 きみとぼくが壊した世界- 西尾維新 2018/07/02 22:18
(若干のネタバレがあります)

これはアレですね、あのパターンです。私は好きです、まあ作中作がお好みの方にはお勧めできると思います。勿論、構成が酷似しているあの名作には遠く及ばないですが、それくらいの遊び心があってもいいじゃないという、広い心で許してしまえる作品ではあります。でも、なぜかしら章を重ねるごとにネタ割れして、耐性が出来上がって来て、作者の目論見がショボく感じられてしまうのも確か。

ミステリ的には小技を地味に積み重ねて一篇の長編に仕上げました、という体裁になっています。特筆すべきは最初の不可能犯罪ですよ。実に魅力的な謎を提示していて、とても好感が持てます。これをどう合理的に解決するのか非常に興味深く、掴みは有り余るほどグッドですね。ただ、真相はまあこんなものかなという程度にとどまります。他にもそこそこのトリックを駆使しての本格ミステリに仕上がっていると思います。

全体を通してのイメージはイギリスへの卒業旅行へ行ったような行かなかったような、事件も解決したようなしなかったような、そして最後のオチはそれかいって感じでしょうか。
それにしても、弔士君に比べて様刻君も黒猫もごく普通の人間なのかなと思えてきます。蛇足ですが、これらの名前が一々変だと以前書きましたが、それは当方の考え違いというか、認識不足だったのをここに明記しておきます。ファンの皆さまにはお詫びのしようもございません。

No.8 7点 不気味で素朴な囲われた世界- 西尾維新 2018/06/01 22:26
これは好き嫌いがはっきり分かれるタイプですね。私は好きですが、道理が通らない小説に嫌悪感を抱く読者は許容範囲を超えるかもしれません。その原因は、UFO研究会の奇人三人衆の奇矯な言動や、何より主人公串中弔士の変態的な、或いは○○○○のような思考回路に大いに違和感を覚えるためと思われます。一方、ラノベファンにとっても微妙でしょう。許せるか許せないかは、各キャラの濃すぎる個性をどう捉えるのかに掛かっている気がします。

私が最も気になったのは、余計なお世話かも知れませんが、弔士の病院坂迷路の表情を読み取るだけで微細な部分にいたるまで何を言わんとしているかを理解してしまう能力ですよ。まあ、この世界観を前にしては、確かにそれは無粋になるわけで、そういう堅いことは言いっこなしとなってしまう可能性も大いにありますがね。
畢竟タイトルからも分かるようにこのシリーズには独自の「世界」が存在しているので、それを前提に読み進めないとお話にならないのだと思います。

全体の流れは、最初延々と奇人変人たちの競演が続き、このまま終わってしまったら嫌だなと思っているところにようやく殺人事件が起こります。さらには連続殺人事件へと発展し、唐突にエンディングへと突入します。
中学生が起こした殺人事件だけに、意外と単純なトリックは病院坂迷路と弔士の捜査であっさりと解明され、なんだかなあとか白けていたりすると必ずうっちゃられますよ。意外すぎる真相と動機、お見事です。

No.7 7点 DEATH NOTE アナザーノート ロサンゼルスBB連続殺人事件- 西尾維新 2018/05/24 22:24
ロサンゼルスで起きた連続猟奇殺人事件。休職中のFBI捜査官の南空ナオミはこの事件の捜査依頼を、世界的名探偵Lから受け入れた、というか受け入れざるを得なかった。第一の現場に向かうナオミは竜崎と名乗る私立探偵に出会い、協力して捜査に当たるのだが。

ページ数の割に値段が高いですが、これには理由があります。まず普通の単行本よりも一回り縦も横も長い、そして文字が細かいうえに二段組みとなっているということです。全体的にスペシャルでゴージャス感が漂う、凝った装丁になっています。集英社にもそれだけ力が入っている証左だと思います。
私は『デスノート』は映画しか知りませんが、読み終えるのに支障は全くありませんでした。原作を読んでいない、映画も観ていないという方でも十分に楽しめると思います。

西尾維新にしてはガチガチの本格ミステリです。いつもの作風とは結構かけ離れていると思います。ただ、軽妙さはどことなく感じられ、そこに若干の重厚さが加味されているような印象です。
ノベライズですが『デスノート』に関連していると言えるのは、死神の目とラストだけで、中身はほぼ西尾氏のオリジナルと考えて間違いないだろうと思います。内容に関しては興が削がれる可能性が高いので触れずにおきます。おそらく西尾維新のファンにも、『デスノート』のファンにも受け入れられる作品でしょう、断言はできませんが。

No.6 7点 掟上今日子の挑戦状- 西尾維新 2015/10/03 20:22
基本に忠実に描かれた本格ミステリとの印象が強い。それは取りも直さず、西尾維新がまぎれもなくミステリ作家であるという証左に他ならない。本シリーズは年内に二作も上梓されるそうなので、なお一層の期待が持てそうだ。
だが、本作は設定もプロットもストーリーもぶっ飛んだものはないので、全体的にやや小ぢんまりとした感じは否めない。それと、ところどころにちょっとした疑問点が散見されるのが気になる。例えば第一話では、そもそも死者に対して義理も借りもないのに、わざわざアリバイまで作って偽装するのはなぜなんだろう。最終話のダイイングメッセージを残す理由も納得がいかない。まあこの場合、今日子さんの推理は大変面白かったが。
とは言え、相変わらず読者に対して良心的かつ、「忘却探偵」という特殊な設定ゆえの独特の世界観があって楽しませるエンターテインメントに仕上がっているのは間違いないだろう。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 他多数
採点傾向
平均点: 6.02点   採点数: 1768件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
島田荘司(25)
西尾維新(25)
アンソロジー(出版社編)(23)
京極夏彦(22)
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