海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

江守森江さん
平均点: 5.00点 書評数: 1256件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.596 4点 蝶たちの迷宮- 篠田秀幸 2010/01/31 04:17
クズミス・ダメミスを代表する作品、一部では既読作品中で最悪との評価まである。
怖いもの見たさで読んでみた。
読了しても全く納得いかず破綻している「読者が犯人」設定の為に、精神分裂治療の描写と第二部が存在するが無駄に長いだけで不要と断言できる。
上記の部分を省き、更に簡潔かつ普通なメタ&アンチミステリであれば、これ以降に書かれた作品に通じ、伏線や論理部分に見所もあり水準レベルな本格ミステリに仕上がっただろう。
作者のクズミス方向への情熱がほとばしり、読者をないがしろにしている作品で「よくぞ商業出版された」との変な驚きを感じた。
※要注意!!!
読むにあたって疲弊する事を覚悟して下さい。
但し「虚無への供物」を普通に読めたなら、心配無用。

No.595 4点 探偵映画- 我孫子武丸 2010/01/31 00:42
メタ設定で作中人物の一人が他の作中人物達を騙す→ある意味で究極な形の叙述トリック。
しかし、映画制作の過程で用いると、余りにベタで結末が解ってしまい驚けない。
書かれた年代を考慮すれば同情の余地はあるが‘この手’の騙しなら道尾の方が格段に手慣れていて上手い。
もっとも、驚きを求めず、映画制作のドタバタ系ユーモア小説としてなら充分楽しめる。
(テレビの二時間ドラマに毒された視点からだが)ここまでして犯人役をやりたいものなのだろうか?

No.594 6点 本格ミステリの王国- 評論・エッセイ 2010/01/31 00:10
本格ミステリ論・創作論・トリック論などをエッセイとして各所に発表した物に新たなエッセイを追加して纏めた物。
今後短編集に収録しない宣言付きな学生時代の習作短編も同時収録。
一番読み応えがあるのは「トリックの創り方」で、テキストとしての作品紹介も参考になる。
私的に、江神シリーズ以外の小説をさして評価していない作家ではあるが、根本的なミステリ嗜好は同系統なので作者の評論やエッセイは非常に楽しく読め共感できる。
このエッセイでも触れられている「安楽椅子探偵」の新作を早く観たいものだ!
(前回みたく全国ネットでの放送を切に願う、それか以前の再放送込みでAXNミステリーでの放送でもいい)

No.593 8点 天才までの距離- 門井慶喜 2010/01/30 02:04
この本を読みながら、神永はぽつりと、たしかにこうつぶやいた「・・・・・甘い」・・・・・こんな書き出しで書評したくなる作品。
美術品の真贋を舌で見分ける(ある種の超能力設定)天才美術探偵・神永美有を主役にした連作短編集の第二弾。
やや尻すぼみ的(その為に満点にしなかった)で一冊で終了を思わせるラストから、期待しながらも続編は無いと思っていた(私が知らなかっただけでオール讀物にポツリと掲載されていた)
先ずは、表題作で前作でのラストで生じた物理的&心理的二つの距離を逆手に取る形で新たなシリーズ展開をしてみせた作者に脱帽し、賞賛を贈る。
更に、今作では全編に渡り熟成された展開の妙とさり気なくも卓越した技巧が味わえる。
細かな内容に触れずに「是非とも読んで下さい!!」と手放しで賞賛し満点(8点)を献上する。
この先どこまで洗練されるか期待感も大きく、シリーズ継続も決定的で嬉しい。
日常の謎系列作品の頂点に到達しうるシリーズではないだろうか!!
※余談
出版社が文藝春秋な点からも、次期の直木賞候補に挙がるのではないだろうか?(私的に直木賞の選考に対する踏み絵になる作品だと考えている)
※余談の追記(7月2日)
残念だが、直木賞候補に挙がらなかった(直木賞と嗜好が相容れない事がハッキリした)

No.592 8点 お待ちなせえ- 梶山季之 2010/01/30 01:31
はっきり言って贋作製造を巡る古城での冒険場面以外はミステリー的要素の無い作品。
夫婦関係・画商の世界のドロドロした関係をユーモラスに描いたドタバタ半生記。
実在の画壇人物をモデルにした登場人物達のエピソードだけを読んでも充分に楽しい。
作者最大の持ち味である文学的素養の欠片すら感じさせない大衆的な熱気と新鮮さからくる抜群のリーダビリティが一番発揮されていると思う。
※私的に小説の面白さ、読書の楽しさを認識した原点的作品で無条件に満点(8点)を献上する、但しミステリー的要素の薄さを考慮して思い入れ加点は控えた。
一般大衆小説での採点なら10点。

No.591 4点 早稲田の森殺人事件- 藤原宰太郎 2010/01/29 01:00
ミステリー研究家で名探偵の久我京介シリーズの一作(生憎シリーズの全貌は知らない)で植木等主演で二時間ドラマにもなった。
「トリックに著作権はない」を体現するネタバラシ推理クイズ作家にマトモなオリジナルトリックが考えられるはずもない。
しかし、転用やアレンジはお手の物と言わんばかりに上手く纏めている。
はなしの種に読んでみるのも悪くないかも。

No.590 3点 世界の名探偵50人- 事典・ガイド 2010/01/29 00:48
作者は、漫画「金田一少年の事件簿」「名探偵コナン」登場以前の時代、イタイケナ子供達に「本格ミステリ」の普及とネタバラシをもたらし、功罪併せ持つ。
この本は作者がチョイスした世界の名探偵を50人紹介しながら推理クイズでトリックをバラす作者の典型的作品。
この作者は、推理クイズで古典的名作をほぼ網羅しながらトリックを作品名付きでネタバラシしているので、古典作品をジックリ読みたい方には有害作家で要注意!!
逆に、今更古典を読むなんてまだるっこしい事はしたくないが現代の作品を読む参考にトリックだけでも知っておきたい方には打ってつけで、類似の推理クイズ本なら図書館の書庫や古本屋にあるので一読を勧める。
※採点は「トリックに著作権はない!」を体現した代表作としての評価よりネタバラシの弊害を考慮して3点にした。

No.589 4点 予告殺人- アガサ・クリスティー 2010/01/26 22:01
これまたドラマを2種類観た作品。
だらだらしたドラマを観てから図書館でおさらいするとスラスラ読めて実に楽チン。
内容的には同じマープル物の水準作「ポケットにライ麦を」に及ばないレベルで先の方々同様にクリスティーの代表作ではないと思う。
図書館でのおさらいで、クリスティー作品が殆ど貸出されず棚に並んでいる事に寂しさを感じた。
それでも、書庫にしまわれず手に取れる辺りがミステリーの女王ではある。

No.588 4点 黄色いアイリス- アガサ・クリスティー 2010/01/26 21:28
ポアロ・マープル他諸々、バラエティーに富むと褒めるより纏まりに欠ける印象の方が強い短編集。
クリスティーは基本的に短編より長編の方が技巧が冴えている印象が強い。
ポアロ物の表題作をドラマで観たので、これもおさらいしてきた。
ドラマで大量にクリスティー作品に接すると「意外な犯人」設定が‘まったく’意外に感じられなくなる弊害が生じる事に今更ながら気付いた。
逆に言えば自分がポアロになった気分を味わえてもいる。

No.587 4点 書斎の死体- アガサ・クリスティー 2010/01/26 21:13
※私事だが「奇術探偵ジョナサン・クリーク」(海外ミステリドラマ)の年末年始一挙再放送を観たくてAXNミステリー(スカパー)を1月だけ契約した(これで12~1月のふた月視聴可)
オマケ的にホームズ・ポアロ・マープル・フロスト警部・バーナビー警部のドラマも大量に録画視聴中。
そこでファジーな読書月間を独自に企画し実施中。
これもドラマで先に観た(なんと2種類)
2女優の違ったマープルを観る以外に見どころがなく、図書館でのおさらいでも新たな発見は無かった。
やっぱりポアロの方が好きだ。

No.586 5点 ポケットにライ麦を- アガサ・クリスティー 2010/01/25 07:34
先日ドラマを観たので図書館でおさらいして来た。
見立て連続殺人の処理と犯人指摘後のもう一つの真相は上手いが、動機と真犯人の意外性はありきたりだった。
ファジーに楽しむ姿勢なため、マープル物はポアロ物に比べれば技巧的でないので映像だけでも良いと思えた。
更に言えば私的にマープルよりポアロの方が好きでもある。

No.585 7点 綾辻行人と有栖川有栖のミステリ・ジョッキー2- アンソロジー(国内編集者) 2010/01/23 21:45
本の構成は第一集の書評に記した通り(参照の事)
アンソロジーとしては、超絶技巧作品・連城三紀彦「親愛なるエス君へ」(技巧を楽しむ小説と割り切らないと嫌悪感を抱く可能性もあるので注意!!)と犯人当て企画作品・大川一夫「ナイト捜し」の二編が読めるだけでも価値がある。
又、第5回での「陽の伏線」「陰の伏線」の話や作例、第7回での叙述トリック論や本格ミステリに求める驚きと納得の融合等々、収録作品のネタばらし有りの対談部分もミステリを読み進む指針になりうる内容で読み応えもある。
本格ミステリ好きには絶妙な企画なので継続中なのが嬉しい。

No.584 6点 古都に棲む鬼女- 風見潤 2010/01/23 11:03
シリーズ第三弾は村歌舞伎を題材にした連続殺人物。
相変わらずの親切設計で、村や舞台図の添付もある。
歌舞伎の演目に似せた章題も洒落ている。
前二作と同様に「読者への挑戦状」が付されているが、今回はトリックよりもロジカルなフーダニットに重点が置かれ、地味で淡白な印象の作品になってしまった。
又、ダイイングメッセージもありきたりだった。
それでも、さり気ない伏線と気付きをロジカルに組立てた一本道での犯人到達は素晴らしく、私的な嗜好ではシリーズ一番だと思っている。
これでシリーズ終了なのが非常に惜しまれる。
※作者の最近の作品は図書館に大量にあるので、埋もれた傑作がないか?あたってみる予定。

No.583 6点 死を歌う天狗- 風見潤 2010/01/23 10:32
※シリーズ共通のコメントは「喪服を着た悪魔」に記載。
第二弾は数え唄に見立てた連続殺人物。
村や屋敷図の添付、容疑者リストの記載、更に「読者への挑戦状」とパズラー本格好きには涎物。
さり気ない伏線、見立て殺人の目的、足跡のトリック、ダイイングメッセージの考察、更にダミー推理まである贅沢さでジュヴナイルの域を超越している。
※以下ネタバレ注意!!
ここまで絶賛しながら満点(8点)にしなかったのは、一番の作品テーマである見立て殺人の目的が(バリエーションに限りあるが)鮎川哲也「りら荘~」の転用だった為に採点を抑えたから。

No.582 6点 喪服を着た悪魔- 風見潤 2010/01/23 09:53
「本格ミステリ・フラッシュバック」で紹介され、未見の読者挑戦物なので是非とも読みたかったジュヴナイルシリーズの第一弾。
「ソノラマ文庫」で出版以降再販されていない為、東京23区内の図書館所蔵も私の知る限りシリーズ各一冊づつしかない。
他地区お取り寄せで念願が叶った。
実にオーソドックスなコード型本格で、一部のジュヴナイル向け説明文以外は大人向けに勝るとも劣らない。
※(以上、シリーズ共通のコメント)
離島、黄金伝説、連続殺人に「読者への挑戦状」更に島や屋敷図まで添付され至れり尽くせりな本格ミステリでジュヴナイルだからと埋もれているのが惜しい。
タイトル、さり気ない伏線、監視下の密室トリックと何拍子も揃っていて非常に楽しい。
自分がジュヴナイルだった出版当時に、このシリーズに出会えなかった事が残念極まりない。
※以下ネタバレ注意!!
タイトルの秀逸さから犯人を察せるジレンマが生じているので採点を抑えた。

No.581 5点 クリスマス・プディングの冒険- アガサ・クリスティー 2010/01/17 14:30
表題作を含めてポアロが登場する短編はドラマを先に観るファジーな読書を実践してみた。
ポアロ(スーシェ)のイメージが浮かび、なんとスラスラ読める事だろう!
表題作はドラマ版では「盗まれたロイヤル・ルビー」とタイトル変更されているが楽しい作品の一つだろう。
クリスマス・プディングが日本人のイメージするプリンとは別物で幸運の当たりクジ付きな事をこの作品で知った。
「スペイン櫃~」「負け犬」等、粒ぞろいな作品集。

No.580 5点 豪華客船エリス号の大冒険- 山口芳宏 2010/01/17 10:20
「本格おとぎ話」な推理活劇シリーズの第二弾。
乱歩の通俗探偵小説さながらに「怪人対名探偵達」が描かれ前作同様に楽しめる。
フーダニット・トリック・ストーリーは乱歩の通俗探偵小説からの寄せ集め(殆ど土ワイの明智シリーズで観た)とアレンジで、懐かしい反面オリジナリティに欠けレベルダウンは否めない。
一方、終戦後間もない時代設定だが、作中で語られる作者の現代視点での探偵小説論が乱歩との決定的な違いで本書の肝でもある。
その辺りを軸にした動機面の構築と方向性は作者の持ち味で良い。
今回登場する敵役「夜叉姫」は、最後の二行で本シリーズに於ける「乱歩の怪人二十面相の如き存在」と宣言される。
その点からも作者は書く気満々な感じだが、果たして読者に受け入れられシリーズ継続されるのだろうか?

No.579 7点 雲上都市の大冒険- 山口芳宏 2010/01/16 11:01
鮎川哲也賞受賞作で‘島荘’が選評で「本格おとぎ話」と評した非常に楽しい推理活劇。
二人の探偵のおバカなキャラクター・舞台設定・物語は、おどろおどろしさを除いた正史、或いは乱歩や彬光の少年探偵物を思わせる。
「不可能脱獄」トリックの不道徳かつナンセンスな方向性と、同様な方向性で披露される途中のダミー推理から、優れたバカミスと賞賛したい。
しかし(私的には何ら問題ないが)能天気かつリアリティのなさが突出し過ぎな感は否めない。
又、工夫して上手く見せているが、ダミー推理から結末に至る全てのトリックを結構見掛け、寄せ集め感が漂う。
よって、満点(8点)にはしなかった。
応募作の時点で受賞を前提にしたかの様なシリーズ化宣言にも作者の方向性が現れている。
※方向性の問題を別にすれば「バカミス」は、優れた本格ミステリに対する褒め言葉である事を、この作品の鮎川賞受賞が証明したと思う。

No.578 4点 長い家の殺人- 歌野晶午 2010/01/15 10:51
発表当時、このレベルの作品を傑作と褒め「薦」まで書いてデビューさせた‘島荘’に不信感を禁じ得なかった。
しかし、‘島荘’の呪縛から開放され現在も生き残った推薦組が、本格ミステリの主流をなす現状に「島荘の推薦」の意義を認めざるを得ない。
さて作品だが、消失トリックは、そこらの推理クイズレベルだし、新本格で流行ったプロローグのミスリードもミエミエ過ぎて小賢しい。
暗号解読に至っては興味すら湧かない。
何とも褒めようがない作品だが作者の熱気は伝わる。
そして、この作品と「葉桜~」や「密室殺人ゲーム」を読み比べて作者の進化過程を知るのは楽しい。
その為にだけ存在していると言っても過言ではないだろう!

No.577 6点 リピート- 乾くるみ 2010/01/11 23:17
人生をリピート出来る特殊設定で人間本来の欲やエゴや悪意を描いたドタバタ小説(リプレイ)にプラスして、リピートした人々が順次死亡する(そして誰もいなくなった)設定にミステリ的仕掛けを絡めた作品。
ミステリ要素が仕掛け一発で「イニシエ~」程には再読する気にならない。
しかし、自分がリピートしたらどうするか?を想像しながら読んだので非常に楽しめた。
※余談(私の想像)
記憶がそのままで何度もリピート出来るなら、その時代までに発表されたミステリ作品を全てあたって、最後は競馬で儲けてリピートせずに以降もミステリ三昧な生活がしてみたい。
この様なやり直し設定の作品が、殆どバッドエンドなのは倫理的にしょうがないのだろうか!
「人生はゲームの如くリセットは出来ないから一生懸命生きろ!」なんて説教臭いから嫌だ。

キーワードから探す
江守森江さん
ひとこと

※「読書(ミステリ)は趣味で娯楽」「相容れない主張(嗜好)は、どこまでも平行線」を標榜している。
※多くの作品に接する努力として、映像化作品で済ます等々、ファジーな方法を常に模索している(本質的...
好きな作家
高木彬光、天藤真、平石貴樹、古野まほろ (ミステリーに限定しなければ一番は梶山季之...
採点傾向
平均点: 5.00点   採点数: 1256件
採点の多い作家(TOP10)
雑誌、年間ベスト、定期刊行物(52)
高木彬光(32)
アガサ・クリスティー(30)
梶山季之(30)
東野圭吾(28)
事典・ガイド(26)
リチャード・レビンソン&ウィリアム・リンク(23)
芦辺拓(21)
アンソロジー(出版社編)(21)
評論・エッセイ(18)