皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
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平均点: 5.44点 | 書評数: 2877件 |
No.2377 | 6点 | 運命の証人- D・M・ディヴァイン | 2021/05/30 22:34 |
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(ネタバレなしです) 全13作の長編を残したD・M・ディヴァイン(1920-1980)ですが1968年発表の第7作の本書からドミニク・ディヴァインというペンネームを使うようになります(理由はわかりません)。非常に構成に凝った本格派推理小説で、主人公が2件の殺人事件の犯人として告発されている場面で始まり、第一部では6年前の第1の事件に至る人間ドラマ、第二部では現在に起きる第2の事件に至る人間ドラマ、第三部では法廷シーンが描かれ、さらに第四部へと続きます。被害者が誰なのか明かすのを遅らせたり主人公が逮捕される経緯説明を最低限にしたりと実験的な試みが見られます。これが効果的かどうかは微妙な気がしますけど。謎解きと人間ドラマの両立はこの作者ならですが、主人公に不倫の道を歩ませているところは読者の好き嫌いが大きく分かれそう。あと創元推理文庫版の日本語タイトルも悪くはありませんが、英語原題の「The Sleeping Tiger」の方がよかったような気がします。 |
No.2376 | 5点 | 巨匠を笑え- ジョン・L・ブリーン | 2021/05/29 00:03 |
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(ネタバレなしです) 1967年から1981年にかけて発表された20作に新作2作を加えて1982年に出版されたパロディ短編集です。ちなみにハヤカワ・ミステリ文庫版はオリジナルが日本であまり知られていないという理由で2作品がカットされてしまい20作品が収められてます。私は本格派ばかりを選り好みしている偏狭な読者で、エド・マクベインやディック・フランシスやダシール・ハメットをそもそも読んでいないのでそれらのパロディ作品がどれだけオリジナルの雰囲気に近いのか全くわかりませんでした。本格派ではエラリー・クイーン風の「リトアニア消しゴムの秘密」でタウンという人物に向かって「これは災厄(カラミティ)だ、タウン」と言わせてるのは(クイーンの某作品を知る身としては)笑えましたが。クリスティー風の「2010年のポアロ」はSF設定を謎解きに巧妙にからめてますが時代背景を原典と変えているパロディーは好き嫌いが分かれるかも。ホック風の「消えゆく町の謎」はある意味腰砕けのトリックですが、登場人物をがっかりさせる先回りのユーモアで読者を上手くはぐらかせていますね。 |
No.2375 | 4点 | 毛皮コートの死体-ストリッパー探偵物語- 梶龍雄 | 2021/05/28 06:56 |
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(ネタバレなしです) ストリッパーながら探偵の素質をもつチエカを主人公にした1985年出版の第1短編集で、1982年から1985年にかけて発表された6作品を収めています(このシリーズは長編1冊と短編集2冊が書かれています)。本書あたりから通俗趣味の作品が増えていくのは出版社の要請なのか作者のねらいなのかはわかりません。本書のあとがきで「やはり本格の知的興奮は欲しい」と本格派推理小説へのこだわりを見せているのは評価したいところですが、個人的にはベッドシーン豊富な通俗的雰囲気は好みではありませんでした。「熱海に来た女」での「おもしろい証拠」なんかはいかにもストリッパー探偵ならではの着眼点ですけど。 |
No.2374 | 6点 | 枯れゆく孤島の殺意- 神郷智也 | 2021/05/23 22:42 |
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(ネタバレなしです) 神郷智也(かんざとともや)(1986年生まれ)の2009年発表のデビュー作である本格派推理小説です。孤島と館の組み合わせは国内本格派推理小説においてはもはや珍しくないですが(中には食傷気味と感じる読者もいるかも)、早々と自白する犯人という設定がなかなか目新しいです(もちろんこれで解決というわけではありません)。タイトルにも使われている、島の植物が次々に枯れていくのはなぜかという謎解きもユニークで、専門用語が色々と使われますが説明は(時々回りくどくなりますが)わかりやすいです。殺人の謎解きにも凝ったどんでん返しが用意されています。島の地図や館の見取り図は付けてほしかったですね。強引で雑然としているように感じるところもありますがなかなかの力作だと思います。 |
No.2373 | 6点 | 第八の探偵- アレックス・パヴェージ | 2021/05/21 07:10 |
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(ネタバレなしです)英国のアレックス・パヴェージの2020年発表のデビュー作です。本格派推理小説ではありますがハヤカワ文庫版の紹介通り「破格」な作品です。奇数章が短編ミステリー、偶数章では読後の作者と編集者による会話という構成をとってます。それぞれの短編はどれも個性的ですが微妙なもやもや感、時には不条理を感じさせており、更に偶数章で作品の矛盾や不自然さが指摘されながら明快な回答を得られないまま次へ進むという展開で読ませます。千街晶之による充実の巻末解説(本書から連想されるミステリーが40作近くも紹介されています)の「フェアな謎解きよりは、作中作があるミステリだから可能な仕掛けを追求した」という評価がまさにぴったり。読者が真相当てに挑戦できるスタンダードタイプの本格派でないので不満を覚える読者もいるとは思いますが、ここまでやるのかというどんでん返しの印象が実に強烈です。個人的には「アンフェアな謎解きなのでアウト」と単純に切り捨てられなかった作品です。 |
No.2372 | 5点 | ワイングラスは殺意に満ちて- 黒崎緑 | 2021/05/16 22:11 |
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(ネタバレなしです) 1989年に発表された、お洒落なタイトルが印象的な本書は黒崎緑(1958年生まれ)のデビュー作である本格派推理小説です。私には縁のない高級ワインや贅を尽くした料理名が散りばめられてますが、ほとんどが名前のみの登場でどれだけ美味しいのか想像をかきたてるところまでいかない描写なのは少々残念です。警察が事件の話をしているのに容疑者がワインや料理のことしか考えずに話が噛み合わない場面があるのはユーモアのつもりかもしれませんが、どちらかと言えば話の流れを悪くしているように感じました。軽い作品のようでいて謎解きが意外と丁寧なのはいいのですけど、使われているトリックを警察(と鑑識)が見抜けていなかったのは信じがたいです。あと余談ですが舞台となるレストランの名前に「フィロキセラ」(大量発生して葡萄畑を壊滅させることもある害虫)をつけているセンスも信じがたいです(まあヨーロッパでは蠅の名前を付けている高級レストランもあるのですけど)。 |
No.2371 | 5点 | 幸運は死者に味方する- スティーヴン・スポッツウッド | 2021/05/14 07:03 |
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(ネタバレなしです) ジャーナリストで劇作家である米国のスティーヴン・スポッツウッドの小説第1号が2020年発表のペンテコスト&パーカーシリーズの第1作である本書で、ハードボイルドと本格派推理小説のジャンルミックス型のミステリーです。作中時代は1945年、高額な依頼料を受け取り警察も一目置く探偵のミズ・ペンテコストとその助手で語り手のウィル・パーカーというコンビはどこかレックス・スタウトのネロ・ウルフとアーチー・グッドウィンを連想させます(本書のは女性探偵コンビですけど)。燃える密室内の死体という、クリスチアナ・ブランドの名作短編「ジェミニー・クリケット事件」(1968年)を彷彿させる事件の謎はとても魅力的ですが不可能犯罪の謎解きの醍醐味はほとんどないし、トリックも読者をがっかりさせるものです。推理説明も論理的でなく、誰が犯人でも代わり映えしないように思えました。探偵の成長物語としては面白い作品ですが謎解きとして弱いのが残念です。 |
No.2370 | 5点 | 殺人の仮面- ブレット・ハリデイ | 2021/05/10 00:16 |
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(ネタバレなしです) 米国のブレット・ハリディ(1904-1977)は1920年代後半から非ミステリーも含む様々なタイプの作品を書いていましたが出世作は赤毛の私立探偵マイケル・シェーンシリーズ第1作の「死の配当」(1939年)です。このシリーズ、大変な人気を誇りハリディ自身はシリーズ長編を29作発表して1958年に実質断筆したようですがその後もゴーストライターによる(ハリディ名義の)シリーズ続編が40作近くも書き続けられました。さて本書は1943年発表のシリーズ第7作ですがハヤカワポケットブック版の裏表紙では「タフ・ガイ探偵マイケル・シェーン!」とか「ハードボイルドの傑作!」とか紹介されていてこれだけだと本格派好きでハードボイルドやサスペンス苦手の私にとっては敬遠候補なのですが、本サイトで人並由真さんが謎解きミステリとして評価できるとのご講評なので試し読みしました。第6章や第8章の描写は紛れもなくハードボイルドだし、第14章でシェーンに「ぼくは犯人を知っていて、サスペンスをもりあげるためにわざと黙っている小説の探偵とは違う」と語らせたりと本格派とは一線を引いていますが、力ずくではなく謎解き伏線の回収に配慮しながら事件を解決しています。犯人の正体よりも大胆な犯行計画の方が印象的な作品でした。 |
No.2369 | 6点 | 赤死病の館の殺人- 芦辺拓 | 2021/05/09 23:10 |
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(ネタバレなしです) 2001年発表の森江春策シリーズ第2短編集です。趣向を凝らした本格派推理小説の中短編4作品が収められていますが、光文社文庫版で150ページ近い中編の「赤死病の館の殺人」はトリックが印象的ですけど目撃者が気づかなかったというのはどうも信じにくいですね。あと謎解き議論の中で森江が「いただけない」と却下した推理の説明が中途半端。先人トリックのネタバレに配慮したのかもしれませんが、「星影龍三」を引き合いに出しているだけでは置いてきぼりの読者も多いのではないでしょうか。(エラリー・クイーンの某作品を意識した?)締め括りの説明も読者に対してちょっと不親切な気がします。個人的なお気に入りはプロットの独自性が光る「深津警部の不吉な赴任」です。 |
No.2368 | 6点 | 最後の賭- ハロルド・Q・マスル | 2021/05/08 04:13 |
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(ネタバレなしです) スカット・ジョーダンの行動は弁護士というよりも私立探偵を印象づけることが多いのですが、1958年発表のシリーズ第7作である本書の前半ではいかにも弁護士らしい活躍を見せています。依頼を受けた事件はバーで殴られた男が意識不明の重傷を負うというもので加害者も明快にわかっています。ジョーダンの役割は加害者を保釈させるというのですからこれは確かに弁護士ならではの仕事ですけどミステリーのネタとしては面白くありません(テンポのいい文章のおかげで退屈はしませんが)。ところが中盤になって様相は一変し、ジョーダンは私立探偵向きの依頼まで引き受けることになります。この後半では行動範囲が広がり登場人物も増えますが、ジョーダンは解決へのアイデアも思い浮かばぬまま終盤を迎えます。しかしこの終盤で劇的な展開があり、そこからジョーダンが怒涛の推理で大胆なトリックを見破り犯人を一気に追い詰める場面はまさに謎解きのクライマックスです。リーガル・サスペンス、ハードボイルド、本格派推理小説を上手にブレンドしており、シリーズ代表作と言ってもよいのでは。 |
No.2367 | 6点 | 鎖された夏- 大西赤人 | 2021/05/07 17:10 |
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(ネタバレなしです) 大西赤人(おおにしあかひと)(1955年生まれ)は中学卒業後に14歳から書き溜めた短編をまとめた「善人は若死にする」(1971年)で文壇デビュー、その後も短編作家として活躍しますが1983年に発表された長編作品の本書(当時は「熱い眼」というタイトル)は何と本格派推理小説でした。光文社文庫版の巻末解説を土屋隆夫が書いていますがそこでは「論理の面白さ」と「文学精神」を賞賛しています。大黒柱を失い誰が後継者になるかを巡って微妙な関係にある財閥一族が山荘に集い、一族を抹殺するという脅迫状が舞い込むという古典的な設定は私の好むところですが物語のテンポが案外と遅いです(最初の事件がなかなか起きない)。犯人を特定する手掛かりはそつなく織り込んでいますが推理説明よりも犯人の自白の方が長いのが特徴です。この自白は印象的ですがそこに至るまでは他の容疑者も含めて登場人物の心理描写にはほとんど踏み込んでおらず(20人以上に300ページ少々のボリュームでは人物描き分けには十分でないのでは)、個人的には本書は普通の本格派推理小説で、文学性は特に感じませんでした。ミステリーと文学性の融合を追求した土屋ならではの思い入れは解説から伝わってきましたけど。 |
No.2366 | 7点 | 世界ミステリ作家事典[ハードボイルド・警察小説・サスペンス篇]- 事典・ガイド | 2021/05/06 14:35 |
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2004年発表の本書は「世界ミステリ作家事典 [本格派篇] 」(1998年)と同等、むしろこのジャンル(つまり本格派以外)に焦点を当てたという点で希少性では上回るのではと思います。但しTetchyさんがご講評で述べられているように本格派篇とは温度差があるように感じます。本格派篇の方ではそれぞれの作家のここがいいんだというアピールに熱意があり本格派ファン読者を開拓しようという意気込みまでが伝わってきたのですが、ジャンルの幅が広がった本書が分業制で制作されたのはやむを得ないにしろ、本格派篇のような熱意は少ないように思います。まあ私自身が本格派篇や本書と出会う以前から本格派ばかりを追い求めている偏屈な読者なので、本書に対する姿勢がどこか冷めていたのも否定できませんけど(笑)。 |
No.2365 | 4点 | 秘密の多いコーヒー豆- クレオ・コイル | 2021/05/03 14:49 |
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(ネタバレなしです) 2007年発表の「コクと深みの名推理」シリーズ第5作のコージー派ミステリーですがやはりコージー派らしく推理要素は薄く、場当たり的な事件解決は物足りません。今回は本物のコーヒーと遜色ない味わいのカフェインレスコーヒーとそれを巡る秘密めいたビジネスが物語の中核です(本書に登場するカフェインを含まないコーヒーの木は架空の話ですけど)。そこに相変わらずの複雑な家族ドラマが絡みます。女性にだらしないくせにクレアとクィン警部補の関係には神経を尖らすマテオは個人的に好きになれませんが、クレアの根掘り葉掘りの質問責めにうんざりするのも何となく共感します(笑)。日常生活よりもビジネスにフォーカスしているプロットなのでコージー派にしてはやや硬い印象を受けました。 |
No.2364 | 5点 | 第三の女- アガサ・クリスティー | 2021/05/03 08:29 |
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(ネタバレなしです) 1966年発表のエルキュール・ポアロシリーズ第30作の本格派推理小説です。タイトルに使われている「サード・ガール」については当時の英国の生活スタイルと関わっていることが作中で紹介されていますが、大御所(悪く言えば過去の作家)のクリスティーなりに現代性を織り込んでいることをアピールしたかったのかもしれません。なかなか事件らしい事件が起きず、過去の(起こったかもしれない)殺人についてもはっきりしないという設定で引っ張る展開は了然和尚さんがご講評されているように退屈と感じる読者も多いのではと思います。大きな事件が起きるのがかなり後半で、起きたかと思うとあっという間に解決で長編作品としてはバランスが悪い印象を受けました。解くべき謎が定まらないままに謎解きを進めるプロットは斬新と言えば斬新なのですが、成功かというと微妙ですね。 |
No.2363 | 5点 | ホック氏・香港島の挑戦- 加納一朗 | 2021/05/01 08:33 |
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(ネタバレなしです) 1988年発表のサミュエル・ホックシリーズ第3作でシリーズ最終作です(正確には2018年にシリーズ短編が1作出版されてますが)。前作の「ホック氏・紫禁城の対決」(1988年)の後日談にあたりますが前作を読んでいなくても十分に楽しめます。本書では本格派推理小説の要素は全くなく、純然たる冒険スリラーと分類してよいのではと思います。本格派好きの私としてはそこが個人的に残念なのと、ホックを助ける張警補の無双ぶりは頼もしい限りですがあまりにも活躍が目立ってホックの存在感が準主役級に降格してしまったように思えます。エピローグではついにホックの正体について(シリーズ第1作の「ホック氏の異郷の冒険」(1983年)からみえみえではありますけど)言及されます(証拠はないと予防線張ってますが)。 |
No.2362 | 6点 | 家政婦は名探偵- エミリー・ブライトウェル | 2021/04/30 07:40 |
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(ネタバレなしです) 米国のエミリー・ブライトウェル(1948年生まれ)は複数のペンネームでロマンス小説やヤングアダルト小説を書いていますが、ミステリーは1993年発表のジェフリーズ夫人シリーズ第1作の本書が最初の作品です。舞台はヴィクトリア朝英国で(作者の夫が英国人なのでその影響でしょうか?)、人は好いが探偵能力には疑問符が付くウィザースプーン警部補を家政婦のジェフリーズ夫人を筆頭に使用人集団がサポートする本格派推理小説です。アマチュアですから捜査や警察情報の入手には工夫が必要、ウィザースプーンに恥をかかせぬようストレートに真相を伝えるのではなく自分で気づくよう誘導するのにも工夫が必要というのがこのシリーズの特色のようです。この特色だとストーリーが回りくどくなりかねないですがテンポはスムーズで非常に読みやすかったです。警察の信じがたい落ち度がありますけど(第10章で判明)、シャーロック・ホームズが活躍したヴィクトリア朝ということで許容範囲? |
No.2361 | 5点 | 豪華客船エリス号の大冒険- 山口芳宏 | 2021/04/25 22:51 |
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(ネタバレなしです) 2008年発表の本書は「雲上都市の大冒険」(2007年)の続編にあたる作品で本格派推理小説と冒険スリラー小説のジャンルミックス型であるところも共通してますが、前作が本格派要素の方が強かったのに対して本書は冒険スリラー要素の方が強いように思います。それは探偵のライバル的存在として伝説の犯罪者を登場させたことも一因でしょう。前半は抑え気味ですが中盤からは怒涛の展開です(相当にご都合主義な展開に感じましたが)。使われているトリックに既視感があり、チェスタトンや島田荘司の焼き直しに感じられてしまうのが残念です。最後の活劇シーンも明らさまにコナン・ドイルのパロディーでしょう。ワトソン役の殿島が「これはフェアじゃない」と怒った挙句に読者に対して「代わって」謝るのは作者としても色々な意味でやり過ぎたことを意識したのかもしれません。 |
No.2360 | 6点 | <羽根ペン>倶楽部の奇妙な事件- アメリア・レイノルズ・ロング | 2021/04/19 22:03 |
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(ネタバレなしです) 米国のアメリア・レイノルズ・ロング(1904?-1978)は1930年代後半から1950年代前半にかけて約30作のミステリーを書いた女性作家です。本書は1940年発表の犯罪心理学者トリローニーシリーズの本格派推理小説で、キャサリン・パイパー(女性なのにピーターと呼ばれる理由が本書で紹介されています)と初めて出会います。というかピーターを語り手役にして彼女の視点で描かれる物語のため、トリローニーの出番はかなり抑えられています。作品のほとんどが貸本出版社からの出版ということからか日本では「B級アメリカン・ミステリの女王」というレッテルを貼られてしまったようですが、派手な展開と雑な仕上げの安手のスリラー作家とは違うように思います(別名義も含めれば30作近く書いたので、中にはB級臭い作品があるのかもしれませんが)。本書で事件が起きるのは中盤近く、それまでは何かが起きそうな雰囲気をじっくりと醸成する地味な展開でB級らしくありません。16章のようにスリラー要素が強烈な場面もあるとはいえ、推理による謎解きにしっかり取り組んでいて伏線も結構豊富です。作者はピーターを気に入ったのかトリローニーとの共演作を本書を含めて4作書き、更にはピーターが単独で活躍する作品もあるそうです。 |
No.2359 | 5点 | ファイナル・オペラ- 山田正紀 | 2021/04/19 08:27 |
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(ネタバレなしです) 2010年から2011年にかけて雑誌連載されて2012年に単行本化されたオペラ三部作の最終作である本格派推理小説ですが、過去2作が回想されることもなく探偵役の黙忌一郎もいつのまにか登場していつのまにか退場するところも変わらず最終作的な演出は感じられません(第4作が書かれてもおかしくない)。タイトルにオペラを使っていますが西欧的な要素は皆無で、むしろ本書では能の世界が濃厚に描かれて和風テイストが非常に強いです。謎や怪現象が沢山提出されているところはいいのですが語り手の証言がとらえどころがなくて幻覚ではないかと思わせており、その幻想性も作者らしいのではありますがミステリーとしては勘違い系の腰砕け真相の可能性を残して物語が進むのは賛否が分かれそうな気もします。登場人物の名前が非常に覚えにくいのも辛いところです。それでも合理的な推理で謎が次々に解けていきますが最後は幻想の彼方にという幕切れです。私の理解力ではハードルが高過ぎる作品でした。 |
No.2358 | 3点 | ゆがんだ光輪- クリスチアナ・ブランド | 2021/04/14 19:10 |
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(ネタバレなしです) コックリル警部シリーズ第6作の「はなれわざ」(1955年)は地中海に浮かぶ架空の島国サン・ホアン・エル・ピラータを舞台にしていましたが本格派推理小説としての謎を全面に押し出していて島社会の描写はほとんど目立ってませんでした。しかし1957年発表の続編的な本書(但しコックリル警部は登場しません)はサン・ホアンの社会問題を巡って様々な思惑が交差します。とはいえハヤカワポケットブック版は半世紀以上も前の古い翻訳だし、そもそも架空の国ですから読者は何の予備知識もないし、肝心の社会問題が宗教問題なのでとっつきにくく、何よりもミステリーらしくないプロット展開なのが私には苦痛でした。ようやく第8章で大公が大司教につきつけたとんでもない難題と徐々に準備される陰謀計画で少しずつ盛り上がり、最後の宗教劇的な締め括りも印象的ではありますがもやもやした謎ともやもやした推理の謎解きですっきり感がありません(そもそも私は十分に理解できませんでした)。雪さんのように真価を見出せる読者がうらやましいです。 |