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[ 法廷・リーガル ]
十二人の怒れる男
劇・脚本
レジナルド・ローズ 出版月: 1995年07月 平均: 6.67点 書評数: 3件

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劇書房
1995年07月

No.3 7点 2011/04/28 11:41
シドニー・ルメット監督の追悼読書です。

映画を数回観ているし、巻頭の映像写真や陪審員の説明文を見ながらの読書だったので、読み進むうちに映像も筋も思い浮かんできました。感情を露わにした陪審員たちの討論は、シナリオでも十分に読み応えがあります。残念なことは、あっけないほど短いことと、大好きな裁判所前のラストシーンがなかったことです。たしかにシナリオだけではたよりないですね。未読の方は、映画を観てから読むことをお薦めします。

この映画、ミステリとしてよりも感動のシリアスドラマとして記憶に刻まれています。今回はミステリ目線で読み、ミステリとして楽しませてもらいましたが、リーガル物ならではの無罪解明のロジックは、フーダニット物とは違った心地よい安堵感を与えてくれました。最初に映画を観たときも、そんなところに感動したのかもしれません。
ただ、話の中にも出てくるように、これだけ疑問だらけなら裁判官が再審理したほうがいいのでは、とも思いましたが。

子供の頃、それまでアメリカ映画の主人公といえば、逞しく行動的な正義派という印象しか持っていなかったのですが、この映画を観て、なかには誠実で真面目で物静かな主人公たちもいるんだなと認識したものです。映画の影響で、第八号を演じたヘンリー・フォンダを長い間、善良で、不器用なほど誠実で真面目なアメリカ人の代表格だと思い込んでいました(私生活はどうだったのかは知りませんが)。
(もうひとつ余談ですが)子供の頃、この映画を「十二人のイカレタ男たち」と言って家族に笑われたのを思い出しました。国内のパロディ版にありそうです(笑)。

No.2 7点 おっさん 2011/04/12 16:58
アメリカの映画監督シドニー・ルメット死去(享年86)のニュースが伝わってきました。
氏の代表作は『オリエント急行殺人事件』――ではなく、やはりなんといっても、1957年制作の『十二人の怒れる男』。なので、追悼の意味をこめて手元のビデオを見返すとともに、昔、買ってきたまま“積ん読”の象の墓場に消えた、レジナルド・ローズの戯曲版を捜しだしてきて、読了しました。
額田やえ子訳で1979年に刊行された、劇書房版です。

父親殺しの容疑で起訴された、不良少年の審議が終わり、裁定を委ねられた陪審員たちが、陪審室へ戻って来る。状況証拠は圧倒的に被告に不利であり、評決は簡単に一致するかに思われた。しかし、たった一人の勇気ある発言からドラマが動き出し、明白に見えた事件が様相を変えていく・・・

本格ミステリの尺度から評価すれば、手掛りのあと出しに問題はありますが(事前に裁判の過程を視覚化すれば、フェアプレイは実現できるが、それではこの、時空間限定型の緊密なドラマ構成が崩れてしまう)、その弱点を、老人陪審員の観察力・洞察力という設定の工夫でカバーし、そこから主人公の推理につなげる流れには、知的な興奮があります。
額田氏によるセリフの翻訳はとても読みやすく、字数制限のあるビデオの字幕翻訳より、ディスカッション・ドラマの面白さを詳細に伝えてくれ、作品理解が深まりました。
また、番号でしか表記されない陪審員たちの個性を、セリフだけで書き分けていく作劇の技術も、訳文の良さで際立ちます。
しかし。
このテキストには、江守森江さんもレヴューでコメントされているように、大きな問題があって・・・(最低でも8点は付けたいのですが、それゆえの減点です)

『十二人の怒れる男』は、もともとTVドラマとして、1954年に制作されました。そしてその脚本を担当したローズが、翌55年に、これを舞台用の三幕劇に脚色したのが、本書の「原作」に相当します(巻末の編集部の「付記」の文章内容とは、異なりますが、調べた結果、これが正しいと考えます)。
そして前述のように、「十二人」は57年にルメット監督の手で映画化され、評価を決定づけますが、その脚本もローズの手になるわけで、訳者の額田氏は<劇書房ベストプレイ・シリーズ>の一冊として本書を訳すにあたり、舞台用台本に、部分的な相違のある(あって当然ですが)映画シナリオをおりまぜてストーリーを再構成する、折衷版としました。
カバーのデザインやスチール写真の利用からも、“名作映画の舞台化”のイメージで本書を売るための、妥協であることは明白です。
額田氏による(編集部主導の)「脚色」を、原作の改竄と非難するのは酷でしょう。しかし、オリジナルに即した上演台本の新訳を読んでみたいと思うのも、事実です(ハヤカワ演劇文庫あたりで、どうか?)。
そして、ローズの最終稿ともいえるシナリオの翻訳も、それとは別に読めるようであってほしい。
『十二人の怒れる男』は、単に“往年の名画”にとどまらず、ミステリ劇の構造とテーマ性の融合において、いまなお新しく(裁判員制度の導入された日本では、とくにね)、また汎用性の高い、現代の古典なのですから。

No.1 6点 江守森江 2011/03/03 05:21
私が観て知っていたのはリメイク・ドラマ版でNHKで放送した作品だった(これも素晴らしいが今でも視聴可能かは不明)
本作の原点な生放送ドラマのフィルムは博物館展示品でリマスター版は米国限定発売らしい。
そして、つい先程一番有名で日本でも出回っているモノクロ(字幕版)映画版のVHSテープ(図書館貸出)を巻き戻し再生も交えながら本書(脚本)と平行して視聴&読書してみた。
正にリーガル・サスペンスな密室劇の原点で素晴らしい映画だった。
これは、映像・舞台関係者なら是非手掛けたくなるので脚本家などの更なるアイデア転用も致し方あるまい(←三谷幸喜「12人の優しい日本人」など結構観ている)
しかし脚本単独では(冒頭に映画写真・陪審員No.付もあるのに)イメージが非常に喚起できない(番号な陪審員の性格とセリフの一致に戸惑う)
また舞台脚本用でもある為に翻訳独自で細かな改変もある。
正味140ページの薄い脚本なので時間の無駄にはならないが映画単独で楽しむのがベストだと断言してしまおう。
元が脚本しか存在していないが、どうせなら翻訳のついでに三谷幸喜か芦辺拓などにノベライズして貰えていれば小説単独で楽しめたかもしれない。
映画は満点(8点)だが、どうも脚本は味気ない。


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レジナルド・ローズ
1995年07月
十二人の怒れる男
平均:6.67 / 書評数:3